~強くて弱くて、儚いヒト~ 1
●リルナ・ファーレンス(12歳)♀
召喚士:レベル6 剣士:レベル0(見習い以下)
心:普通 技:多い 体:少ない
装備・旅人の服 ポイントアーマー アクセルの腕輪 倭刀『キオウマル』
召喚獣:9体
●メローディア・サヤマ(10歳)♀
剣士:レベル6
心:多い 技:少ない 体:少ない
装備:ヴァルキュリアシリーズ・リメイク バスタードソード バックラー
冒険者の宿『イフリート・キッス』。
女性しか所属できないという特殊な制限が持たれた宿だが、男性が立ち入り禁止という訳ではない。その女人限定という魅惑のワードから、一階の酒場にフラフラと光に吸い寄せられる蟲モンスターのように男性冒険者が溢れる。そういった理由からか、いつもアルコールのにおいが漂っていた。
しかし、早朝の爽やかな空気はアルコールを霧散させるのか、はたまたすでに乙女の鼻腔に住み着いてしまったのか、少女たちは一階で朝食をとり、すこしの休息を楽しんでいた。
「ぐぎぎ」
「がるる」
二人を除いて。
龍喚士、と知らぬ間につけられた二つ名と、その唯一無二の職業にて知名度を上げてしまった少女、リルナ・ファーレンス。
駆け出しから少し脱却した、後衛職である魔法使いが何故か前衛とリーダーを務める不思議なパーティ『スカイスクレイパーズ』。そのリーダーであるカリーナ・リーフスラッシュ。
そんな二人が、今日も今日とていつものように睨み合っていた。
依頼が張り出される掲示板。先輩冒険者たちはそれぞれ自分たちのレベルに見合った依頼書を外し、すでに店主のもとへと運んでいる。残された比較的簡単な依頼を巡って、同程度のパーティである二人は、毎日つかみ合いをしているのだった。
「すまんのぅ、お主たちには何の恨みも無いんじゃが」
「いえいえ、こちらこそ」
領主の娘であるお姫様、メロディが同じ職業であるロロエ・リンドールに謝る。四歳も年齢が離れているのだが、そこにいざかいは無い。二人はのんびりと食後の紅茶を楽しんでいた。
「お姫様のパーティのサクラさんは、最近見かけませんね」
「なにやら友人が呪われているのをサポートしておるそうじゃ」
「の、呪い?」
なんだか不穏な言葉に、ロロエをはじめ盗賊のクライアと神官のパフールが若干引いていく。レベルの見合わない装備と強さに、スカイスクレイパーズのメンバーはそれなりにリルナたちを尊敬しているが、良く分からない不気味さも感じていた。
なによりリーダーのカリーナは、唯一のレベル相応であるリルナに余計に噛み付くことになっているのだが、パーティメンバーたちはすでに慣れっこになっており、もう止める気力もないのだった。
「これはわたしが先に目を付けたから、こっちのだっ!」
「先に触れたのはこっちよ!」
「むきー!」
「くけー!」
どうやら依頼が被ってしまったらしく、二人は奇声をあげて相手を牽制する。そして、いつものように二日酔いの頭痛に悩まされているカーラの逆鱗の触れ、二人して宿の外へと放り出されてしまうのだった。
「やかましい! 毎日まいにちケンカして! 次にやったら裸でウェイトレスさせるよ!」
「ひぃ!」
「ご、ごめんなさい!」
くわっ、と表情を怒りのものにしてカーラは宣言する。もちろん、彼女が言うことは絶対だ。酔っ払いがケンカを始めて際、彼女は有言実行している。
「次やったら素っ裸にして屋根に吊るす」
と、言葉通り、二度目は無かった。二人の男性冒険者が裸で屋根に吊るされていたこともあり、リルナたちは朝から悲鳴をあげる破目になったのは、記憶に残っている。
そんなこともあり、リルナとカリーナは地面に突っ伏しながらも休戦を誓った。
「カーラさん、私たちはこれで」
「妾たちは、このお使い依頼かのぅ」
リーダーは放っておいて、それぞれのメンバーは各々の実力にあった依頼を選びカーラに申請する。いつまで経っても冒険に出ない冒険者ほど怠惰な存在はいない。お金を稼ぐこともそうだが、実力をあげ実績を伸ばさないと、待っているのは悲しい運命だ。ルーキーであれば、それこそ我武者羅に依頼をこなしていても不思議ではない。
イフリート・キッスでは宿代が安いので、それなりに余裕があるのだが、他の冒険者の宿では、その日暮らしの冒険者も多いのだ。リルナという珍しい存在をパーティに引き入れようとしていたのも、そういう理由があってのこと。目立ち、有能な能力があれば、それこそ依頼が向こうから舞い込むのだから。
「はいよ、スカイんところは了解。お姫様も了解だが、さっさとパーティ名を決めておくれよ」
名前を書くのが面倒だ、とカーラはキセルをくわえながら器用に片手で名前を記していく。
「パーティ名か……ふむ。龍と姫と侍、でどうじゃ?」
「それ、私じゃなくてリーン君じゃない。ていうか、そのまま過ぎてパーティ名らしくない」
いつの間にやら店内に戻ってきたリルナがお姫様のアイデアにツッコミを入れた。
「いやぁ、センスが出るのぅ。妾は向いとらん」
「わたしもダメっぽい」
アイデアが無いよ、と召喚士と騎士は肩をすくめた。
「私が考えてやろうか」
「いやですよ、スカイ先輩。スカイ先輩みたくなりたくないですよ、スカイ先輩。だって、スカイ先輩じゃないですか」
「お前、そんなに私のことが嫌いか……」
またケンカが勃発しようになり、カーラが一睨み利かせたところで、スカイスクレイパーズは宿を飛び出していった。主にリーダーだけが急いで、パーティメンバーはのほほんと、だが。
「まぁ、今回は二人だからマシだが。ほれ、受領したから働いてこい。せいぜい、イフリート・キッスの名前は汚すんじゃないよ」
「は~いっ」
「了解したのじゃ」
いってきます、とカーラをはじめルルとハーベルクにも手を振って、リルナとメロディは今日の冒険へと出発したのだった。




