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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
幕間劇

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幕間劇 ~酔っ払いに気をつけよう~

 静まり返った竜のしっぽ飲食会も終了し、お祭はにぎやかさを取り戻した。屋台で食べ物を売る商人はホクホク顔で料理を作り続けている。なにせ、女王の前払いは充分過ぎるほど。しばらく休みをもらって旅行にでも行ける金額だった。

 そんな中で、儲かっているのは料理を出す商人ばかりではなく、酒屋もそうだった。樽いっぱいに詰め込まれたエールや多種多様な果実酒を会場に運び込んでくる。コップやジョッキすら使いたい放題で、遠慮なくじゃぶじゃぶとお酒が注がれていった。


「はい、どうぞ~。あ、こっちも? どうぞどうぞっ」


 そんな中、リルナはすっかりと給仕に追われていた。なにがどうなって自分が冒険者たちにお酒を注いでまわっているのかサッパリと分からなくなってしまっているが、せっせと働く。メロディも同じく冒険者たちにお酒を注いでいるのだが、あちらは英雄担当。美少女たるお姫様が注ぐお酒と、平民で凡庸たるリルナのお酒では、やっぱり価値が違うんだろうな。なんて思いながら、リルナは自分のドレスを見下ろした。


「よう、偽お姫様」


 と、そんなリルナに声がかかる。ぺったんこの胸とドレスの隙間に難しい顔をしていたリルナは顔をあげた。


「げっ、スカイ先輩」

「げ、ってなんだよ、げ、って!」


 宿の先輩冒険者であるスカイスクレイパーズの四人がお酒片手にやってきた。先頭はもちろん、前衛魔法使いなんていう恐ろしい役目を務めているカリーナ・リーフスラッシュだ。今日も今日とて生傷が耐えないのか、右腕に包帯をしていた。


「先輩、また怪我してるじゃないですか」

「うるさいなぁ。名誉の負傷だ、名誉!」


 いつか死にますよ、というリルナの言葉に、カリーナは肩をすくめた。その後ろで、本来はみんなを守る壁役の騎士ロロエ・リンドールが申し訳ない顔をする。


「あ、ロロエ先輩の文句じゃないですからねっ」

「私の文句はいいのかよ!」

「うん」

「なんだとぅ!」


 わーわーぎゃーぎゃーと盛り上がるリルナとカリーナを、まぁまぁとなだめるスカイ云々のパーティメンバー。おっとりと優しい面々のため、やっぱり前衛は魔法使いのカリーナが務めるしかないのか、とも思えた。


「せっかくのドレスがリルナっちが着ててカワイソウに見えるな」

「年中まっくろなマントと帽子かぶってる先輩に言われたくないですぅ。くやしかったら、ドレスの一着でも着てみたらどうですかぁ~?」


 あ~ん、とばかりにリルナは挑発してみたところ、カリーナはその挑発に乗ってしまった。どうやらその右手に握られているお酒のカップは何度も空になった後だったらしい。


「おうおう、じゃぁそのドレス貸せよ」

「へ?」

「私のほうが似合ってるところ、見せてやろうじゃないか!」


 あっはっは、とご機嫌に笑いながら、カリーナはリルナのスカートに手をかける。


「な、なななななな、なにをするんですか、先輩!」

「脱げ! 私も脱ぐから!」

「いやです! 脱がないって! ちょ、やめ!」


 再びわーわーきゃーきゃーとなり、スカートをめくりあげられながらリルナは逃げ出した。もちろん、スカートに手をかけたままカリーナ先輩は追っていく。


「メロディ、助けてっ!」

「どうしたのじゃ? あぁ、先輩ではないか」


 メロディの後ろにまわったところで、ようやくカリーナはリルナのスカートから手を離した。


「よう、姫っち。こいつ、私にドレスは似合わないとか言うんだ。酷くない?」

「それは酷いのぅ。リルナよ、女は誰もが着飾る権利を持っておる。それを否定することは、たとえ神様であっても許されぬこと。と、いうわけで素直に脱いでみてはどうじゃ?」


 かっかっか、とお姫様は笑う。こんな時だけわざとらく貴族然とした笑い方であり、リルナは裏切り者、と叫んだ。


「あ、ちなみにリリアーナに言うなよ。マジで脱ぐから」

「あ、私もあの人の衣装を着る自信はないです、はい」


 簡易玉座の上では、今も濃厚で艶やかな接待を英雄殿が受けている真っ最中だった。少年冒険者の憧れがドンドンと捻じ曲がっていくが、彼らの将来の伴侶に期待するしかない。


「妾のドレスを貸してやりたいのじゃが、残念ながらサイズが合わなそうじゃしのぅ」

「それだったら、わたしのもそうじゃない!」


 年齢の差はもちろんなのだが、リルナの発育はかなり遅い。というか、すでに頭打ちをしている感がある。つまり、チビでぺったんこな訳で、普通に育っているカリーナとは、サイズ調整が難しそうだった。


「つんつるてんになっちゃいますよ」

「あぁ~、そうか……残念だ……着てみたかった……」


 カリーナはがっくりと肩を落とす。酔っ払いゆえの喜怒哀楽の激しさ。彼女の本音は綺麗になりたかったみたいだ。女性冒険者のさがなのかもしれない。


「……スカイ先輩。ポーションがありますよ。怪我を治しましょ」

「うむ。今度、メイド長に伝えておくので、スカイスクレイパーズのドレスも作ってもらうように頼んでおくのじゃ。そう落ち込むでない」


 と、ふたりが伝えると先輩の瞳がキラキラと輝いた。


「ほ、ほんとか!? ありがとう、お前ら。いい後輩なんだなぁ。うんうん、でも絶対にレベルは追いつかせないからな。ゆっくり冒険しろよ。お前らが休んでるうちにガンガンレベルあげてやるからな!」


 がし、とカリーナはリルナとメロディを抱きしめた。しかし、内容が内容なだけにリルナはぶぅ、と唇を尖らせる。


「やっぱこの先輩きらいっ!」

「まぁまぁ、落ち着くのじゃ。レベルで人の良し悪しが決まるわけではないしのぅ」

「冒険者の良し悪しは決まるよ!」

「……そうじゃな。酒に毒でも混ぜておくか」

「あ、いや、メロディさん? そんなこと言ってると神様から声とか絶対にかからないから」

「おっと……今のは嘘なのじゃ。本当は心の清い乙女じゃよ~。えへっ」


 空に向かってメロディはにっこりと笑ってみせる。きっと神様は見てないんだろうな、なんて思いながらリルナは苦笑した。

 その後、気持ち悪くなってダウンしたカリーナを介抱したり、相変わらず騒がしい冒険者にお酒を注いだりしながら、サヤマ城下街で最初のお祭は朝を迎えて自然と終わりを告げたのだった。

 ちなみに後片付けにはお城のメイドさんが総動員されてすぐに綺麗になったのだが、翌日の商人と冒険者は使い物にならず、静かな一日になったそうだ。


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