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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その18 ~ウンディーネの加護~

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~ウンディーネの加護~ 13

 盛り上がりも一通り終わり、各々がそれぞれの目的に戻った頃になって、ようやくリュートが戻ってきた。

 その手に持っていたのは不気味な木の人形で、布の服を着ているのだが、その細部は適当な作りだ。指は親指があるだけで人差し指から小指はくっついている。足はもっと酷く、膝関節があるだけで、あとは固定されていた。ちょうど椅子に座った形に固定されており、その用途が余計に意味不明になる。

 もちろん、顔と呼べるものは無い。ただ木のノッペラボウがどこかを見ていた。


「リュートさん、それは?」


 合流したところでリルナが質問する。なかば答えは予想していたのだが、とりあえず聞いておいた。


「パペットマスターです。もちろん本体じゃないですが……逃げられましたね」


 効けば、椅子に車輪の付いた乗り物に乗っていたそうで、金属で作られた車輪がカラカラと音を立てていたそうだ。魔力の糸をつかい自在に動いていたそうだが、残念ながら追っていたのは身代わりの人形だったようで、本体には逃げられたとリュートは語る。


「じゃが、パペットマスターは目撃情報でも報酬が出る。それに加えて奴の人形まで手に入れたとあれば、それなりにお金は出ると思うのじゃが?」

「もちろん分け前は払いますよ。僕はそんなにケチな人間じゃない」

「そりゃ安心や」

「そうじゃ」


 かかか、とサクラが笑い、あっはっは、とメロディが笑う。ヘンタイにトドメが刺されなかったことにリルナはちょっぴり肩を落とすが、それでも笑った。なんにしても、お金が手に入ることは悪くはない。この遠征だって無料で来たわけではないのだ。


「それにしても……まさか本当にパペットマスターに会えるとは思ってもみませんでした」


 リュートの言葉にリルナは、あぁ~、とうなだれる。


「確かにのぅ。召喚士とはそういう存在なのか?」


 何気なく言ったメロディに対してリルナは顔を青くした。


「じょ、冗談じゃないよっ! これで縁が切れると思ったのにしっかり捕まえてよ、リュートさん!」

「え~、僕が悪いのかい!? まぁ、捕まえきれなかったのは僕のミスだけど」

「う~……レベル90近くでも逃げられるって、誰だったら捕まえられるのさ、あれ」

「いや、次は大丈夫。二度と同じ手にはやられないさ」


 問題は次があるかどうか、だけど。と、リュートは肩をすくめた。


「どういった方法でやられたんや?」

「僕が追い駆けた先にいたのは、元から人形だったんだよ。各場所に魔力の糸を中継させて、その基点に人形を置いておく。その人形は恐らくだけど見えないような糸で操ってるんじゃないかな?」

「あ、うんうん。そういえば、人形に糸は見えなかった」


 今まで何度とパペットマスターと人形を見てきたリルナだったが、確かに、とうなづく。人間や大きな人形をあやつるときには魔力の糸が見えるが、その本体を装う人形に糸は見えなかった。


「あとは、声ですね。人形から聞こえてくるものですから、てっきり本人だと思ってしまって。捕まえたときには、すっかり遠くに逃げてしまった後です。かなりのクセモノですねぇ」


 はぁ、とリュートはため息を吐く。なにより、これからこのそこそこ重たい人形を持って帰らないとお金にならない、という事実はなかなかにつらい。


「ま、がんばって帰りますか」


 よいしょ、とリュートは木偶人形を背負う。もとからそうだったように、おんぶしてフィットするような足の形だったので、思わずリルナは笑ってしまった。


「笑わないでくださいよ。罰としてリルナさん、僕の荷物もってくださいね」

「う……ごめんなさい。もちま~す」


 自分のバックパックを胸の前に背負って、リュートのすこし大きなバックパックを背中に背負った。ソロ冒険者の悲しいところは荷物が多くなること。簡易テントと寝袋や鍋、保存食などの生活必需品に加えてロープやランタン、その油や遺跡ダンジョンで必要になる白地図といった冒険者セットも同時に持ち歩かないといけない。パーティを結成すると、それらを分担できるのだが、リュートはすべてひとりで持ち歩いていた。


