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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その17 ~ほのぼのとした冒険しない話~

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~怒られたり、お風呂はいったり、ドレス着たり~

 リルナが海に落ちたこと、モンスターの襲撃にあったこと、そのふたつを加味し更にモンスターが集まってくる可能性を考えて、魚釣りを切り上げることにした。網の中にはメロディが釣り上げた魚が三匹。お城のメイドさんたちを満足させる量ではないが、サヤマ女王を満足させる量には達成しているはずだ。


「女王って言ってもそんなに食べないでしょ」

「うむ。そこは人間レベルじゃな」


 逆に他の人と同じ量しか食べていないのに、あの恐ろしい力はどこから生まれているのか。なんて疑問が浮かびはしたが、リルナはその考えを放棄した。考えたところで答えなんて分かるわけがないし、きっと本人だって知らないだろう。

 世の中、不思議なことはいっぱいある。その内のひとつとして片付けておいたほうが寝覚めは良さそうだ。

 ビチビチと跳ねる魚の網を体に結い、リルナの冒険者セットを背負ってからメロディはロープを登り始める。


「今日のぱんつは白なんだね」

「清潔じゃろ。リルナは履いておらんのか?」

「履いてるよっ!」

「もうすぐ脱ぐことになるじゃろうが」


 ケラケラと笑いながらメロディは登っていく。リルナは自分の濡れそぼった服と足に張り付くスカートを見てため息を吐きつつマキナを起動した。ベルトに釣竿を固定し、メロディと同じくえっちらおっちらとロープを登っていく。


「明日はスプーンも持てないかも……」


 日々の訓練はしているものの、自分の身を腕にだけ預けるような修練は積んでいない。それは前衛の役目であり、後衛であるリルナは周辺視野や素早さを重要視している。多少の筋トレはしているが、握力まではさすがに鍛えていなかった。


「ほれ、もう少しじゃ」

「はーいっ!」


 魔法によって強制的にロープを掴んでいるのだが、それでも自分の肉体だ。しびれるような手のひらと腕の疲れに辟易しながらも、なんとかお城まで戻ってこれた。


「はぁ~、疲れた~っ」


 ぷるぷると震える両手をひらひらと振りながら、リルナはべちゃりと座り込む。濡れた衣服は思った以上に動きにくく、重く感じた。


「お帰りなさいませ、お姫様、リルナ様」

「うっ、メイド長……」


 サヤマ女王の許可は出ていたが、メイド長からの冒険禁止令は解かれていない。それなのに戦闘行為をしてしまった為に怒られるのではないか、とリルナとメロディは身を縮ませた。


「ふぅ……まったく女王も困ったものです。自分の娘とその友人が可愛くないのでしょうか」


 嘆息しながらもメイド長は笑顔で言った。つまり、許してくれた、ということだ。


「無茶は止めてくださいね、姫様」

「うむ」

「リルナ様も、どうぞご自愛くださいませ」

「は、はい」

「では、メロディ様は魚を。リルナ様は服を」

「服?」

「まさか海水で濡れきったまま城内を動き回ると? それを掃除するのはメイドの仕事なのですが、リルナ様はその作業を増やして頂けるという訳ですか」

「いえすいません今すぐ脱ぎますはいごめんなさい」

「よろしい」


 メロディに手伝ってもらって何とか服と下着を脱ぐリルナ。全裸になって脱いだ衣服と交換にタオルを受け取る。いつの間に用意されたのかサッパリと分からないが、もう今更だった。きっとメイド長は超高レベルな盗賊職に違いない。それがリルナとメロディの総意だ。


「風邪をひいてはいけませんからね」


 と、メイド長がガシガシとリルナの体を拭いてくれるのだが……


「いた、いたい、いたいです、あうっ、あっ、いた、いたいっ!」


 まるでしつこい汚れをふき取るようにゴシゴシとリルナの体を拭くメイド長。やっぱりどこか怒っているらしく、こっそりと逃げようとするメロディも掴まれて、不必要に顔と頭を拭かれるのだった。

 こすられて真っ赤になった顔を見合わせてリルナとメロディはがっくりと肩を落とす。結局、怒られてしまったみたいなもので、上手くいかないものだなぁ、なんて思うのだった。


