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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
幕間劇

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幕間劇 ~お仕置き/鑑定士ルル・リーフワークス~

 リルナたちは、サヤマ城下街に無事に帰りついた。もちろん、怪我がすぐに治るわけではないので、無事というのは少々の語弊があるかもしれないが、命に別状はなく、リルナもメロディにおんぶされっぱなしではあるし、相変わらずお姫様の耳は血が止まっていない。

 という満身創痍な状況の二人は、帰るや否やメイド長に拉致られ、お城の中で強制的な治療を施されることになった。


「それでリルナちゃん。私の可愛い娘を巻き込んでしまったことへの申し開きはあるのかい? あぁん?」


 加えて、ロード・ヴァンパイアに全員がターゲットにされてしまったこともサヤマ女王にバレてしまっていて、リルナは涙目でメイド長を見た。


「あぁん?」


 メイド長も敵だった。


「ご、ごめんなさい」

「言い訳は無いと」

「……は、は、はい」

「ふむ。良くぞ正直に答えた。貴様の胆力は冒険者のそれであると、証明されたな」


 サヤマ女王はにっこりと笑った。

 リルナもにっこり、と笑おうと思ったけど、笑えなかった。顔がひきつって笑えない。そもそもにして、自分の顔を覗きこむ女王の笑顔が怖すぎて笑えない。


「ふん!」


 そして、傷めたほうの足を蹴られる。ゴキン、と奇妙な音がして、外れていた足首の関節がハマる音がした。もちろん、その後にリルナの絶叫が響き渡るが。


「お、お、お母様……我が友人であるゆえ、そ、そそそ、そこまでにしてあげてはもらえままままま、まいか?」


 メイド長によって丁寧に耳の中の血液を除去してもらったメロディは、なんとか聞こえるようになった耳で友人の絶叫を聞くことになる。お城に呼び寄せた神官が慌ててリルナの足に治癒魔法をかけているが、リルナは気絶寸前だ。


「なぁに、荒治療の一種だ。どちらにせよ外れていたものを元に戻さないといけない。ゆっくりジワジワとやるか、一気にやるかの違いだ」

「そ、そうなのか。良かった……のじゃ?」


 メロディの言葉が終わらないうちに、サヤマ女王はリルナの襟首をつかみあげる。ぐったりとした彼女はされるがままで、そのまま裏庭に窓から飛び降りた。


「ま、まさか……母上! 母上! それは一般人には危険なのじゃ!」

「うるさいぞ、我が娘! みんなの迷惑だから夜に大声をあげるんじゃない!」


 女王はリルナの体を岩へ縛りつける。そしてマジックアイテムである腕輪と足輪を装備すると、軽々とリルナごと岩を持ち上げた。


「なに、なになになになに!?」

「メロディがいたずらした時に考案したお仕置きだ。これをやって以来、あの子は大人しくなったぞ」


 なにするの、と聞く暇もなく、リルナを縛り付けた岩はサヤマ女王によって上空へと蹴り上げられた。


「ひいいいいいいいいいいいい!?」


 真っ直ぐ真上に飛び上がったリルナ岩。城下街の家々の明かりが見えたのだが、重力に引っ張られて落ち始める。しかし、落下し始めたの瞬間に、女王がジャンプして追いつくと再び真上へと岩を蹴り上げる。


「ぎゃあああああああああああああああ!?」


 今度は街全体が見渡せた。断崖絶壁に建つお城だから、水平線まで見渡せる。何よりも恐ろしいのは落下時間だ。味わったことのない何か下腹部にきゅんとくる未知なる感覚にリルナは泣きそうになるが、地獄はまだ終わらない。再びサヤマ女王が空中で岩を蹴り上げ、リルナ岩を更なる上空へと導いていった。


「ごめんなさいいいいいいいいいい!」

「まだ許さん!」


 その後、女王が疲れ果てるまで、リルナの精神が擦り切れるまで続けられ、治癒魔法を受けながらメロディがハラハラとそれを見守り続け、神官があんぐりと女王のお仕置きを見続けるのだった。

 ちなみにメイド長は、


「まだ足りません」


 と、リルナのお仕置きを希望するのだったが、メロディが泣いて懇願した為に、恍惚の表情で承諾したのだった。

 そして、翌日。

 リルナとメロディは冒険者の宿『イフリート・キッス』でぐったりとテーブルに突っ伏していた。ほっぺたがぶにゅりとつぶれて、少女としては受け入れがたい表情になっているのだが、召喚士もお姫様も気にすることなくテーブルの冷たさに心を癒されていた。

