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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その18 ~ウンディーネの加護~

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~ウンディーネの加護~ 5

 翌朝。

 日の出よりも少し前に起きたリルナとメロディは手早く準備を朝食を済ませると、惰眠を続けるサクラを引きずり起こした。


「ん~、まだ朝ごはん食べてへんやん……」

「寝てるサクラが悪いよっ」


 よくこんなので旅人が続けられたなぁ、なんて思いながらサクラを引っ張りつつリュートと待ち合わせ場所に到着する。


「おはようございます」


 朝から爽やかに挨拶するベテラン冒険者と挨拶を済ませると、四人は乗り合い馬車へと乗り込んだ。目的地は冒険者訓練学校なのだが、残念ながら直通の馬車は無い。近くの集落まで馬車で移動し、そこからは歩きか出入りの商人をつかまえるしかなかった。


「初めまして、ですね。サクラさん」

「ん~、なんやこのイケメン。ほんまにイケメンやないか」


 サクラは目を細めてリュートの顔を凝視する。ようやく目が覚めたのか、それなりに整った顔のリュートを見て、ケッ、と不満をあらわにした。


「そこまでイケメンではない……と、思いますが」

「いやいやウチには分かるで。お前さん、相当に女を泣かせてきたやろ。ウチの若いころとソックリな顔しとるで」

「嘘だ~っ!」


 リュートではなくリルナがそれを否定する。もっとも、魔女の呪いで性別が反転したというサクラの顔は美少女のそれ。元々が整っていた、という話は本当なのかもしれない。


「っていうか……この中で普通のわたしだけなんじゃ。うぅ……せめて元爺には勝っておきたかった」


 メロディもお姫様というだけに綺麗な顔立ちをしており、なにより金色の髪はサラサラで流麗だ。イケメンと美少女の中にひとり平凡な顔のリルナはちょっぴり落ち込んでしまう。


「いやいや、リルナもかわいいで。ウチの経験上、リルナみたいな娘のほうが将来は安泰や」

「そうじゃの。朴訥というか素朴というか。こう、安心できる顔じゃな」

「そうですね。かわいらしいですよ」


 まぁまぁ、と整った顔の三人に言われてもリルナは納得できない。なにせ、ほとんど上からの意見にしか聞こえないのだ。


「どうせ平凡だよっ! 高嶺の花じゃなくて、花壇で咲いてるぐらいが丁度イイっ!」


 うがー、と叫んだところで美少女に生まれ変われる訳もなく、あとは馬車に揺られるだけの時間が始まるのだった。

 メロディの膝枕でサクラがまたウトウトと夢の世界に旅立ち、リルナは懐かしい風景を、メロディは初めての風景を楽しみ、リュートは静かに過ごし、やがて乗り合い馬車は小さな集落へと到着した。


「ありがとうございましたっ」

「あいよ、気をつけてな冒険者様~」


 御者のおじさんに運賃を払って四人は集落へと入る。ちょっとした柵で覆われているが、ノンビリとした集落で、見張り台である櫓すら存在しない。農業がメインなのか、家の数よりも畑のほうが多かった。

 残念ながら食堂や宿屋が無いので、代わりに食材屋さんを訪れる。そこで野菜と肉を買って、集落の広場でお昼ごはんを作ることにした。


「召喚、サラディーナとウンディーネ」


 木々を組み、リルナは火の大精霊と水の大精霊を召喚する。料理に火と水は欠かせないのだが、ウンディーネに会いに来たのにウンディーネを召喚してしまうのは、どうにも本末転倒な感があり、苦笑するしかない。


「ほぉ……便利ですね、召喚術」


 水の持ち運びや面倒な火熾しが簡単に済ませられるのを見てリュートは感心する。


「でしょでしょっ! 召喚術ってスゴイ! って、リュートさんの国でも宣伝してください」

「そうですね。ここまで便利だとみんなも納得するでしょう」

「みんな?」


 誰のことだろう、とリルナは質問した。


「あぁ、いえ。知り合いのことです。召喚術にも興味があったみたいですし」

「あれ、リュートさんの国では召喚術って一般的なの?」


 リルナは、世界で唯一の召喚士……と、思っていたのだが、それはもしかしたら群島列島タイワだけなのかもしれない。世界に名を轟かせていたリルナの父親の偉業が、遠い国では残っているのではないか、とリルナは期待したのだが、それはリュートによって否定された。


「いえ、一般的ではないですね。僕は、ある御方から存在を知らされました。こんな魔法があるよ、と。彼女は博識ですからね」

「それって、リュートさんの好きな人?」


 えぇまぁ、と彼は照れたように頬をかきながら答えた。


「ふ~ん……博識かぁ。もしかしたら――」


 ロード・ヴァンパイアとか召喚士の存在が消された事とかも知ってるかな? という言葉をリルナは飲み込んだ。その名前を出すだけで、視線を感じる。どれだけ自分のことが大好きなんだ、と叫びたい衝動に駆られる時もあるのだが、そんなことをしてしまうと寿命が一瞬にしてゼロになりかねないので我慢する。レベルが90に近いリュートといえど、ロード・ヴァンパイアには対処できないだろうし、迷惑をかけるわけにはいかない。と、リルナは首をブンブンと振って誤魔化しておいた。

 それでもリュートの思い人が気になったので、すこしだけ聞いてみる。


「その、リュートさんの好きな人って、頭がいいんですか? 召喚術のことも覚えてたみたいだし、その、いろいろと知ってるのかな~って思って」

「頭がいいっていうより……退屈が大嫌い、というのかな。常になにか新しいことを求めていて、楽しみを探している御方です。なので、興味があればすぐに行動にうつすので、知っていることや知識が多いのでしょう」

「へ~……なんか、お姫様っぽい」


 おとぎ話で出てくるおてんば姫のイメージがリルナの頭に浮かんだ。ついでにメロディの姿も思い浮かぶが、こちらはもうおてんばというより冒険者のイメージが強すぎる。どこの世界を探しても、嬉々として母親と修行に明け暮れるお姫様なんていないだろう。


「あはは、まぁ、そうですね」


 リュートは肩をすくめた。

 以前、彼は身分の違う恋と言ってたので、あながち相手がお姫様でもおかしくはない。


「ふ~ん、会ってみたいな~」


 リルナの言葉にリュートはちらりと視線をメロディへと向けた。彼女は食材である野菜を切る係りとしてかぼちゃと格闘している。ちなみにサクラは網を洗いに近くの井戸を借りに行った。


「いずれ会えると思いますよ」

「え?」

「退屈が大嫌いな御方ですから。あなた達のことは、きっと気に入ると思います」


 にっこりと笑うリュート。

 その真意を理解せず、リルナはノンキに、あはは、と笑うのだった。


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