表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その16 ~かんたんなおしごと~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

217/304

~かんたんなおしごと~ 12

 ぞわり、と総毛立つように足から生えた腕が動く。中途半端に生物の範疇に収まっているからこそ沸き立つ気持ち悪さに、リルナとメロディは口を半開きにして、うわぁ~……、と声を漏らした。


「あれやな、手がすね毛に見えるし、こいつは男やな」


 対してサクラはノンキに魔神を観察していた。黒足の輪郭はのっぺりとしており肌質なんかは分からない。加えて筋肉がある訳でもないまるで絵に描いたような足だ。性別を判別するための、そもそも性器のあるべき場所には何も無い。そういった見た目だからか、サクラはしっかりと区別をつけたようだ。


「あら。じゃぁ、大事な部分は無くしちゃったのかしらん。うらやましい」

「かかかか! ぶら下がっとったら切ってやったんやけどなぁ」


 イザーラとサクラが下品に笑った。それが逆鱗に触れた訳ではないだろうが、黒足が動きサクラに向かって足を踏みおろした。


「おっと」


 サクラとイザーラは素早く後退する。ずしん、と大きく響く音は、緩慢な動きながら恐怖を煽るには充分だった。


「ど、どど、どうしよう。あ、そうだ。く、クリアたん!」

「はいはい、クリアたんです」

「ちょっと噛んじゃっただけ! えっと避難してて避難!」

「この軟弱冒険者!」

「その非難じゃなーい!」


 後ろでドシンと音がしてリルナとクリアは少しだけ浮かび上がった。サクラが戦闘を開始したらしく、慌ててクリアの手を引いてリルナは通路まで下がった。


「出てきちゃダメだからね!」

「はい、了解ですわ。がんばってくださいね、リルナちゃん!」


 うん、と了解したものの、リルナは通路の中で足を止めた。そしてマキナとペイントを起動させ、素早く魔方陣を描いていく。緊急時ではあるが、無理をする場面ではない。三重起動はせず、順番に二つの魔方陣を発動させた。


「召喚! 薫風真奈! 神導桜花!」


 魔方陣の光が収束し、ダークニゲンの剣士である真奈とダークエルフの精霊使いの桜花が召喚された。


「なんか凄いの出てきたんで、お願い。先に玲奈ちゃんもいるから!」

「凄いの?」

「え、なにあれ……」


 通路から部屋の中を覗きこんだ二人は、うげぇ、と表情をゆがめた。少女には厳しいフォルムは世界共通らしく、人間種と蛮族種の垣根を越えていた。

 ひとまず玲奈と合流するべく、二人は部屋内へと突撃していく。そして、耳に違和感を覚えて足を止めた。


「耳が……これって、魔法ですの?」

「そっか、忘れてた。闇魔法だって!」


 通路からおぼろげにしか聞こえない部屋内の音と、短い期間で慣れてしまっていた耳への違和感をリルナは伝えておく。そして、ワタワタともうひとつ魔方陣を描いた。


「召喚、レナンシュ・ファイ・ウッドフィールド!」


 拳を叩きつけるようにして起動させた魔方陣から真っ黒なフードをすっぽりとかぶった魔女の少女が召喚される。闇魔法のことは専門家に任せればいい、という訳だ。


「レナンシュ、この部屋にある魔法って闇魔法らしいんだけど、解除できる? ていうか、そもそも何の魔法なの?」

「うわぁ……なにあれ気持ち悪い」


 やっぱり黒足を見て、うげぇ、と表情を崩す魔女。人間種と蛮族種の少女的垣根はすでに無かった。

 げんなりしつつ、サクラが最前線で戦闘中だと気づくと、レナンシュは慌てて部屋の中に一歩だけ踏み入った。しばらく感知するように空中を見上げると、すぐに通路へと戻ってくる。


「音の波を阻害する魔法。闇魔法だけど、あまりレベルは高くないわ。オリジナルだけど」

「そうなんだ。解除しなくてもいい感じ?」

「ムカツクから解いておく」

「あ、そう……」


 魔女の考えは良く分からないわ、とリルナは肩をすくめつつ、最後にもうひとつ魔方陣を描いた。真中に記された文字は神代文字で『龍』の文字。遠慮なく発動させるとホワイトドラゴンが大あくびをしながら顕現した。


「くわぁ~、あ~ぁ。呼んだ?」

「呼んだ呼んだ! 呼んだよリーン君。はやくアレやっつけて!」


 リルナは部屋の中をぶんぶんと指をさすが、リーンはなぜか通路側へ首を曲げる。そこにいるのは、クリアだけだ。そんな彼女は、ホワイトドラゴンを目の前にして瞳をキラキラさせていた。滅多にその姿を見ることができない龍種なので、感激するのも仕方ない。


「こいつじゃなくて?」

「なんでクリアちゃんを倒すの!?」

「わ、私は倒されても本望です! さぁどうぞ!」


 なぜかクリアは両手を広げて前面的に攻撃を受ける覚悟を示してみせた。それに対してもリルナが、なんで倒されるの!? と、声を荒げた。


「冗談です。初めましてホワイトドラゴンさま。わたくし、クリア・ルージュと申しますわ」


 リルナとリーンの間にクリアは進み出る。リルナからは背中しか見えない状況で、どんな表情を浮かべたのか分からないが、リーンは表情をすこしだけ歪めた。人間には、少ししか表情が変わったようにしか見えなかったが。


「何をしてるんだい、クリアは?」

「商人です。マッパーという新しい仕事を思いつきまして」


 うふふ、とクリアは笑った。それに対して、リーンはなぜか大きく息を吐く。ブレスではなく、ため息だ。


「ほどほどにしないと、色々と怒られるよ」

「承知しております、ホワイトドラゴンさま」

「ボクの名前は覚えないでね」

「それは無理ですわ。さっきフルネームで聞いてしまいましたもの。リーン・シーロイド・スカイワーカーさま。そうですね、シーロイドを取ってシロちゃんをお呼びしてもいいでしょうか?」

「あっ、いいよね、その名前! わたしもシロちゃんって呼んでたんだけど、リーン君のほうがいいみたいよ」

「あら、そうなんですの?」

「……ノンキに会話してる場合じゃないね。ボクはいくよ」


 そういうと、リーンは部屋内に入りバサリと翼で空気を打つと飛び上がった。そこまで高くない天井だがサクラやメロディ、ダーク蛮族トリオが動き回る中で戦うより空いてる空中のほうが自由に動けるのだろう。


「じゃ、わたしも行ってくる。クリアちゃんは気をつけて――」


 と、振り返った瞬間。


「メロディ!」


 通路にいたからこそ、リルナは気づいた。そして、お姫様の名を全力で叫び注意を促した。果たして、その言葉は届いただろうか。

 部屋内にいたもう一人のローブの男。

 部屋の隅に、闇に溶け込むように潜んでいた男は、弓をかまえていた。狙われていたのはメロディ。リルナが叫ぶと同時に、その矢は放たれたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