 時間は午前も中頃を過ぎて、イフリート・キッスではそろそろ本日休業を決めた男性冒険者が集まる頃合である。


「ほら、リルナ。レベル更新しといたよ」

「ふぁ~い」


 普段ならカーラの言葉に喜び勇んで受け取りに行くオキュペイションカードだが、本日のリルナはでろんと今にも溶けそうな具合に立ち上がり、ぴょこぴょこと片足で進んだ。


「レベル7だ。無茶しやがってからに……」

「うぅ、カーラさんまでぇ」

「当たり前だ。怪我して帰ってきて褒められる冒険者なんていないよ。戦争じゃないんだ」

「……戦争だったら褒められの?」

「大昔の話だけどね。一番の名誉は戦死だそうだよ。国の英雄だ」


 カーラはキセルからたっぷりと煙を吸い込むとリルナの顔へと紫煙をあびせた。アルコールのにおいには慣れたリルナだが、煙草の煙はまだ苦手らしく、けほけほと色々な意味で涙目になる。


「頼むから、冒険者らしい最期はやめてくれよ。私は気が短いんだ。いつまでも帰りを待ち続けることなんて、できやしないんだから」


 帰ってこなかった冒険者を、いつまで経っても死亡扱いしない冒険者の宿の店主はいる。いつまでも部屋を空席にしておく訳にはいかないが、それでも割り切れないのだろう。


「ふぁ~い」


 そんな気の無い返事にムカっとしたのか、カーラはキセルでリルナの額を小突いた。片足で立ってるリルナはバランスを崩し、その場で尻餅をついてしまう。


「あいたたた……」

「とりあえず、両足で立てるようになるまで冒険禁止! 街の外に出るのも禁止! メロディも分かったね!」

「……は~い」


 リルナは返事をするが、メロディは無言だった。どうやら聞こえていないらしい。ただでさえ鼓膜にダメージを受けているのにその耳は包帯で覆われていた。しばらくは、お姫様も通常通りに戦えはしない。手直しされたヴァルキリー装備を身につけているが、バスタードソードはその背中に収まっていなかった。カーラだけでなく、女王やメイド長からも禁止されたのだろう。

 ズリズリと床を這いずりながらテーブルへと戻るリルナに、カーラが、パンツみえてるぞ、と忠告してもめくれあがったスカートを直しもせずに進む。テーブルに戻ったリルナは、メロディにカードを手渡した。


「レベル7じゃのぅ」

「うん……苦労したレベルアップだね……」

「そうじゃのぅ……リルナの足に妾の両耳。お金とレベル1では、割りに合わん仕事じゃった。オマケにロード・ヴァンパイア――!?」

「ひぃ!?」


 何気につぶやいただけなのに、しっかりと視線が返ってきて、二人は椅子から転げ落ちた。不思議な顔をしているカーラに、何でもないです、と言い訳をしておいてから、リルナとメロディはお互いの額をコツンと合わせてナイショ話をする。クリアから教えてもらった伝達方法は、以外にも役に立っていた。そのクリアがロード・ヴァンパイアそのものだとは夢にも思っていない二人だったが。


「言っちゃダメだって、メロディ」

「すまぬ……しかし、なんなのじゃ、アレ。どんな構ってちゃんじゃ。世界中で自分の噂を探しているなど、肝が小さいにもほどがあるぞ」

「あ、あんまり文句言わないほうがいいんじゃない? 絶対聞かれてるよ、この会話」

「……わ、妾は恐れぬぞ。く、来るならいつでも相手してやるのじゃ」

「レベル120くらいだよ」

「……7じゃなぁ」

「ね~」


 ふたりは重いため息をテーブルの上に吐き出した。呪詛の塊がお店に沈殿してか、どうやら本日のお客さんの入りは遅いらしい。もうしばらくテーブルの冷たさを味わえそうだ。


「あ、そういえばこれも手に入れたのぅ」


 メロディは鎧下のスカートのポケットから指輪をひとつ取り出した。旧神代文字で『構造解析』と刻まれた指輪だ。蛮族の寝床で発見したままメロディが預かったままだった。色々と大変だったので、しっかりと調べる暇はなく、今まで放置されていた。


「鑑定士に頼むとするかのぅ。高いんじゃろうなぁ~」


 マジックアイテムや遺跡から出てくる伝説級のアイテムの中には、使い方がサッパリと分からない代物も多い。そういったアイテムを鑑定する専門家は鑑定士と呼ばれており、冒険者にとっては重宝する職業だ。

