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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その17 ~ほのぼのとした冒険しない話~

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~魚釣りをしよう~ 2

 ざざ~んざざ~んと波が打ちつける中で釣りをすることしばらく。メロディが三匹の魚を釣り上げていたが、リルナは小さな一匹のみ。


「むずかしい……」

「加えて、運じゃな」


 海の中の様子は見えない。どんな魚が餌に興味を寄せるかはその時の運次第ともいえる。もっとも、魚を釣ることに人生を捧げている漁師にしてみれば、ある程度の魚を狙うこともできるのだが。にわかの釣り士には餌を垂らして針を引っ掛けるのが精一杯だ。


「あっ!」

「おっ!」


 その時、ふたりは指先にかかる微妙な引っかかりを感じ取った。ちょん、と触れたあとに警戒しているのか空白期間。しかし、すぐにグイっという力強い引きを感じる。


「なんか来た!」

「これはデカイぞ!」


 言葉が重なり、召喚士とお姫様はお互いの顔を見合わせた。ふたり同時に魚が食いつく可能性は、もちろんゼロではない。ゼロではないが、それにしては奇妙な一致だった。

 なにより魚にしては重すぎる手応え。竿が恐ろしいほどに〝しなる〟のだが、折れる気配は無い。さすがサヤマ女王の私物! と、リルナは感心するが、糸も切れてないのだから恐ろしい。


「ひぃ!?」


 油断すると海に引き込まれそうになり、リルナは岩の突起に足をかける。体を斜めにして持っていかれまいと踏ん張った。


「……嫌な予感がするのぅ」

 対してメロディは剣士なだけに腕力はリルナよりある。余裕ではないが、竿を引きながらも片手は背中側の腰に装備しているバスタードソードに手を伸ばした。

 しばらく暴れまわるふたりの釣り糸。明らかに方角が同じなので同じ獲物が掛かっているのは間違いない。


「んぎぎぎぎっ!」

「ほれ、頑張れリルナ。手を放すと母上に罰金じゃよ!」

「いやだー! 女王に借金なんて絶対に嫌だー!」

「裸にされて娼館いきじゃな」

「えー、冒険で稼いじゃダメですかー!?」

「面白くないしのぅ、そんな返し方」

「そういう問題かー!」


 と、リルナが叫んだ時、突然に糸がゆるむ。全体重を預けて引っ張っていたリルナはそのまま後ろに倒れた。


「あいたっ!? ……うぅ、いたたた。切れちゃった?」

「諦めたのかのぅ?」


 と、メロディが海面を覗き込んだ瞬間、海面から一体の大きな魚が飛び出した。メロディの装備しているヴァルキリー装備のオートガードが発動し、青い障壁がそれの攻撃を防いだ。


「っく、なんじゃ!?」

「メロディ、うえ!」


 海面から飛び出し空中にまで飛び上がったのは魚に手足が生えたモンスター『サハギン』だ。手には三又に分かれた大きなフォークを持っており、先ほどの海からの突撃でメロディを仕留めるつもりだったのだろう。

 海で釣りをする者がいないのは、このモンスターのせいだと言っても過言ではない。海のゴブリンとも言われており、海の中では大量に生息していたりする。対処レベルとしては冒険者レベル2で充分なのだが、人間が適応していない海の中ではよほどの熟練者であっても苦戦する相手だ。なにせ、人間は海の中で息ができない。足を持たれ、引きずり込まれただけで命を落としてしまう。

 リルナとメロディは慌てて岩場の端へと移動した。反対側に着地したサハギンの手には釣竿から続く糸。釣り人を引きずり込むつもりだったのだろう。しかし、相手も粘るものだから痺れを切らして飛び上がってきたのだ。


「図鑑で見たとおり、不細工な顔じゃのぅ」

「っていうか、不気味よね……魚から手と足って……」


 相対すると、のっぺりとした正面からパクパクと動かす口しか見えない。前が見えているのか不安になるが、まぁ見えているのだろう。


「よし、久しぶりの戦闘じゃ! 修行の成果を見せてやるぞ!」


 はいこれ、とリルナに釣竿を渡してメロディはバスタードソードを構える。格下相手になるのだが、お姫様は油断せずにしっかりと相手を見据える。


「なるほど、サクラのいう通り呼吸は参考になる」


 海の生物だからか、サハギンの呼吸は地上では荒い。すーはー、と体が上下している。そのタイミングは通常よりも取りやすくなっていた。


「え~っと、私にできることは、っと」


 リルナはマキナとペイントを起動させ召喚陣を手早く描いていく。片腕で小さく描いたのは大精霊の召喚陣。水の大精霊ウンディーネだ。手早く発動させると光が収束し、手のひらサイズの大精霊が顕現した。


「ウンディーネ、加護をよろしく」

「分かりました」


 メロディの頭にちょこんと乗ると、メロディの体が少しだけ青く光った。サハギンは水属性の攻撃をしてくる訳ではないが、ちょっとしたオマケ程度にはなる。リルナの体にも同様に水の加護が施された。


