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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その17 ~ほのぼのとした冒険しない話~

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~英雄たちの帰還~

 その他、細かいことなどをローウェンに伝えていると、突然に会議室のドアが開いた。いや、その開け方はドアの耐久度試験でも味わったことのない勢いで、確実に修理が必要なレベルだった。現に上側の蝶番は外れて斜めになってしまっている。

 敵襲か、とも思われる勢いなのだが残念ながら動けたのはメロディだけだった。もしかしたら慣れているのかもしれない。その理由は簡単であり、ドアを開けたのは彼女の母親だからだ。


「やったぞお前ら! 今夜はパーティだ!」


 いつもご機嫌か不機嫌か、その両極端しかないサヤマ女王だが、今はご機嫌以上の感情を宿しているらしく、うひょーと小躍りをしながら会議室へと入ってきた。


「なにをしておる母上。見ろ、我が友人と客人が恐れおののいているではないか」


 ぶっ壊れたドアもそうだが、あまりにもご機嫌な女王を見るのはリルナも初めてであり、ローウェンともども呆気に取られるしかなかった。そもそも領主である彼女は一応ではあるが貴族なのだ。しかも国から特別に城まで与えられるほどの人物が酔ってもいないのでチャンカチャンカと踊っている。普通であれば悪魔の呪いを疑い神官が呼ばれる事態だ。


「はっはっは! どうしたリルナっち! あ~っと、お前はダサンの何だったか?」

「ろ、ローウェン・スターフィールドです。ダサンの街自警団の副団長を務めております……」

「そうか、ローウェン君! お前も参加していけ!」


 な、なにがです? と質問する前にローウェンはご機嫌なサヤマ城に背中を叩かれ机に突っ伏した。ピクピクと震えているのはよっぽど痛かったに違いない。


「落ち着くのじゃ母上。このままでは死人が出る」

「ならば神官を呼んでおけ! はっはっはー! いくぞメロディ、リルナ!」


 サヤマ女王はメロディを脇に抱え、逃げようとするリルナの襟首をつかむと、窓を足で蹴破る勢いで開け放ち、そのまま城の外へと出た。


「なになになに? なんなのっ、なんなの!? ぎゃあああああああ!」


 外へと出ると女王はぐぐっと踏み込む。そのままの勢いでジャンプすると、そのまま城壁を越えて神殿区へと着地した。と思ったら風をも追い越すスピードで走り始める。


「ひいいいいいい!?」

「あわわわわわわ」


 賑わう中央通りを少女ふたりを持ちながら走る女王。もちろん誰ひとりとして触れることはない。それこそ風のように人々や馬車の間を通り抜けていき、豪風を巻き起こす。なんだなんだ、と女王が通り過ぎたあとは騒ぎとなり、自然とその同行へ注目が集まった。

 中央通りを走りぬけたどり着いたのは北門だ。すでに日が落ちたあとは夜間警備の自衛員しかいない。二人組みの自衛員の立つ門でサヤマ女王はようやく足を止めた。


「さ、サヤマ女王とメローディア姫……と、召喚士のお嬢ちゃん?」


 いつものように警備にあたっていたおじいちゃん衛視は、突然やってきた女王様一同に驚いて口をはうはうと動かす。なにか事件でもあったのか、とも思ったがどうみても女王はウキウキとしているしお姫様と召喚士はドレスで着飾っている。


「いつもすまんな衛視の仕事。あなた方のお陰で街は平和だ」

「いやいや、もったいないお言葉です女王。それで、今日はどうして……」

「あれだ」


 リルナを持ったままの手でサヤマ女王は前方を指差す。少女程度の重さは意にも介していないらしい。小指だけでも持てそうな勢いだ。

 そんな女王の指差す先を見ると、チロチロとたいまつの明かりが見える。もちろんランタンの明かりも含まれているだろうが、どうやら冒険者の集団が帰ってきたようだ。

 訓練を行っていない衛視にはまだ見えなかったが、冒険者としてある程度の遠視と暗闇の中を見通すことのできるリルナとメロディには、彼らが皆一様に笑顔であり、どこか誇らしげな表情を浮かべているのに気づいた。


「あっ!」


 そして、彼らが引く荷車。そこに乗せられた太く不気味にも赤黒く明かりを照り返す鱗で覆われた尻尾。


「尻尾を切断したのか!」


 メロディが叫ぶ。リルナも気づき、興奮するように声をあげた。それに気づいたのだろう、衛視のおじいちゃんと若者も顔を輝かせた。


「そうだ! ウチの冒険者が成し遂げたぞ! 我が街の英雄さまの凱旋だ! 行くぞお姫様方、冒険者たちを祝い讃えるのだ!」


 女王は嬉しそうに叫ぶと街から飛び出す。もちろん、リルナとメロディを抱えたまま。跳ねるように女王は移動し、がっくんがっくんとブレる視界の中でもリルナははっきりと見た。

