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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その16 ~かんたんなおしごと~

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~かんたんなおしごと~ 4

 石柱に座る少女は、リルナたちが近づくと立ち上がって出迎えてくれた。

 太陽の光に反射した彼女の髪は白銀に見えた。それを後ろで大きくゆったりと三つ編みにしている。その先に黒いリボンで結われていた。

 袖なしの黒いジャケットを着ており、少女の二の腕は細く白い。足首まで届くスカートも黒く、また彼女が履いている靴も黒で、ひときわ少女の肌の白さを強調していた。

 もしダークニゲンたる大川真奈と出会っていなければ、彼女こそダークニゲンと勘違いしそうなくらいに肌が白い少女だった。それを証明するかのように、彼女の手には黒い日傘。貴族でも無いニンゲンが日光を遮断しているのは珍しく、リルナたちの目を引いた。

 そんな少女の表情は見えない。ツバの広い黒の帽子を目深にかぶっており、チラチラと見える瞳は金色。メロディ以上に可愛らしい顔のつくりではあるのだが、彼女はそれを隠すように徹底的に黒で全身を覆っていた。

 唯一の黒ではない物といえば、彼女の肩から斜めにかかっている革の鞄だろうか。小さな胸の谷間をとおって、コゲ茶色の革が通り、彼女の胸の形をすこしだけ強調させていた。もっとも、強調できる大きさではないので、ダイナミックな魅力とはなっていないが。


「ごきげんよう、冒険者の皆様」


 少女は日傘をたたみ、優雅に礼をすると口元をにっこりと笑ってみせた。


「ご、ごきげんよう? え~っと、あなたは?」

「私、クリア・ルージュと申します。ご遠慮なくルージュと、もしくはクリアちゃん、とお呼びください」


 うふふ、とクリアは小首を少しだけ傾げ、目深な帽子の下で金色の目を細めた。


「で、そのクリアちゃんが何のようじゃ?」

「実は私、マッパーという新しい商売を始めましたので、冒険者のみなさまに買って頂こうと思ったのです」


 リルナとメロディは思わず、マッパー? と、聞き返した。


「はい。マッパーです。地図を作る人、という意味をこめて名づけてみました。どうです、流行すると思いません?」

「思わへんな。語呂が悪い」

「あら、失礼なサムライですね」


 ぶぅ~、とクリアは唇を尖らせた。表情豊かで、本当に楽しそうに笑ったり怒ったり、と表情に出るようだ。


「それで、どうして地図職人が遺跡の前にいたのかしらぁん?」

「ん? あなたはだぁれ?」


 リルナたちの中で一番の長身であるイザーラに今ごろ気づいたようにクリアは質問した。


「あたしはイザーラよ。冒険者じゃなくて、ただの狩人。それがどうかしたのかしらん?」

「いえいえ、なんでもありませんわ。実はリルナちゃんたちのパーティを知っていたので、知らない人が混じってるなぁ、と思っただけです」


 うんうん、とクリアは自分で納得するように頷いた。帽子のツバが大きいので頭を動かす抵抗はなかなかに大きそうだ。


「ところでクリアちゃん。あなた、白くて綺麗な肌をしてるじゃない。その秘訣、あたしにも教えて欲しいわ~ん」

「うふふ、褒めても地図は安くなりませんよ~。でも、あの大嫌いな太陽から逃げ続けていれば、イザーラちゃんも綺麗になれるはずです」


 肌には自信があるのか、クリアはぐっとガッツポーズを決めて力説した。冒険者にとって肌はもう諦めたも同然な事柄なのだが、なるほど~、とイザーラだけではなくリルナとメロディも納得した。


「って、わたしたち地図なんか買わないよ? 今からこの遺跡に入るだけだし……」

「その遺跡の地図は、必要では?」


 クリスはそう言うと、肩からかけていた鞄に手を入れてゴソゴソと何かを探す。リルナからは真っ暗にしか見えない鞄の中で、クリアが探し出したのは一枚の紙だった。もちろん、それは地図であり、彼女が売ろうとしている物だった。


