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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その15 ~強くて弱くて、儚いヒト~

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~強くて弱くて、儚いヒト~ 2

「それで、依頼って何?」


 街中をメロディと一緒に歩いていたが、よくよく考えるとどこを目指して歩いているのか分かってなかったことに思い至り、リルナは聞く。もちろん、今更なのでお姫様はポカンとしたあと、ケラケラと笑うのだが、すぐに真顔になって首を傾げた。


「なに百面相してるのよ」

「召喚士殿に言われたくないのじゃが……それよりも、どうして目的地が分からぬのに質問してこなかったのじゃ?」

「いや、メロディの足の向く方向に任せてたから」

「妾とリルナは隣同士で歩いておる。しかし、それだと曲がった際に遅れるではないか」


 メロディは何度か街角を曲がっている。それなのにリルナは遅れる様子もなくしっかりと付いて来ていた。目的地を知らないはずなのに、それが不思議だ、とお姫様は訴える。


「えっ、だって視線とか体の動きで分かるじゃない?」

「……なぜ、召喚士なんてやっとるのじゃ。もったいない」

「えー!? なにそれ、マイナー職業の批判っ!?」

「いやいや、前から思っておったが、本当に盗賊の才能があるんじゃなぁと思っての。妾なんか姫の才能すらないぞ」


 貴族は好かぬ、とメロディは苦笑した。


「剣の腕前は凄いじゃない。ほら、闘技大会で決勝まで進んだじゃない?」

「しかし、王子様に負ける程度の強さじゃ。本物とは言えぬ」


 上には上がいる。

 それは当たり前だが、実際に上の存在を見せられると、少なくとも自信は揺らぐもの。今までの自分を否定する訳ではないが、疑問ぐらいには思ってしまう。たとえ、間違いではないとしても。


「でも、サヤマ女王が剣の師匠に当たるわけでしょ? それって最大限の効果を発揮してると思うんだけどなぁ。だって、独学ではじめるより、よっぽど上達が早いはず」


 その証拠が十歳にしてレベル6の冒険者だろう。訓練学校を卒業していない、という期間を差し引いたとしても、彼女ほどの腕前はそうは居ない。


「この鎧があってこそじゃ。言っておくが、妾は防御の実践をまだこなしていない、と言える状態じゃぞ」


 果たしてそれは本物の冒険者と言えるか? というメロディの言葉にリルナは黙るしかなかった。なにせ、ほとんどの攻撃を自動的に魔法防御する神話級の装備。相手の攻撃など、どうでもいい、と捉えて掛かれば倒せない敵は皆無に近いだろう。もちろん、例外はあるが。実質、メロディはクリスタルゴーレムの一撃を味わっている。神話級の防具も万能ではない。


「盗賊の才能か……やっぱりあんまり嬉しくない……」


 訓練学校の成績が散々だったのを思い出し、リルナは口から呪詛が漏れそうになる。お陰で冒険者知識がチグハグなのだ。勉強できていないところもあり、知らないことも多い。


「ほれ、付いたぞ」

「ここは……リトルヴレイブ?」


 商業区は武器防具店の並ぶ区画の一番のすみっこ。おんぼろでくたびれた店の前には店名を記した看板がちょこんとあり、ギリギリでお店を示していた。

 カーラに教えてもらってからリルナやメロディが度々お世話になっている店であり、アクセルの腕輪やバスタードソードを購入した店でもあった。

 どうやら今回の依頼主はリトルヴレイブの店主、マイン・リューシンのようだ。


「うむ、なんでも簡単なお使いらしいぞ」

「サクラも帰って来ないし、二人だけだと簡単なのがいいよね」

「そういう意味では、やはり妾は犯人前かのぅ。前衛もサクラ便りな部分がある」

「まぁまぁ、焦ってもロクなことにはならないから、ゆっくり行こうよ、お姫様」

「そうじゃの。才能の無い者同士で頑張るかの」


 冒険者は帰ってくるのが重要だ。たとえ依頼に失敗したり、遺跡の手痛い罠に陥ったりしても、しっかりと宿にさえ帰ってくることができれば、また旅に出られる。冒険者らしい終わり方さえ迎えなければ。

