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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その16 ~かんたんなおしごと~

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~かんたんなおしごと~ 15

 遺跡から脱出すると、陽はすっかりと傾きオレンジ色の空が広がっていた。ランタンの明かりはそのままで、一同はホッと胸を撫で下ろす。

 やはり地下空間は息が詰まる。たとえ薄暗い夕焼けの明かりでさえも、人間にとってありがたい光だ。


「大丈夫、メロディ?」

「リうナこそ、だいじょーぶきゃの?」


 リルナはメロディにおんぶされており、お姫様の後頭部にコツンと頭を付けながら話す。クリアによれば、頭の骨が響いて耳を通さずに直接的に音を伝える方法、らしい。


「重くない?」

「妾は剣士じゃ。もんだいあい」


 問題無い、よね。とリルナは苦笑する。

 はじめはイザーラに抱きかかえられていたのだが、メロディが背負うと申し出た。自分を守るために負傷したリルナへお礼がしたい、という理由だった。血が滲むメロディの耳の包帯に不安感はあるものの、彼女の足取りはしっかりとしている。聞こえていないのも一時的なショックが大きいだけ、と思うことにした。


「野宿……するより、さっさと帰ったほうがええな。今回は怪我人ばかりや」

「ごめんなさい」


 本来は暗い中での移動は危険が伴う。しかし、リルナの足とメロディの耳は気がかりではあるので、急いで帰るほうを選んだ。


「ええで、気にせんでも。生きてるだけマシや」


 カーラのように片腕を切断されたわけじゃない。サヤマ女王のように政治に組み込まれてしまったわけでもない。

 まだ、自由がある。

 すこし休めば、また元に戻れる。

 冒険者としてまだ死んでもいない。


「さ、帰ろう」


 サクラは微笑む。それを受けて、リルナとメロディ、イザーラも笑った。


「では、私はこの辺りで失礼しますわ」


 皆がサヤマ城下街へと足を向けたところで、クリア・ルージュは反対方向へと足を向ける。


「クリアちゃんはどこに住んでるの?」

「定住はしておりませんわ。それよりも地図を売る算段を整えなければなりません。私は商人ですから」


 リルナの質問に、ツバの広い帽子を目深くかぶり直すクリア。夕闇に、彼女の白い髪がオレンジの光ではなく不思議と白い光を反射していた。


「そっか。じゃぁまたね、クリアちゃん」

「えぇ、近いうちに必ず。メローディア姫も、是非ともお会いしましょうね!」


 クリアの言葉を、リルナはメロディの頭に額を付けて伝えた。


「うむ。いつえも我が城へ来るが良い。歓迎すうぞ」


 ありがとうございます、とクリア・ルージュは笑ってみんなに手を振る。そして、サヤマ城下街とは反対方向へと歩いていった。

 次の瞬間――


「ッ!?」

「なっ!」

「えっ!?」


 後ろから強烈な視線を感じてリルナ、メロディ、サクラは振り返る。メロディは負ぶっていたリルナから手を話し、イザーラに渡していたバスタードソードを奪い取って構えた。リルナは腫れ上がり骨が折れた足にも関わらず、しっかりと両足で地をふみしめて備えた。


「ど、どうしたのよ……」


 ただひとり、イザーラだけはキョトンと三人を見ていた。彼は視線を感じなかったらしい。加えて、目の前から掻き消えるように移動したサクラの行方を捜した。発見したのは離れた遺跡の倒れた柱の影。


「リルナ、これあ、これはなんじゃ? なにがくるのじゃ!? 妾たちが何にみられているのじゃ!?」

「ソフィア……ロード・ヴァンパイアのソフィア――」


 視線の主に覚えがある彼女がつぶやいた瞬間、リルナの首が絞まった。まるで空気がその名をこばむように、息が吸えなくなる。

 視られている。

 しかも一瞬ではなく、ずっと。

 それだけでリルナの顔は血の気が引き蒼白になった。メロディの構える剣はガクガクと震え、とてもじゃないが戦える様子ではない。いま、ここでロード・ヴァンパイアが現れたとしても、何もできずに平伏すことしかできない。

 しかし、その視線はやがて消える。何事も無かったように、空気は元に戻り、リルナはあえぐように空気を肺に送り込んだ。


「っはぁ、はぁ、はぁ……んぐ」


 唾液を飲み込むのも苦労する。それだけ消耗してしまった。思い出したように足の痛みが襲い掛かってきてリルナは尻餅をつく。


「こ、これが、ロード・ヴァンパイアか」


 メロディの体は汗がぐっしょりと濡らし、剣を杖がわりにして立っていた。彼女もまたぜぇぜぇと息を乱している。唯一、普通に動けているのはサクラだけなのだが、真っ先に逃げていた分、渋い顔で戻ってきた。


「厄介なもんに、文字通り目を付けられたな、リルナ」

「ご、ごめんなさい……みんなを巻き込むつもりは無かったんだけど……」


 見られちゃった、とリルナは謝る。


「しかし、なんでこのタイミングやったんやろうな……」


 サクラはハテナマークを浮かべているイザーラと、こちらの騒動には気づかずにノンキに去っていくクリアの背中を見て苦笑する。


「分かんない……けど、あいつが、あれが、召喚士の敵かもしれないんだって……」

「お前さんの父親が行方不明になった原因か」


 リルナはうなづく。

 道理でな、とサクラは嘆息した。


「サクラでも勝てない?」

「見たやろ? まっさきに逃げてたやろ、ウチ」


 ごめんやで、とサクラは苦笑する。


「仕方ないよ。だって、あんなんだもん」

「メロディもごめんな、逃げてしもて」

「何を言っていウのか分からぬが、だいじょぶじゃ」


 ほぅ、と息を吐いてリルナたちは空を見る。陽はすっかりと落ちて、オレンジ色から瑠璃色へと変化し、星が輝き始めていた。


「ほえ、リルナ。帰るから、背中に乗るのじゃ」

「うん」


 リルナはメロディの背中にのる。さっきよりも冷たくなった彼女の体に、なんとも言えない気持ちを抱きつつも、ぎゅっとメロディの体にしがみついた。

 ロード・ヴァンパイア。

 召喚士の問題を、自分の仲間にも背負わせてしまった。あとで、きっとサヤマ女王に怒られるんだろうなぁ。なんて思いつつ、リルナはお姫様の背中で、夜空を見上げるのだった。


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