「じゃじゃーん。中身はまだ見せませんが、この石の遺跡と呼ばれている遺跡の地図です。隠し部屋まで網羅した地図が今なら5ギルでいかがでしょうか!」

「高い。500ガメルや」


 間髪入れずサクラが値切った。


「ご、ごぎゃ、ガメル!?」


 あまりに安い値段を提示されてクリアは噛んでしまう程に。


「い、いやサクラちゃん。それはあまりにも酷いです。3ギルでいかがでしょうか?」

「アカンな~。ただの紙やろ。それに地図やいうても正確さがあらんとアカンしな。1ギルや」

「ぐ、ぐぬぬ……で、では2ギルで」

「1ギルと500ガメル」

「無理ですよ~。生きていけませんよ~!」


 うわ~ん、とクリアは本当に涙を流しながらサクラの手をにぎる。


「はじめての仕事なんです~。どうか、どうか、お願いします」

「いや、この時代に女の子が泣き落としなんて……まぁええわ。5ギルで買うで――リルナが」

「わたし!?」


 突然に話をふられて、素っ頓狂な声をリルナがあげた。


「ぱ、パーティ共有財産の設立を希望しますっ!」

「それはええな。お金の管理は最年長の務めやし、ウチに任せてんか」

「先ほどの提案を却下しますっ!」

「受理するぞ!」


 パーティ共有財産はあっという間に破棄されてしまった。サクラは無駄遣いが多いし、お金を任せるとロクなことには成らないと、召喚士とお姫様の直感が告げていた。

 仕方なくリルナがクリアに5ギルを払う。ありがとうございます、と手をにぎられ感謝されたあとに、遺跡の地図を受け取った。


「あ、意外と大きいんだ」


 石の遺跡は地下に続いているらしく、地上部分は小さな四角だけ。その部屋の奥側に階段のマークが書かれていて、それが地下へと続いていた。


「隠し部屋って本当にあるのん?」


 上から覗き込むイザーラは先ほどクリアが言っていた隠し部屋が気になるらしい。その言葉を受けてクリアが地図の説明をする。


「ここです、ここ。壁に仕掛けがあって、押すとここの扉が開きます」


 ほへ~、とリルナ、メロディ、イザーラが聞いている後ろで、サクラはひとりで周囲を確認する。やはり蛮族の姿は見えない。代わりに、遺跡の隅々まで記した地図を持つ少女がひとり居た。その怪しさは、どうあっても拭えない。


「ところで聞きたいんやけど。クリアちゃんはなんでこんな所におったんや?」


 サクラの質問に、その意図に反してクリアは瞳をキラキラと輝かせた。

 まさに、


「良くぞ聞いてくれました!」


 と、待っていたように。


「地図なんてものは、滅多に売れません! しかし、需要はあるはずです。人間は地図無しでは生きていけない生き物です。だって迷子になっちゃうんですから。私は一生懸命に地図を作りました。冒険者を雇って地図を製作しました。あとは売るだけです! さて、誰に売ればいいと思います?」


 突然の質問にリルナは、ほえ? と首を傾げた。


「冒険者じゃないの?」

「その通りです。ですが、冒険者の中でも特に必要としている人をターゲットにしたい。そう思った私は情報を集めました。そして、その時が来たのです。なんと石の遺跡が蛮族の家になっちゃってるらしいじゃないですか。そうなると蛮族退治にくるのが冒険者の仕事です。ですので、そんな冒険者に地図を買ってもらおうと、ずっと遺跡の前で待ってました! 素晴らしい! クリアちゃんって頭イイ!」

「回りくどい商売やな~。冒険者ギルドで売ればええのに」

「え?」

「それこそ依頼の出発点がギルドなんやから、ギルドに地図を卸せばええやん。地図が売れたらクリアちゃんに何パーセントか入る仕組みにしとけば、あとは各地の冒険者ギルドにお金を回収するだけの生活がまっとるで」

「……サクラちゃん、天才って言われない?」

「アイデア料は上手くいってから貰おか。交渉はクリアちゃん次第やな」

「ハハー!」


 クリアはその場で土下座した。感情の起伏の激しさが頂点に達したのか、体がフルフルと震えている。どうやら激情家らしい。


「あ、あの! わ、私も遺跡の蛮族討伐に連れて行ってもらえないでしょうか! 地図の読み方を案内いたしますです!」

「どんな蛮族がおるか分からんし、危ないで。のぅ、リーダー?」

「なんでわたしに話ふるのよっ」

「こういうのを決定するんがリーダーの仕事やろ?」

「ぶぅ。どうせ戦闘で役に立ちませんよぅだっ」


 ともかくとして、リーダーは多数決を取った。結果は、付いて来てほしいが0票、、ここで待ってなさいが0票、さっきの地図代かえせが0票、別にいいよが4票。満場一致でクリアのパーティ加入が決定した。


「足を引っ張らないように頑張りますね!」


 クリアは拳をギュッと握り締めて気合いを見せた。そして、黒く広いツバの帽子を深くかぶりなおす。

 その下で浮かべた口元の笑みは、商売の喜びか、はたまた――?


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