~かんたんなおしごと~ 1
●リルナ・ファーレンス(12歳)♀
召喚士:レベル6 剣士:レベル0(見習い以下)
心:普通 技:多い 体:少ない
装備・旅人の服 ポイントアーマー アクセルの腕輪 倭刀『キオウマル』
召喚獣:9体
●サクラ(212歳)♀(♂)
旅人:レベル90 剣士:レベル6
心:凄く多い 技:凄く多い 体:多い
装備:倭刀『クジカネサダ』 サムライの鎧 サムライの篭手
●メローディア・サヤマ(10歳)♀
剣士:レベル6
心:多い 技:少ない 体:少ない
装備:革の鎧 バスタードソード バックラー
○ガイザー・ライン〔イザーラ〕(18歳)♂ 《エルフ》
狩人:レベル7 薬士:レベル10
心:多い 技:多い 体:とても多い
装備:エルフの弓 木の矢 携帯調合器 各種薬草
朝、というより昼が近くなってきた時間帯。
そろそろ冒険者の宿『イフリート・キッス』に、休日と決め込んだ男性冒険者がアルコール摂取にやってくる、そんな時間にも関わらず、召喚士リルナとそのご一行は今日も今日とて仕事がなく、仲間はテーブルで談笑していた。
「カーラさん! レベルアップ! レベルアップがしたいです!」
「無茶を言うな無茶を。あんたみたいなのが、一番死にやすいんだから」
カウンター席に乗り出してリルナは隻腕店主に直談判するが、カーラはキセルで紫煙を吐き出しつつ嘆息する。
何事も慣れてきた頃が一番危ない。仕事であろうが趣味であろうが関係なく、人間は失敗する。恐らく、それは蛮族であろうと同じで、神さまだって平等だ。きっとヴァンパイア・ロードもそれを経験してきただろう。
仕事や趣味であれば、反省して次に活かすことができる。しかし、冒険者だとそうはいかない。失敗は死に直結する。たとえ死は免れたとしても、二度と戦闘はできない体になるかもしれない。店主カーラ・スピンフィックスの腕のように。
「だってスカイ先輩たちって8になったんでしょ。わたしまだ6だもんっ」
「レベルなんてただの指標だ。経験してきた証みたいな……その程度のもんだ。サクラが良い例だろ? 強さとレベルは比例しない。旅人としてのレベルは90かもしれないけど、冒険者としてのレベルは6だぞ」
「だって~!」
だってもこっても無い、とカーラはリルナの顔に煙を吹きかけた。男性冒険者なら、ありがとうございます!、と感謝するところなのだが、リルナに被虐趣味は無い。なにすんの、と抗議の声をあげた。
そんなリーダーの奮闘を眺めながら、いつものテーブル席では四人の姿があった。サクラとメロディとルルに加えて、筋骨隆々のエルフ、ガイザー・ラインことイザーラだ。
「それで、イザーラ殿は女性に成れたのか?」
アップルティを飲みながらお姫様はイザーラに聞いてみた。しばらくサクラと共に魔女レナンシュの元に引きこもっていたのだが、戻ってきた姿はいまいち変化がない。呪いは失敗したのだろうか、とメロディはイザーラに質問した。
「んもぅ、良くみてメロディちゃん。こぉこっ」
イザーラは可愛らしく自分の顎をポンポンポンと指で示してみせる。エルフ族に特有の整った顔立ち……とは懸け離れた大きく無骨な顎。普通のエルフであれば中性的なのだが、残念ながらそれにも程遠い。
メロディは半眼でイザーラを見るが答えは分からず、お仕事前の休憩タイムを楽しむルルに視線を送った。ミルクティを楽しんでいたルルも間違い探しの要領でイザーラを見るが、どうやら答えは分からないらしく、森羅万象辞典を開いてエルフの項目を調べ始めた。もちろん答えは載っていない。
「もぅ! 失礼しちゃうわねぇ。ヒゲよ、ヒゲッ」
「自分を卑下するのは良くないとメイド長に教わったのじゃが?」