「はい、それでは魚は厨房に届けます。ふたりはお風呂にでも入ってきてください」

「分かったのじゃ」

「うぅ、それだったら体拭かなくても良かったんじゃ……」

「何か文句でも?」

「なんでもないです」


 ひぃ、と悲鳴をあげてリルナとメロディはお城の浴場まで走って逃げることにした。そんなふたりを見て、メイド長は笑みを漏らす。すこしだけ視線をあげ、窓から覗いていたサヤマ女王と視線を合わせた。


「かわいいだろ、私の娘とその友人」

「えぇ。どんな宝石より、どんな冒険よりも価値がありますね」


 くひひ、と女王は笑う。合わせて、かつての冒険者仲間であるようにメイド長も、くひひ、と笑うのだった。

 海水でデロデロになった体というのは拭いた程度では気持ち悪さが取れていない。という意味もあり、お風呂はありがたい。サヤマ城の浴場は広く大きい。貴族主義で薔薇の花が浮かんでいる、なんてことはなく普通にお湯が満たしてあるお風呂だった。いつでも誰でも利用可能で、お城に見学にきた一般民だって入れる浴場だ。といっても、そんな暇な人はいないのだが。

 全裸だったリルナはメロディより先に浴室に入る。何人かメイドさんも利用しているようで、幸せそうに肩まで浸かっている人がいた。洗い場にもメイドさんの姿があり、そんな中にリルナも混ざる。


「あ、リルナちゃん。今日もお泊まり?」

「そんなつもりなかったけど、そうなりそうです」


 あはは、とリルナは苦笑しておく。なにせ着る服がない。まさか全裸で宿まで帰るわけにはいかないだろう。


「脱いでばっかりだ……」


 水には気をつけよう、と硬く誓うリルナ。そんなリルナにメイドさんは首を傾げるのだが、冒険者でもかなり特殊な悩みのために共感は得られそうに無い。


「お待たせ~なのじゃ。体を洗わせてもらうぞ、リルナ」

「うん、ありがとっ。って、前はいらない! いらないからっ! ひ、あひゃ、こしょばいから、やめてってば! あはははは!」

「遠慮するな、我が友人。リルナが海に落ちたのも、妾の実力不足であるからな。ほれほれ、遠慮するな、うりうり~」

「ひぃ、くすぐったいってば。た、助けて、メイドさん!」


 と、その場にいたメイドさんを巻き込みつつお風呂を楽しんだふたり。ゆっくりと体を温めてから浴場を出る。さて、服はどうしようか、と思っているとメイド長がリルナの為に服を用意してくれていた。


「これって、ドレス?」

「妾のに似ておるのぅ」


 メロディにも用意されており、手伝ってもらって着てみる。フリルをたっぷりとあしらった豪奢なドレスであり、薄い桃色をしていた。メロディは薄い青色で、ちょっとした姉妹にも見えるのだが、やっぱり顔立ちが違うこともあってか、メロディのほうが良く似合っている。


「う、うわぁ、なんか恥ずかしい」

「そうかの? 良く似合っておるぞ。たぶん」

「たぶんって……いや、否定しないけど」


 サラサラの触り心地は、逆に落ち着かないのか、リルナはキョロキョロと周囲を見渡す。どこかで誰かが笑ってやしないか、と気が気でならない。


「良くお似合いですよ、リルナ様」

「あ、メイド長……ってなんですか、そのティアラ。どうして二つあるんですか?」

「もちろんメロディ様とリルナ様の分です」

「わ、わたしは遠慮しますっ!」


 逃げようとするリルナだが、普段履かないロングスカートで上手く走れるわけもなく、易々と捕まってしまう。


「諦めるのじゃ、リルナ。妾たちに拒否権は存在しない」

「え~!?」

「その通りですわ。さぁ、メロディ様との違いを存分に味わうが良い、一般市民が!」

「本音だっ! それが本音だ! ひどいっ!」


 わーわーぎゃーぎゃー、と叫びつつメイド長やメイドさんたちにキャッキャウフフと着飾られていくリルナとメロディだった。


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