 しかし、呪いのアイテムや危険な武器の可能性も多いにあるために、鑑定料金はそれなりに高い。どう足掻いても、今回の冒険は赤字になること必至だった。


「それなんですかぁ~?」


 と、朝の給仕が終わって休憩していたルルが戻ってきた。時間のある時はこうしてリルナやメロディとおしゃべりに興じることがあり、今日もそのつもりで一階に下りてきたのだろう。もっとも、お客さんがやってくると彼女はウェイトレスになってしまうのだが。


「蛮族の荷物から発見したのじゃ。マジックアイテムなんじゃろうが……使い方が分からなくてのぅ」

「ふ~ん……調べようか?」

「え?」


 ぴっとりとテーブルに頬をつけていたメロディは顔をあげる。ついでにリルナも顔をあげた。ふたりの頬はちょっぴり赤くなっている。そんな召喚士とお姫様を笑いながらルルは愛用のマジックアイテムを掲げた。


「じゃじゃ~ん! 森羅万象辞典~」

「なるほど、その手があったか。持つべき者は親友じゃのぅ」

「え、私は親友のつもりなかったんだけど~」

「……リルナぁ~、ルルちゃんが酷い~」


 お~、よしよし~。と、リルナは苦笑しながらメロディの頭を撫でてやる。友達だから友達だから~、とルルも頭を撫でた。


「親友と友人の差など些細なものじゃ。うん。それで、早速調べてもらえるかの?」

「は~い」


 と、ルルは掌をメロディに差し出す。その上にお姫様は指輪を乗せるのだが、鑑定士は首を横に振った。


「ん? これじゃなくて?」

「鑑定料金、20%をいただきます」

「……いやまぁ、いいんじゃけどな。お主、ちゃんとアルバイト料をもらっておるのか? あ、もらっておる。うん。はい。分かったのじゃ。で、なんじゃ、20%って? ギルじゃなくて?」

「この指輪の価値の~、20%をください~」

「なるほど。もし10ギルの価値じゃったら、ルルに2ギル払えばいいんじゃな」


 うんうん、とルルは頷いた。学士見習いとしてより、どんどんと商人に近づいていく気がしてリルナは苦笑するしかない。今やもう鑑定士となってしまっている。冒険者を相手取っていると、人生捩れていくんだなぁ、なんて思いながら鑑定結果を待った。


「ん~とね、名前は『構造解析の指輪』で合ってるみたい。使い方はね……え~っと」


 パラパラと森羅万象辞典をめくり文字を追っていくルル。


「まずは指輪をはめます」

「うむ」


 メロディは指輪を装備しようとするが、人差し指も中指もスカスカだったので、なんとか親指にはめた。それでも油断すると外れそうだが。


「指輪に魔力を通します」

「ま、魔力……え~っと」


 魔法を習得していない者にとって魔力操作は至難の業。仕方ない、とばかりにリルナは指先に魔力を集め、指輪にちょんと触れた。魔力が満たされたようで指輪がほのかに青く光る。


「解析したいアイテムを持ち、見ます。構造解析が見えます。だって~」

「どれどれ」


 メロディはバスタードソードを持ち、掲げてみた。すると、リルナの使うペイントの魔法のような光る文字が目にうつる。ご丁寧に共通語で表示される文字列は羅列をはじめ色々な数値と共に目に映った。


「……これだけ?」


 あらゆる金属とその組織成分が分かったところで何なのだ? とメロディは首をかしげた。


「ハズレだね……」

「ハズレだね~」

「ハズレじゃな~」


 あはん、とリルナとメロディは再びテーブルにほっぺたをくっ付けた。


「だったら、私が売ってきてもいいですか~?」

「あ~……頼んだぞ、ルル殿。お主の商売才能に妾は全てを懸けようではないか」


 はっはっはー、と乾いた笑いを残してメロディはルルに指輪を手渡し、大きなため息を吐くのだった。

 そして、その日の夜。


「マイン・リューシュに売って来たよ~」

「ほうほう。いくらになったのじゃ?」

「500」

「500ガメルか……そんなもんじゃのぅ」

「ギル」

「ギル!? なんで!?」

「100ギルでいいかな~って持ちかけたらぁ、とんでもない500ギルで買わせてくださいおねがいします、って靴を舐める勢いだったよ~。あはは~。はい、メロディちゃんの400ギル」

「あ、はい……しかし、なんで500ギルに……?」

「構造解析したら、マジックアイテムの構造もバレるからじゃないかな~。ドワーフの秘術が流出しちゃうよ~? それを防ぐ意味もあるし、伝説級の解析もできるからじゃないかな~」

「なるほどのぅ……視線を変えれば恐ろしいアイテムになるのじゃなぁ~」

「だね~」


 といったルルの活躍もあって、メロディは両耳の鼓膜を犠牲に400ギルをゲットしたのだった。


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