「あぁ、妾も荷物を持って城の中を延々と歩いたのぅ。つらい修行じゃった」


 メロディの言葉にリルナとリュートは、うんうん、とうなづく。


「訓練学校でもやったよね」

「えぇ、この重さに慣れるのは一苦労ですよ」


 一応は冒険者、というわけで、リルナも重さにふらつくことなく持って見せた。それに感心したのはサクラだけ。


「いや、荷物ゼロで旅をするサクラがおかしいんだからねっ」

「重いと対処が鈍くなるからなぁ。これも嫌なんやで、ほんまは」

「はいはい、文句いわないっ。いっしょのパーティでしょ」

「そやな」


 最年長者が一番軽い、というのは納得のいかないところかもしれないが、元々はお爺さんなので、実は正解なのかもしれない。

 そんなことを話しながらも、一同はもう一度ウンディーネに挨拶をしてから帰路へとつくことになった。

 その道中で、リュートはこっそりとリルナへと質問する。


「リルナさん。あの巨大な水の巨人と戦っていた際に、ホワイトドラゴンを呼ばなかったみたいですが……その理由はありますか?」

「ん?」


 その言葉を受けて、リルナはリュートの隣に並ぶ。


「ん~、今回もあったんだけど、召喚術って不完全なんですよ」

「不完全……ですか?」


 ほうほう、とリュートは興味深くうなづく。


「喚び出されれる側が拒否できるんですよ、召喚術って。だから、誰も来てくれない時があるかもしれないんです。だからね、できるだけリーン君には頼らないで勝てるようになったらいいな~って」

「なるほど……切り札というわけですね」

「そうなるのかな? とにかく、絶対に力を貸してくれる大精霊だけで勝てるようにならないと、って思ったんです。なので、リーン君はできるだけ召喚せずに戦えればいいな~って」


 あと、あの子ぜったいに文句言うし……と、リルナがつぶやく。いつも眠い眠いとあくびをしているホワイトドラゴンは、成長期なのかはたまた怠け者なのか。それは定かではないが、ともかくとして冒険者としての心構えであり、不安定な要素をできるだけ取り除いた戦い方をしたのが、今回の戦闘だった。


「だとするならば、召喚士とは益々不人気な訳が理解できました」

「うっ」


 そうですよね~。こんな魔法なんてね~。役立たずなんですよね~。と、リルナはいじいじと肩を落とした。


「あ~ぁ、でも便利なんですよ~。記憶さえ消されてなければなぁ、きっともっと召喚士はいたはず」

「記憶ですか?」

「はい~。あ、リュートさんは召喚士を知っていたんですよね? 大陸には召喚士がいるとか?」

「いえ、いませんよ」

「うわ~ん、やっぱり私ひとりなんだ~」


 まぁまぁ、とリュートは苦笑する。


「リルナさんの活躍は聞き及んでいます。きっとあなたに憧れて召喚士を目指す人も出てくるんじゃないでしょうかね」

「ホント?」


 と、リルナはキラキラと瞳を輝かせてリュートを見たのだが……彼は持ち前の観察力と動作を発揮して、彼女の視線を見事に避けた。


「ひどーいっ!」

「あははは……まぁまぁ、保障はできませんけれど。がんばってくださいね、応援していますから」


 そういうと、リュートはメロディへと話しかけていた。

 なんだか優しいお兄さんという感じがして、リルナは微笑む。


「うん、今回も楽しい冒険だったな~」


 う~ん、と伸びをして空を見上げる。

 天気は晴れ。

 ウンディーネの加護も無事にもらって、リハビリも終了。加えて、パペットマスターの報酬もそこそこもらえるだろう。

 次の冒険はどんなことになるのか。

 期待に小さな胸を躍らせながら、空をながめるのだった。


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