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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その17 ~ほのぼのとした冒険しない話~

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~火竜退治だって。へぇ、そうなんだ~

 ドラゴンはドラゴンでも、火を吹くドラゴンはなーんだ?

 という子供たちにはお馴染みの問題の答えは『火竜』である。もしくは、ファイアードラゴンと呼ばれるモンスターだ。

 共通語で言い表すのであれば、リーン・シーロイド・スカイワーカーもドラゴンである。だが、明確に種族を表すとなれば龍種だ。対してファイアードラゴンの種族は『竜種』となる。この違いは極簡単に『知能の差』だ。

 龍は人語を解し、更に言ってしまえば人間たちより神さまに近い存在だ。精霊信仰ならぬ龍信仰はいまのところ聞いたことが無いが、あってもおかしくはない。

 それに対して竜と呼ばれるドラゴンたちの知能は動物のそれ、である。大型モンスターに指定されており、村や家畜を襲う時もあった。龍種ほど強くは無いが、それでも空を飛び硬い鱗で覆われている皮膚は、おいそれと刃を通さない。加えて、火竜は名前通りに炎を吹く。

 空飛ぶオオトカゲがドラゴンに似た姿をしていたので、そう名づけられただけ。そんな火竜の目撃情報がもたらされた、そうだ。


「なるほどのぅ。どうりでザワザワと色めき立つわけじゃ」


 ようやく冒険者たちが解散した門の前で、張り紙を確認したメロディが言った。


「英雄志願だねっ」


 リルナも納得といった顔で周囲を見渡す。残っていたルーキーも半分ほどが解散して、残った面々は各々あつく語り合っている。


「なにせ、ドラゴン退治だからのぅ」


 そう、ドラゴン退治、なのだ。

 その文字列だけで、冒険者の心は躍ってしまう。小さい頃、幼い頃、ベッドの中で寝物語として聞かされた勇者とお姫様の物語。さらわれた悪いドラゴンからお姫様を取り戻す勇者のおとぎ話。

 そのドラゴンは竜ではなく龍なのだが、それでも少年少女は瞳を輝かせて本の内容に耳を傾ける。いつか自分も、こんな勇者になってみたい、と。

 そんな憧れを実現できる状況に恵まれたのだ。普通の冒険者ならば、ドラゴン退治に動き出すに決まっている。実力なきルーキーは、その退治方法を考え熱弁をふるうしかない。それでも、それだけでもキラキラと瞳を輝かせている。

 机上の空論を語り合っているのは重々に承知。実力も足りていないのも分かっている。それでも、あーしてこーして、と竜対策に思いを馳せるのだ。


「妾なら真正面から斬り伏せるな」

「いや、無理でしょっ。ちゃんと作戦考えようよ」

「しかし、不意打っても誇れぬのではないか? 正面から戦い、勝利してこそ英雄であろう」

「……だからサヤマ女王の娘なのよ」

「ん!?」


 まるで絶望するかのような表情で、お姫様はリルナの顔を見た。


「ご、ごめん。言い過ぎた」

「……いや、良い。うむ、冗談はそこまでにして真面目に竜退治の方法を考えようではないか」

「冗談なんだ」

「決まっておろう。妾が母上ほどの実力があれば別じゃがな。勇気と蛮勇は違うものだ、とお姫様をさらったドラゴンも言っておったではないか」

「参考にするのはそっちなのね」


 おとぎ話の中でドラゴンが勇者に言ったセリフである。無謀にも姫を救い出そうとした人間に対しての言葉であり、確かに蛮勇に思える勇者へのセリフだった。現実的に考えて、万が一にも人間が龍種に勝てる見込みは無い。


「……そういえば、なぜリルナはリーンを召喚獣にできたのじゃ?」

「聞いてくれる!?」


 当たり前に思っていたが、よくよく考えてみれば英雄レベルのことをすでにやってのけている友人の存在に疑問を感じてメロディは聞いてみたのだが、思いのほか食いつきが良かった。


「訓練学校の卒業試験でね、めっちゃ苦労したんだから!」


 どうやら話す機会がなかったらしく、リルナはメロディに訓練学校時代の卒業試験の内容を語った。それはひとつのボックスから始まった試験なのだが、イフク国はおろかクホート島からトンカー島へ移動し、またクホートへ戻ったりとかなりの大冒険をひとりで繰り広げることになったそうだ。


「でね、ようやく見つけた地図の洞窟の前にいたのがリーン君でさ! 三日戦ったのよ、三日!」

「そ、それは凄いではないか。ドラゴン相手に三日も闘えるとは、かなりの実力ではないのか?」

「……リーン君、生まれたばっかりだったし、最初は相手にしてくれなかったからなんだけどね」

「つまり?」

「運が良かっただけ」

「なるほのどのぅ。それで、勝利できたわけじゃな」

「あ、ううん。なんかもう口ゲンカになって、最後にはいっしょに洞窟のダンジョンを攻略して仲良くなった。その洞窟にあったのが、これ」


 リルナは腰の倭刀をポンと叩いた。


「……いいなぁ~。妾もそんな冒険がしてみたいものじゃ」

「いっぱいできるじゃない、これから。耳が治ってからだろうけど」

「もう大丈夫なのになぁ。そうじゃ、竜退治を見学しに行ってみないかの――」


 と、メロディが言い終わらない内に、その肩にパンッと両手が置かれた。振り向いてみれば、笑顔のメイド長。


「いけませんよ、お姫様。外出禁止はまだ解けておりません」

「……はい」


 どこに潜んでいたのか、どこから見ていたのか、どこで聞いていたのか、どうやって後ろへとまわったのか、どのタイミングで近寄ってきたのか、その全てがまったく分からず、メロディとリルナは素直にうなづくのだった。


「分かって頂ければ幸いです。それでは」


 それだけ告げると、メイド長はお城の方角ではなく街中へと消えていった。


「ぜったい監視されてるよね……」

「ど、どうやら妾の最初の目標はメイド長の監視から逃れる実力を付けること、かもしれんのぅ」


 あのサヤマ女王と対等に渡り合えるメイド長は何者なのか。そもそも名前も聞いたことないや、とメローディア・サヤマ姫は心底からため息をつくのだった。


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