「面白くない冗談よ、お姫様。良く見てよ、ヒゲがなくなったのよぉ」
あぁ~! と、お姫様と学者見習いはポンと手を鳴らした。よくよく思い出せば、イザーラの口周りはヒゲで青くなっていた。いわゆる青髭だ。それが見事になくなっており、ツルツルになっている。丁寧に剃ったわけではなく、単純にヒゲが生えなくなったようだ。
「う~む、しばらく引きこもってヒゲが無くなる程度……呪いとは難しいものなんじゃのぅ。しかし、まだ男なのじゃな?」
「まぁレナンシュの経験も少ないし弱いからなぁ。せやけど、イザーラが進んで呪われてくれるお陰で、魔女の経験も増えて強くなる。つまり、ウチが男に戻る日も着々と近づいとる。一蓮托生や」
美女と野獣が肩を組んでハッハッハと笑った。女となってしまった元男と、女になりたい男。複雑な人間関係が生まれていた。ちなみにサクラは緑茶、イザーラはハーブティを飲んでいる。意外と多く種類を用意しているのは厨房担当のコボルト、ハーベルクの趣味かはたまた女性しか所属できない冒険者の宿、という特徴からか。店主のカーラはもっぱらアルコールばかり飲んでいるが。
「じゃぁレベルアップはいいから、仕事をくださいっ!」
「無い」
「せめて仕事がほしいよっ! なければどうしたらいいのよっ!」
きー、とリルナはカウンター席で怒りのままに声をあげた。そんな彼女の頭にカーラのキセルが振り下ろされる。絶妙な力加減で、中のきざみ煙草は飛び出さなかった。何気なく披露される達人の技だ。もちろん、リルナはきづかない。
「うーうー、いたいよぅ」
「荒れる気も分かるけど、依頼はどうしようもないじゃないか。冒険者ギルドから廻されて来た仕事しか無いし、個人的な依頼もなんだろ? いい機会だからパーティ名でも考えたどうだ?」
「パーティ名……何も思いつかないし……なにかある?」
リルナは振り返ってみんなに聞いてみた。
「召喚士と姫とサムライ、でどうじゃ?」
「ウチもそれに賛成や」
真面目に考えてっ! とリルナは却下した。
「そもそも、そこのエルフはパーティメンバーなのか? まだ男みたいだから、宿に所属はできないよ」
「あら、あたしの心は女よ。男にしか興味がないわ」
「……じゃぁいいか。サクラも男らしいしな」
「あたしは冒険者じゃなく薬士なんだけどね。まぁお手伝いくらいはできるから、いつでも呼んでね。あっ、でも、呪い優先よ。はやく、この邪魔な×××――」
イザーラの言葉は飛んできたキセルによって中断させられた。下品禁止、ということらしい。
「あはん」
「まぁ風紀は乱すなよ。ただでさえセクハラが横行してる店だからな。私としては、こう、オシャレな店をやりたかったんだが……どうしてこうなったんだか」
理想と現実は程遠いらしく、男性冒険者に覆い尽くされる店内を想像してカーラは大きくため息を吐いた。そんな下品な冒険者のお陰でリルナたちの宿代は格安になっているので、いまいち文句は言えない所属冒険者たちだった。
「まぁいいわ。さ、リルナちゃんもさっさと休むか冒険に出るかしなさいな」
「ぶぅ~」
「文句があるなら、冒険者ギルドに行きなさいな。今この瞬間にも依頼された仕事があるかもしれないわよ」
「そうなの?」
「依頼はギルドからそれぞれの宿に分配されるシステムになってるわ。直談判したら、もらえるんじゃない?」
「分かりました! 行くよ、サクラ、メロディ!」
「あたしも手伝うわ、リルナちゃん」
「じゃ、イザーラも!」
嬉々として出かけるリルナとメロディ。その後ろにサクラとイザーラが二人を見守るような表情で出て行く。
そんなチグハグなルーキーパーティを、カーラとルルは気をつけてと見送るのだった。




