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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その16 ~かんたんなおしごと~

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~かんたんなおしごと~ 10

 少し長い通路を抜けた先は、また大部屋になっていた。しかし、今ままでの部屋は岩肌が剥き出しになっていたのに対して、壁がすべて床材と同じ四角いタイル状の石で覆われていた。天井も高く、見上げるほど。ただし、天井は岩肌でゴツゴツとしており、さすがの古代人も天井までは手が出せなかったのかもしれない。

 手前の大部屋よりも小ぶりな為に、ランタンの明かりは部屋の中心をかすかに照らした。お陰で、その異様な塊を発見することができた。


「×××××……」


 最初に発見した玲奈が、思わず蛮族語でつぶやく。その意味は、疑問系統であることは誰にでも分かった。サクラが気づき、リルナ、イザーラ、メロディとつづく。


「なんでしょうか?」


 最後に、クリアが気づいたらしいが、残念ながら彼女の目には何かが理解できなかったらしく、ノンキにそんな言葉をつぶやいた。


「蛮族の死体や」


 クリアの独り言に応えたのか、はたまた独白のようにつぶやいただけか、サクラの声が不気味に響く。

 部屋の中心に、乱雑に積まれていたのは塊は、蛮族の死体だった。コボルト、ゴブリンといった低級からフォモールやトロルも関係なく乱雑に積まれている。リルナがまだ見たことのない蛮族も混ざっているらしく、強さや種族関係なく一箇所に山のように積まれていた。


「なんで……?」


 リルナの言葉が途絶える。

 その先は、死んでいるのか、積まれているのか、と二種類の意味があったのかもしれない。その内のひとつはすぐに解決する。

 警戒しつつ近づいたサクラと玲奈が観察し、蛮族の死体は一様に泡を吹いているのが分かった。先の部屋で死んでいたコボルトと同じく毒を盛られたのかもしれない。


「蛮族に巣食われたが、静かじゃった訳がこれか」


 メロディは周囲を警戒しつつ蛮族の山を見る。少なくとも二十体近くの死体があり、一番の強者と思われるオーガの死体が一番上にあった。恐らく、遺跡にいた蛮族はこれが全て推測できる。先ほどの部屋に一匹だけ捨てられたコボルトは運よく逃げ出せたが、手遅れだったのかもしれない。


「これを見るネ」


 みんなが蛮族の山ばかりに気を取られている中、玲奈は足元を指差す。それは蛮族の山の下に書かれている文様らしき物だった。


「魔方陣だ……」


 わずかに見える形から、リルナはそれが召喚術に用いられる魔方陣に良く似ていることに気づく。


「え、え、え、そうなるとこれは召喚術なんでしょうか?」


 クリアが興味津々にリルナの隣から死体の山をのぞきこむ。


「どういうことじゃ、リルナ。まさか、わざわざ死体の山を召喚してきたのか?」


 召喚術には二種類ある。

 意思ある人間種以外の者を喚び出すもの、もうひとつは物を移動させること、だ。かつてリルナがブヒーモスを召喚術で移動させたように、生き物の死体は『物』として扱われる。辛辣な基準ではあるのだが、魂を失った生物は肉に過ぎずアンデット化しない内であれば『物』として扱われていた。

 それを考えれば、蛮族の死体の山は召喚術で移動できる。

 しかし、リルナは首を横に振った。


「これ……召喚魔法の魔方陣じゃないよ。そもそも、神代文字じゃない。知らない言語だ」


 石床に刻まれた陣は、魔法の力で描かれたものではなく物理的に記されたものだった。鋭利なもので傷付けられて書かれてもので、白い色となっている。

 召喚術の魔方陣は三重円から構成されるが、この魔方陣はその構造を模していない。また刻まれている文字はリルナが使う神代文字ではなく、まったく別の言語だった。


「エルフ語でもないわん」

「蛮族語でもドワーフ言語でもないネ」


 イザーラと玲奈が種族言語ではないと否定する。リルナは一番の長生きであるサクラに視線を向けるが、元お爺さんも首を横に振った。


「クリアちゃんは、何か見覚えとか無い?」

「知らない文字だ……興味深いぞ……」


 リルナの言葉を聞いているのかいないのか、なにやら瞳をキラキラさせて蛮族の死体を動かそうとしている。毒が付着するとか死体だとか関係ないらしく、ぐいぐいと押していくクリアに若干引きつつも彼女が動かした先に見えた文字にみんなは注目した。

 完全に一部分が見えた文字だが、やはり見たこともない文字であり、どちらかというと記号にさえ思えた。


「クリアちゃん、何か分かった?」

「わからん。見たこともないぞ。なんだろうな、なんだろうな……ハッ」


 クリアは慌ててリルナの顔を見る。


「ご、ごめんなさい。ついつい素が出てしまいました」

「好奇心旺盛なんだねっ。ルルちゃんみたい」

「いえいえ、あっはっは」


 明らかにごまかしている風な笑い声をあげるクリアだったが、死体の山を前にして明るくほがらかにする、というのも妙な気がして二人は苦笑した。


「仲がいいのは良いことじゃが、結局は何も分からんのじゃのぅ」


 少なくとも今の時点で出せる結論は無い。加えて、遺跡にはまだ先があり、何があったのか、何が起こっているのかを確認する術があるかもしれない。


「この先は、最後の部屋があるみたい」


 地図に残されたのは残り一部屋。今いる場所からまた通路がつながっており、その先に最奥の部屋が記されていた。

 ひとまず蛮族の死体の山には、ストゥルファ・ダンゲール神に祈りを捧げておいて、通路へと進む。この通路もきっちりと整備してあり岩肌は見えていない。ゆっくりと身長に移動していくが玲奈は何も気配を察知できず、サクラと共に最奥の部屋へと辿り着いた。


「これは……」

「耳が変ネ」


 最奥の部屋には明かりがあった。祭壇のような設備が階段の上にあり、その両端に数本のたいまつが炎で部屋を照らしている。

 そんな明かりに誘われるように、サクラと玲奈は部屋へと入る。先頭の二人が入ったということで、リルナたちもそれに続くのだが――


「な、なんか変な感じっ」

「耳がおかしいのじゃ」


 部屋に足を踏み入れた途端に感じる耳への違和感。物音が完全に消えた訳ではなく、一切の雑音を遮断した空間になっていた。まるで耳に真綿を詰められた感じに、一同は眉をしかめる。


「これは……闇魔法や」


 幾度となく経験してきたサクラが言う。魔女が使う独特の魔法。その波長を感じて、サクラは祭壇の上を見た。

 そこには黒いローブを頭までスッポリとかぶった人物がいた。


「あれは――」


 その背中には、球体が破裂したようなエンブレムが記されていた。


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