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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その16 ~かんたんなおしごと~

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~かんたんなおしごと~ 9

 左右の部屋を調査し終えた一同は大部屋へと戻ってきた。盗賊職である玲奈が加わったことで探索調査能力は飛躍的にアップしたが、それでも蛮族の気配は感じられなかった。


「何にも感じられないヨ?」

「そうやんな~」


 先頭を行くサクラと玲奈が気配を読みつつ先へと進む。地図によると、大部屋の先には少しばかり長い通路が続き、次の部屋へと続いているようだ。大部屋を突っ切り、隊列を組みながらリルナたちは移動する。


「どうして蛮族はいないんだろ?」

「不思議だよね」


 特に仕事の無いリルナがぽつりと零した言葉に、クリアが返答する。


「クリアちゃんは、蛮族の噂があるから遺跡で待ってたんだよね?」

「うんうん。地図を売るチャンスと思って遺跡で待っていたのでございます。結局は噂だったのかな~」


 真っ暗な遺跡の中で、クリアの服装は闇に溶け込む。彼女の白い肌だけが浮かぶようで、リルナはちょっぴり笑顔を引きつらせた。


「クリアちゃんって、肌よわいの?」

「あ、そうなんですよ。生まれつき肌が白くて、すぐヒリヒリしちゃうんです。実はダークニゲンの血が混ざっているのでは、と母親を疑ったこともあったのですが、めちゃくちゃ怒られました」


 日傘が手放せない人生です、とクリアは笑う。


「お母さんにそんなこと言ったの……?」

「えぇ、配慮が足りなかったですわ。思いっきりビンタされました。いい思い出です」


 それは果たして良い思いでなのかどうか、リルナは首を傾げる。隣で聞いていたイザーラは苦笑するばかりだった。


「わたしもいっぱい怒られたなぁ」

「あらあら、リルナちゃんも悪い子なのですね」


 クリアがケラケラと笑ったところで奥の通路へとさしかかる。扉は無く、まるで洞窟のように先へと続く岩の裂け目があり、亀裂に身を投じるような通路だった。しかし、最初を通ってしまえば奥は広く、二人並んで戦闘できるほどの幅がある。相変わらずの岩肌と圧迫感に辟易としながらも、サクラと玲奈、イザーラ、リルナとクリアと並び、最後尾をメロディが務めて奥の部屋を目指した。


「あっ、部屋の手前に隠し部屋があるよ。ここは、壁にスイッチがあるみたい」


 通路の右側に隠し部屋があるらしく、さっきとは違って開く方法が記されていた。情報収集の偏りも甚だしいのだが、クリアは真っ赤な舌をペロリとみせて反省の色は無い。

 地図には左壁にスイッチと記されており、玲奈が調べるとむき出しの岩肌の間に小さく突起があった。他に罠の無いことを確認してから玲奈がスイッチを押すと、ガコンと何かが動いた音がする。


「おっ、開いたで」


 どういった仕組みか分からないが、サクラの近くにあった岩壁が動き裂け目のような入り口が出現した。もともと有った亀裂を薄い岩でカモフラージュしていたのかもしれない。警戒しつつ一同が隠し部屋へと入ると、またガコンという音が鳴り裂け目が閉じてしまった。


「ちょ、ちょっと、閉じ込められたんじゃ!?」


 慌ててリルナが入り口のあった岩肌をさわると、また音がして開いた。どうやら自動で開閉するらしく、一同はホッと胸を撫で下ろす。


「なんとも意地の悪い仕掛けじゃのぅ」


 意図した罠ではないので、驚き損じゃ、とお姫様は肩をすくめた。

 今度の隠し部屋はこじんまりとした空間で、岩肌は綺麗に削られており、真四角の部屋になっていた。どういった意図で造られた部屋なのかは定かでは無いが、中央にはちょっとした窪みがあり、何かが納められていたのかもしれない。もちろん今は空っぽで、第一発見者のみがお宝に有り付けた可能性が高い。