 荷車に乗せられて冒険者が引っ張っている物は、確実に火竜の尻尾だった。

 尻尾切り。

 それは冒険者にとっては憧れの偉業である。竜の鱗は硬く丈夫だ。その皮膚にたどり着くだけでも至難の業となる。並大抵の武器では鱗を剥がすこともできない。そんな恐ろしく防御力の高い竜の尻尾。それを切断するには優れた武器も必要な上に、高い技量も要求される。しかも竜にとって尻尾は武器だ。時に一撃で人間の命を奪いかねない攻撃を繰り出す、長く恐ろしい武器であり、大人しく垂れ下がっている訳ではない。

 それを切断することは、冒険者にとって、剣士にとって、憧れとなる。偉業となる。それは実力の証明でもあり、勇気の証明でもある。あの恐ろしい火竜に立ち向かい、凶悪な攻撃を耐え忍び、尻尾を切断するほどの武器と技量を兼ね備えた者。

 つまりは英雄だ。子供たちの憧れとなるヒーローだ。冒険者の鑑だ。


「よくやった! 誰だ、尻尾切りを達成したのは誰だ!」


 火竜退治はどうやら複数のパーティで成し遂げたらしく、大勢の人間が荷車を囲っていた。その前に立った女王が大声をあげる。


「俺です。女王、俺がやりました!」


 そんな中でひとりの青年が歩み出た。しかし、その体はボロボロだ。防具の類はすでに無く、衣服や皮膚のところどころは焼け焦げている。仲間に支えられてようやく歩けるようで、ヨロヨロとした足取りで女王の前に歩いてきた。


「見事だ! お前は我が街で最初の英雄だぞ!」

「あ、ありがとうございます!」


 青年は少しだけ泣きそうになりながらも、笑顔で礼を言い、そして拳を突き上げた。それを讃えるように、冒険者たちの声があがる。女王はリルナとメロディを降ろし、英雄を肩車した。


「じょ、女王。尻尾切りは、俺だけの力じゃないです。仲間があってこそです。あいつを」


 英雄の視線の先には、もうひとりボロボロの男がいた。彼の鎧は焼け焦げ融解したのか、鎧が脱げなくなっていた。盾だったと思われる金属の板の一部が握られたままになっている。あの中がどうなっているのか、なんて想像したくもない状態だった。


「メローディア、我が街の英雄を守りきった男だ。お前が支えるんだ」

「承った!」


 メロディは鎧の男に近寄る。そして母親と同じく、鎧の男を肩車した。


「お姫様に肩車される日が来るなんて思ってもみなかったぜ。あっはっは! 見ろ、こんなにも視界が広い!」


 鎧の男は動かないはずの融解した鎧を無理矢理動かし手を広げた。バキンバキンと金属のこすれる音は、英雄を讃える曲にも思えた。


「あ、あの~、サヤマ女王。わたしは何をすれば……?」


 連れてこられたものの、リルナはあくまでただの冒険者でありルーキーだ。彼らとは文字通りレベルが違うために、何をしていいのか分からない。女王も勢いあまって連れてきたらしく、何も考えていなかった。


「龍喚士の嬢ちゃんはここだろ!」


 と、そんな中で冒険者のひとりが火竜の尻尾を指差す。ドラゴンを呼び出す少女には、ドラゴンの上が丁度良い、という話なのだろうか。


「わ、わ、あわわわ」


 冒険者たちに担ぎ上げられ、リルナは尻尾の上にまたがった。ひやりとした鱗の冷たさと、やっぱりちょっと不気味で怖い。切断されているとはいえ、今にも動き出しそうな迫力に、リルナはちょっぴり怖くなって、縮こまってしまった。


「あはは! 龍を召喚できるといってもお嬢ちゃんはまだまだルーキーだな」

「ちがいない! かわいいぞ、龍喚士!」


 冒険者たちに囃し立てられてリルナとしては気恥ずかしい。それでも、英雄たちに囲まれて悪い気はしなかった。


「よぉし、お前ら! 胸を張れ! 英雄達の凱旋だ!」


 サヤマ女王は声をあげ、冒険者たちはそれに応える。掲げられる拳とたいまつを見て、女王とお姫様に肩車された英雄ふたりを先頭にして城下街へと進んだ。

 門の向こうではすでに噂を聞きつけた人々で賑わっている。もちろん冒険者の姿が大半であり、夜だというのに子供たちの姿も多かった。そして口々に英雄を讃える言葉を送る。


「お前ら! 今夜はパーティだ! 飲め歌え騒げ! 女王の驕りだぞ!」


 そして宴が始まる。

 サヤマ城下街の中央で、竜の尻尾を取り囲み、英雄たちを讃えるパーティが始まった。


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