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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その13 ~エルフ王国と木の大精霊・ノルミリーム~

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~エルフ王国と木の大精霊・ノルミリーム~ 21

 木の大精霊神殿に戻った頃には、すっかりと夕暮れ時だった。


「お疲れさま~ん。すぐに元通りって訳にはいかないけれど、しばらくすれば動物も森も、元の姿に戻ると思うわ~ん」


 召喚姿では掌サイズなのだが、本当の姿は巨大で迫力満点。そんなノルミリームがくねくねと動くものだから、豊満なボディがこぼれてしまわないか、ハラハラものだった。


「ありがと、リルナちゃん。これ、お礼ね」

「うん……って、なんですか、これ?」

「ワラジ~」


 リルナが受け取ったのは、ツタで編まれた履物だった。ブーツがパッカパカになっていたので、縛って補強しているのだが、もう限界も近いのだろう。ひとまず、履き替えることにした。


「う~ん、街でゆっくりする時にはいいかも?」


 防御力が皆無なので、尖った石を踏むだけでアウト。安全な街履き用である。


「あと、これも~」


 リルナの周囲にツタが発生して、しゅるしゅると彼女に巻きつく。ちょっとしたモンスターに襲われている気分で、リルナは悲鳴をあげる。しかし、植物にリルナを襲う気など更々なく、彼女の負傷した左腕を固定するように絡まった。ちょうど、骨を折った時に使う三角巾のような要領だ。


「もうちょっと、こう、う~。なんかエローい」

「うふふ」


 確信的犯行だったのか、ノルミリームはニヤニヤと笑う。真面目な表情をみせる時もある大精霊なのだが、これではどちらが本性であるのかサッパリと分からない。


「じゃぁね、リルナちゃん。またいつでも呼んでね。あと、縛るのは任せて!」

「そんなキャラクター作らなくていいからっ!」


 ひとまず、大精霊からのクエストは無事に完了。きっちりと契約を結び、リルナたちは木の神殿を後にした。


「日が落ちちゃうし、あたしの村に来ない? 歓迎するわよ」

「ウチの貞操は無事やろうな」

「当たり前よん。あたしは攻めるより受けるほうが専門なんだから」

「なるほど、それは良かった……のか?」


 二人の会話が分かるような分からないような。そんな風に小首を傾げるリルナはさて置いて、とばかりにイザーラを先頭にして森を進んでいく。


「ねぇ、攻めと受けって?」

「挿れる方と挿れられる方や。主に同姓で……というか、男の場合に使われる言葉やな」

「あぁ、なるほど。攻撃と防御じゃないんだ」

「防ぐ必要は無いわよ。ウェルカムしなくっちゃ。うふふふふふ」


 イザーラの不気味な笑みにサクラとリルナが思わず一歩だけ立ち止まった。しかし、陽は段々と落ちていくので、森に取り残される訳にもいかず、付いていく。

 しばらく歩いて辿り着いたのは小さなエルフの村。森の中にひっそりと存在し、地図にも載っていないそうだ。そういった村はカーホイドではたくさん有り、静かに暮らしたいエルフが多いとも言える。交易もするが、基本は自給自足の生活を営んでいるらしい。


「狭い家だけど、適当にくつろいでいってね」


 イザーラの家は本当に狭かった。一人暮らしの一軒家なのだが、部屋数はひとつ。ベッドがあるだけの質素な作りで、あとは台所があるだけ。


「あ~う~、疲れた~」


 リルナはすっかりと疲れ果てていたのか、床にごろんと寝転ぶとそのまま寝入ってしまった。


「あらあら。薬を新しく塗りたかったのだけれど」


 女の子を脱がすのは苦手ね、とイザーラは肩をすくめた。薬の代わりに、リルナにタオルケットをかけてあげる。


「あ、サクラ姐さんはベッドを使って。あたしはリルナちゃんの隣で寝るわ」

「本来なら、ものすごぉ危ないセリフなんやけど……まぁ、お前さんやったら大丈夫か。ほな、遠慮なく……って、良ぉ考えたらリルナをベッドで寝かすべきやないか?」

「……そういえばそうね」


 唯一マトモな少女を床に寝かせたとあっては、元男性と肉体は男性の二人としては、すこしばかり気が引ける。という訳で、イザーラはひょいとリルナを抱き上げるとベッドに寝かせた。