「宝石でもあったのかしらん」


 イザーラのつぶやきにリルナもうなづく。何に使われていた遺跡かは分からないが、綺麗に整えられた隠し部屋の中心に思わせぶりな窪み。宝石ではなくても、何か大切な物が収められていた可能性は高いだろう。


「こっちに扉があるネ」


 この部屋にも蛮族の痕跡は無し。しかし、奥へと続く金属製の扉があり玲奈が注意をうながす。盗賊スキルである気配察知と聞き耳で中を探るが、気配は感じられないらしく、玲奈は扉を開いた。

 その瞬間――


「ワっ!」


 玲奈を押しのけるようにして飛び出したのは、黒い影。それは真っ黒な姿をした四足歩行の獣であり、狼に似た姿をしていた。無警戒だった玲奈を前足で押し倒し、彼女の体を足場にして影狼は顎を開きながら部屋の中心にいるイザーラへと襲い掛かった。

 不意をつかれたイザーラは思わず体が硬直し、飛び掛ってくる獣に対して手を向けることしかできない。


「させぬ!」


 しかし、影狼がイザーラへと辿り着く前に、その体は撃墜された。メロディのバスタードソードが叩き落され、部屋の中にガツンと音が響く。勢いあまって床石を叩いた結果だ。

 墜落した影狼は素早く立ち上がろうとするが――、頭がずるりと胴体から落ちる。遅れて部屋の中に響いたのは斬撃の音ではなく、サクラが倭刀を納刀する音だった。


「――我流抜刀術四十八手、二十七。千鳥の曲」


 刃はおろか、振るった倭刀の音すら聞かせぬ一撃に、影狼は成す術もなく絶命した。死の瞬間は、今も理解できていないのかもしれない。遅れて狼の体が倒れた今、ようやく死が訪れたかのようだった。


「あ、相変わらず凄いのぅ……」


 イザーラを救ったメロディの素早さも褒められるところだが、サクラの動きが速すぎて印象が薄まってしまったほどだ。


「無駄に長生きしてるだけはあるやろ」


 サクラは謙遜せず、ケラケラと笑う。その気持ちの良さに、メロディは苦笑するしかない。イザーラもサクラを褒めつつ、メロディへと礼を言った。


「だいじょぶ、玲奈ちゃん?」


 リルナは影狼に押し倒された玲奈へ手を差し伸べ、助け起こした。盗賊職である玲奈としては失態なのだが、彼女は気にした風ではない。


「まさかダークウルフがいるとは思わなかったネ。蛮族じゃなくてモンスターよネ」

「ダークウルフ?」

「気配も足音も鳴きもしない、盗賊泣かせのモンスター。一流の盗賊でも察知できないけど、いつかは私も気づきたいものヨ」


 思い返してみれば、確かにダークウルフの行動は全てが無音だった。倒れる時でさえ音がしないのだから、盗賊泣かせのモンスターというのも納得ができる。

 一同がそれぞれ落ち着きを取り戻した頃、ダークウルフの死体がデロリと溶け出した。


「うわ、なんじゃ?」

「消えてく……」


 おっかなびっくりとメロディとリルナが死体に近づくが、それを待つまでもなくダークウルフの体はみるみる液体になり霧散していく。どうなっているんだ、と考える暇もなくすっかりと姿形が消えてなくなってしまった。


「ダークウルフは、こんな死に方するんか?」

「し、知らないネ。こんなの初めて見るネ……」


 サクラの質問に玲奈は首を横に振る。初めてみる死体消失現象だが、なにせ調べるにも消えてなくなった後だ。調べようもなく疑問だけが残ってしまった。

 更に不可解なことは続く。


「ねぇねぇ……どうしてダークウルフはこんな所にいたんだろう」


 リルナは金属の扉を先を除きながらみんなに聞いてみた。

 その先は、部屋ではなく物置にも似た空間であり、人間が二人も入ればいっぱいになってしまう程の大きさしか無かった。およそダークウルフが一人で隠れ住むには向いておらず、まるで意図的に閉じ込められていたかのようにしか思えない。

 蛮族の仕掛けた罠なのか?

 はたまた別の案件か?

 リルナたちは警戒を更に強めて、探索を続けるのだった。


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