「海に落ちても大丈夫ですからね」

「それはありがたい。全力で戦えるのじゃ」


 ウンディーネは水を操ることができる。それを利用すれば、体の周囲に水の膜を張ることができ、その中の空気が無くなってしまうまでは水中で活動することができた。

 サハギンから視線は反らさず、メロディは大精霊に礼を言う。と、それを隙だと誤解したのかサハギンが距離を詰めてきた。


「なるほど、分かりやすい」


 濡れた体でべちゃりとした移動は、呼吸を止めた時。それをしっかりと確認してからメロディは突かれるフォークにバスタードソードを打ち付けた。ガギンという鈍い金属音。お姫様の力が上回り、サハギンのフォークが弾かれる。


「ギャギャギャギャ……」


 メロディの力量が上と分かるとサハギンはようやく片手に持っていた糸を放した。


「おっとっと」


 リルナは糸を回収すると海に落ちないようにと岩場に置く。目の前のサハギンはメロディに任せるとして、周囲を警戒した。

 サハギンは群れで生活をしている。それこそゴブリンのように。だからこそ、一匹だけと油断する訳にはいかない。どこからか海の底でこちらの隙を狙っているかもしれない。


「えっと、サラディーナもノルミリームも水との相性は悪いか」


 水は火を消す。疑いようのない事実であり『水剋火』の関係性である。さらに水と木では『水生木』の関係にあり、水が優位となっている。


「え~っとレナンシュも木属性の魔女だし、ハーくんはコボルトだし……え~っと、メロディごめん。詰んだ」

「いやいや、元より妾ひとりで充分じゃぞ」

「土の大精霊とも契約しないとね~。カルラナーマはコシク島だっけ? 近いから今度いく?」

「妾はその前に水の神殿で加護を受けたいところじゃよ」


 冒険者学校の中間試験とも言える訓練で、パーティを組んで水の神殿を目指す、というものがある。正規の訓練を受けていないメロディはウンディーネの正式な加護は受けていない。お姫様にしてみれば、ちょっぴり心残りだった。

 と、そんなノンキな会話をしている冒険者に怒りが沸いたのかサハギンが特攻してくる。びちゃびちゃという不快な足音と共にメロディを薙ぎ払う。


「おっと」


 それを屈んで避けるが、サハギンは気にも留めずリルナへと向かった。


「うわ、こっち来た!?」


 足場が悪く左右に逃げるスペースは無い。突き出されたフォークは低く、屈んで避けるのを防ぐつもりだ。リルナはそれを飛んで避けて、上からフォークを踏みつけてやった。


「どうだ!」


 と、サハギンの武器を封じたつもりだったが、残念ながらリルナは小柄な少女。しかも年齢にしては小さい部類に入ることもあってか、サハギンはフォークを勢いよく引き抜く。


「うわっ!?」


 バランスを崩したところに魚人の体当たり。リルナはそのまま海へと落ちてしまった。


「リルナ!? っと、させるかぁ!」


 サハギンは海に落ちたリルナをそのまま引きずり込もうと飛び込もうとするが、魚でいう尾びれ、サハギンでいう後頭部をメロディが握り、それを阻止する。


「ぷはぁ! う、ウンディーネさん、助けてっ!」

「はいは~い」


 メロディの頭からリルナがいる海面まで移動したウンディーネはリルナの周囲を水の膜でおおう。これで一先ずは海に引きずりこまれても大丈夫だろう。

 リルナの無事を確認したメロディだが、頭を掴まれて嫌がって暴れるサハギンから距離を取る。


「さっさと倒させてもらうぞ」


 場合によってはメロディも海に飛び込む覚悟はあった。しかし、今のところサハギンの援軍は見当たらない。ハグレなのか、それとも遠征しているのかは分からないが。


「すぅ、はっ」


 息を吸い、集中する。サハギンの動きを捉え、その呼吸も意識し、メロディは仕掛けた。

 虚を突く。

 サハギンの呼吸の一番浅いところで踏み込む、動けなかった魚人の顔へバスタードソードを斬り込む。しかし、浅い。フォークを意識していたのと足場の悪さが決定打を邪魔した。

 だが、それも織り込み済みだった。

 メロディにとっては大満足の結果であり、それ以上の結果は望んでいない。だからこそ、連撃の準備をしていた。破れかぶれのサハギンのフォークを掻い潜ると、下からバスタードソードを突き入れた。


「っギュア」


 奇妙な悲鳴と共にサハギンの体がだらりと弛緩し、フォークを落とした。そのままずるりと体を横たえると岩場から落下し海へと落ちる。しかし、沈むことなく浮かんでおり、傷あとから血が流れ出ていた。


「ふぅ……やったぞ、リルナ」

「すごいすごい。即死させたねっ」


 流れていくサハギンの死体を見ながらリルナは血を避けて岩場へと張り付いた。波にもてあそばれながらも、メロディに手を貸してもらってなんとか上に乗る。ずぶ濡れになってしまったが、体に傷は無いようだ。


「あ~ぁ……なんかわたしってすぐ水に濡れない?」


 川に落ちて全裸マントで森の中を歩いたことを思い出して苦笑する。その後のことを思い出し、メロディは笑えなかったが、それでも無理矢理に苦笑する表情を作ってみせた。


「ウンディーネの加護は絶大じゃなぁ」


 そう苦笑し、リルナの無事と大精霊の加護に感謝するのだった。


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