 二人は乾いた笑い声をあげながらリトルヴレイブの扉を開けた。カランコロンとドアベルが二人を迎えてくれるのだが、相変わらず店主は出てこない。しつこい商品解説も押し売りも無い良心的な店と捉えるか、やる気の無い店と捉えるかはお客さん次第だ。


「マインさーん」

「依頼を受けて来たのじゃー」


 という訳で、リルナとメロディは勘定台のある店の奥の、そのまた奥に続く扉に向かって店主を呼んでみる。幸いなことに声が届いたらしく、はーい、と返事があった。

 しばらく待つとタオルが顔をガシガシと拭くマイン・リューシン38歳が顔を出した。相変わらずリルナやメロディとそう変わらない年頃の娘に見えるドワーフ族だ。顔や手の汚れは何やら製作中のようで、汗と混じってボロボロになっていた。


「ふはぁ、すずしい~。ようこそいらっしゃい。お買い物?」

「依頼じゃよ。何を作っておるのじゃ?」

「マジックアイテムよ。この前は失敗しちゃってさ」


 どんな失敗? と、リルナは聞いてみる。見た目や商売のやる気無さはマイナス要素なのだが、マインの製造する武器や防具類は一級品だ。そんな彼女が失敗したというのならば、少しばかり聞いてみたい衝動に襲われるのは無理もない。


「炎の剣を作ったんだけどね、こう剣が燃える感じで」


 魔力を通せば刀身から炎が発声するマジックアイテムだったそうだ。


「勢いあまって柄も燃えるようになっちゃって。試した人が燃えちぇって大変だったわ」


 あっはっは、とマインが指差した一角には黒くこげた痕。火事になってもおかしくない話だが、マインにしてみれば笑い話らしい。


「わたし、マジックアイテムいらないわー」

「妾も武器は普通でいい……」


 せめて死ぬときは冒険者らしく死にたい。街中の武器・防具屋で死にたくない。と、二人の少女は心に誓うのだった。


「という訳で、彼にお詫びの剣を作ってるんだけど、熱くてしょうがないや」

「なんにも同情できない」

「うむ」


 召喚士とお姫様の態度に、いや~ん、とマインは笑うのだった。


「まぁそれよりも依頼を受けて来たのじゃ。お使いらしいが、依頼内容を説明するのが、今のマイン殿の仕事でもある」

「はいはい、依頼ね。ちょっと待っててね~」


 そう言うと、マインは再び店の奥へと移動した。なんだろう、とリルナとメロディが話していると、すぐに戻ってくる。


「依頼内容は超簡単! これをカンドの街の『ルミナ・ルリラ』っていうお店に届けるだけ」


 と、差し出されたのは彼女の顔よりも少し小さいくらいの箱だった。木で作られているらしく、中身は定かではない。特徴的なのは、蓋と思われる場所に蝋が厚く封をしていること。ご丁寧にリトルヴレイブと共通文字で印まで押されていた。

 リルナはをれを受けるが、


「重たっ!?」


 想像以上の重さに驚きの声をあげた。メロディに渡すと、彼女も驚くほどの重さだった。もてないほどではないが、大きさから想像もできない重さであり、二人は興味津々に中身を聞いた。


「それは秘密よ。もし途中で見たら、蝋が割れちゃうからバレバレになるので気をつけて。ルミナ・ルリラに着いたら見せてもらえると思うわ」

「持っていくまで中身は秘密ってこと?」


 うんうん、とマインはご機嫌に頷く。何が楽しいのか分からないが、ニヤニヤと二人を見つめた。


「依頼料金は前払いで一人3ギルと往復の食料費を考えて……う~んと全部で15ギルでどうかな?」

「お使いとしては妥当じゃな」

「うん、それでいいよ~」


 決まりね、とマインはリルナとメロディに十五枚づつのギル硬貨を渡した。ただのお使いなので駆け出しの冒険者がやる仕事なのだが、他に何も無かったので仕方がない。明日になったら別の依頼が舞い込む可能性もあるが、一週間続けて何も依頼が無いこともある。

 できる仕事はやっておいたほうが良い。

 それが冒険者の生き方だ。


「それじゃ頼んだよ~」

「は~い。いってきま~す」

「行ってくるのじゃ~」


 マインに手を振り、二人は一度イフリート・キッスに戻ってから旅の準備を整え、カーラに挨拶してからヒューゴ国の中心的な街、カンドへと出発するのだった。


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