「保存食があるし、夕飯はこれでええやろ」

「あら、ステキ。じゃぁあたしも姐さんの為にスープでも作ろうかしら。ふふふ。あ、お酒もあるから用意するわね」


 といった感じで、大人の夜は過ぎていった。

 翌朝――


「いだだだだ、痛い、痛いですっ!」

「我慢なさいな。女の子でしょ」

「性別関係ないっ! あ、いたたたた!」


 イザーラに薬を塗ってもらっている間に、サクラは朝食の支度をする。適当な朝ごはんを済ませると、イザーラはバックパックに荷物を色々と詰め込んでいった。リルナひとりがすっぽりと入ってしまうほどの大きさで、それがパンパンに膨らんでいくのだが、イザーラはひょいと軽く持ち上げる。


「力持ちっ!」

「いやん、言わないでよ!」


 照れ隠しなのか、イザーラがリルナの背中をバンバンと叩き、村の中に少女の悲鳴がこだまする。サクラは肩をすくめるしかなく、苦笑するのだった。


「おや、お前さんもついに出て行くのか」

「えぇ……お世話になったわ、村長さん」


 イザーラはこのまま村を出ると、村人たちに報告する。残った家は好きにして良いのと、たまに帰って来るわ、と村の人たちに挨拶するのだが……


「村長さんっていってもお爺さんじゃないのね。というか、みんな美男美女」

「ありがたさゼロやな~」


 こうも美しい姿ばかりだと、老若男女感もゼロになってしまうらしい。長命で美しい、という種族ではあるが、他の種族からみれば、ちょっとしたマイナス面かもしれない。


「元気でな、カイザー。お前さんは立派な女の子だったよ」

「やだ村長~。本名はやめてよね」


 イザーラの本名が『カイザー・ライン』であり、しかも年齢が18歳という事実が判明したお別れ会はすぐに終わった。意外とあっさりとしているのは、外に出て行くエルフが多い為。しかも、長く生きる彼らはいつかどこかでまた会える、という感覚があるらしいので、エルフにとって別れとは、そんなに重要なイベントではないそうだ。

 そんなイザーラと共に森の街道を行き、三日間をかけてカーホイド城へと戻ってきた。


「メロディ大丈夫かな? 途中で真奈ちゃん戻っちゃったし」

「まぁ、あれでもサヤマ女王の娘をやっとるんや。大丈夫やろう」

「あら、お姫様の知り合いがいるの?」


 イザーラに説明しつつ、お城の衛兵に伝えるとグロゥ紳士が迎えに来てくれた。どうやら、メロディだけでなくリルナたちも客人扱いはされているらしい。冒険者なのにありがたいなぁ、と再び思いつつ、元の部屋へと戻ってきた。

 しかし、中にメロディはいない。


「あれ? メロディは?」

「そのうち戻ってこられると思いますが……案内しましょうか?」


 サクラとイザーラは部屋で休む、と案内を拒否。気になったリルナは荷物をおろし、グロゥ紳士に案内してもらった。

 その場所は晩餐会の会場であり、ダンスホールにも使われている大部屋。


「こちらでございます」


 部屋の中に入ると、そこには――


「そうそう、そんな感じじゃ。あ、いや、たぶんこの方がカッコいいのではないか?」

 豪奢なドレスのスカートをまくりあげ、貴族のお嬢さんたちが、足を高らかにあげては勇ましいダンスを披露していた。


 その中心に居るのが何を隠そうメローディア姫。舞踏ではなく武道の動きで、音楽に合わせた型を披露しているかのようだった。


「……なにやってるの?」

「む? おぉ、リルナか。おかえりなのじゃ。真奈とダンスレッスンをしたのじゃが、妾にはこのスタイルが一番似合ってると思ってな。晩餐会で披露したら、教えてくれとせがまれてのぅ。こうして毎日、貴族の娘さま達に教えておったのじゃ。あっはっはっは!」


 どうやら動きの激しくカッコイイ動きを取り入れたメロディと真奈のダンスは貴族の方々を魅了したらしい。やはり、退屈の中の刺激に敏感なのか、はたまた貴族の娘さまには戦いの血が流れているのか。大人気となった武道ダンス。


「え~……」


 お姫様たちが勇ましくも足を振り上げるのをデレデレと見守る男性諸君。いやいや、父親はその顔はどうなんだ、とリルナは思うところもあったのだが、貴族様に意見する度量は彼女には無い。

 ついでにデレデレの見学者たちの中に王様の姿を見て、ガックリと膝から崩れ落ちたのは仕方の無いことかもしれない。そんなリルナを怪我の悪化と見て緊急に運んでくれるグロゥ紳士のカッコ良さに、あぁ渋いおじ様っていいかも、とリルナの恋愛価値が少しだけ曲がっていくカーホイド城のお祭騒ぎなのだった。


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