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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その14 ~チャーム・チャーマー・チャーメスト~

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~チャーム・チャーマー・チャーメスト~ 4

 サヤマ城下街の神殿地区は南にあり、まるで城の城壁のように建ち並んでいた。主要都市には大抵として神殿地区があり、人々の心の安寧を司っている。その形状や規模はまちまちであるので一概には言えないが、寄付金によって成り立っているので立派な神殿ほど信者が多い証でもあった。

 サヤマ城下街においては、新しい街だけに神殿はそこまで大きくない。地方によっては街の領主よりも神殿が力を持っていることもあり、神様の影響力の大きさを示す事柄でもあった。


「こっちですよ~」


 そんな神殿地区をリリアーナに案内されて歩く。白い石で統一された歩道は常に掃除されており、今も神官たちが自分たちの神殿前を掃除している。ゴミひとつ落ちていない綺麗な場所なのだが、リルナたちを見る目は厳しかった。


「リリアーナがいても睨まれてる……」


 ひぃ、とリルナはリリアーナの白い翼に身を隠した。どうやら相当に冒険者は嫌われているらしい。よほどの勧誘が神官たちを襲ったのか、目に見えて明らかだった。同じような経験をしたリルナは痛いほどに良く分かったのだが、ひとつ疑問が芽生える。


「どうして、わたし達のこと冒険者って分かるのかな?」

「お主じゃないのか、リルナ。この街では知らぬものはおらんじゃろう」


 メロディに言われて、なるほど、とリルナは落ち込む。なにせ先日、街のど真ん中にホワイトドラゴンがやって来て、そのまま空へと旅立ったのだ。もう知らない人はゼロと言っても良いぐらいにリルナは目立ってしまっていた。

 と、そんな風に納得したのだが、ルルが手をあげて意見を言う。


「メロディちゃんだと思うよ?」

「妾か? どうして?」


 それそれ、とルルはメロディの腰を指差す。そこには立派なバスタードソードがあった。護身で持つには大き過ぎる剣なので、冒険者と証明してみせているようなものだった。


「と言いますか~、リルナさんもメロディさんも有名ですのでバレバレですよ~」


 この国のお姫様であり、冒険者をやっているメローディア。そんな彼女のパーティメンバーは稀有な職業の召喚士であり、しかもホワイトドラゴンを呼び出せる。ただでさえ有名なのに、その知名度を加速させる二人なので、リリアーナは静かに笑った。


「むぅ」

「仕方ないのぅ」


 リルナとメロディはバンザイして、道行く神官たちに敵意がないことを示すしかなかった。


「ここがディアーナ神殿ですぅ」


 リリアーナが立ち止まり、紹介してくれる。ディアーナ・フリデッシュ神を祀る神殿は、真っ白な柱が入り口の屋根を支えるようにそびえていた。壁にはディアーナ神をイメージした彫刻が施され、ひとつの芸術作品にも感じられる。

 夜と静寂を司る神様なだけに厳かな雰囲気でもあり、掃除している神官は静かにリリアーナに礼をした。その後ろに居るリルナたちにも静かに目礼してくれる。そこまで嫌われている様子では無さそうなのだが、あまり歓迎されているようでもなかった。

 幅の広い三段の階段を登ると入り口であり大きな両開きの扉がある。日が出ている内は開けっ放しなのだろうか、中まで見通すことが出来た。


「うわぁ、すごい」


 初めて神殿を訪れたリルナは思わず声を出してしまった。慌てて口をふさぐが、誰も咎める様子はない。

 ほっと胸を撫で下ろし、改めて中を見る。

 薄暗い神殿の中には、手前に長椅子が並んでいる。それが続き、奥までいくと壇があり、その後ろには巨大なディアーナ神の像が微笑んでいた。

 長い髪にゆったりとしたドレス。真っ白な石で作られたその像はその後ろにある巨大なステンドグラスと相まって、とても美しく見えた。色鮮やかなステンドグラスの光は、ディアーナ神の像に色を落とす。自然と色を付けた像は神々しくも感じられた。


「おはようございます、リリアーナさん。そちらは?」


 ふと声をかけられ、リルナはそちらを見る。そこには神官服を着たそこそこ年のいった女性が居た。厳しそうというよりも優しそうな顔立ち。ディアーナ神らしい神官、と誰もが想像する女性が声をかけてきた。


「あ、神官長さま~。おはようございます~」


 どうやらその女性は神官長という役職のようだ。リルナとメロディ、ルルはリリアーナに続いて挨拶する。


「初めまして、神官長さん。えっと、わたし達は依頼を受けてきたのですが……」

「まぁ、あなたがリルナ・ファーレンスさんですね。早速依頼を受けてくれるなんて……お待ちしておりました」


 どうやら神官長はリルナの顔を知らなかったらしい。名前は有名でも顔はまだ知らない人も居るんだなぁ~、とリルナは頷きながら思った。


「それで依頼内容って何なんですか?」


 その言葉に、神官長は口元に人差し指を当てた。ちょっぴりお茶目な行動にも思えるが、どうやら余りおおやけにはしたくないようだ。


「こちらへどうぞ」


 神官長はリルナたちを案内するように神殿の奥へと移動した。一同、顔を見合わせてからリリアーナを先頭に移動する。ディアーナ神の足元を横に抜け、神殿の奥の廊下へ出ると、そこからは信者たちの個室が並んでいるのだろうか。真っ白な石の廊下に木の扉が並んでいた。そんな中で、神官長はとある部屋の前で止まる。

 コンコンコン――、と三度のノックのあとに神官長は、いいかしら、と声をかけた。その後に中から声が響く。リルナには上手く聞こえなかったのだが、恐らくは入室を許可する声だろう。

 ドアノブをガチャリとまわして、神官長が扉を開ける。神官長の横から中を覗き見ると、どうやら小さな部屋になっていて、簡易的なベッドと小さなテーブルがあるだけのシンプルな部屋だった。


「どうぞ、お入りください」


 神官長に言われて、リルナたちは中へと入る。ちょっぴり窮屈なので、リルナとメロディ、ルルの三人はベッドの上へと上がった。

 部屋の中には、一人の神官が居た。ただし、頭からすっぽりと布団をかぶっているので、その顔を窺うことが出来ない。雰囲気で何となく女性だと分かるのだが、それ意外は一切として謎だった。


「リルナさん達、冒険者に頼みたい依頼は、この子なんです」

「ど、どうか助けてください! お願いします!」


 そういうと、布団をがばっと跳ね除けて、神官服の少女が顔をだした。そばかすが特徴的な少女は、今にも泣きそうな顔でリルナたちを見る。


「えっと……いったい、どうしたんですか?」

「私、モテちゃう呪いにかかったんです!」


 その言葉を聞き、リルナとメロディは頭の中で単語を噛み砕いた。右を見て、天井を見て、左を見て、ようやく結論に達する。


「「はぁ?」」


 意味不明。

 なんじゃそりゃ、とばかりに召喚士とお姫様は声をあげたのだった。


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