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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その13 ~エルフ王国と木の大精霊・ノルミリーム~

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~エルフ王国と木の大精霊・ノルミリーム~ 20

 戦闘開始から数分が経過した。魔神の前後が入れ替わる、という思いもしなかった能力のお陰で、足止めは上手くいっていない。

 しかし、それでもレナンシュのリビー・バインドの魔法は連続して使用できるほどに初歩的な魔法だ。魔神を拘束できているのはノルミリームの増幅のお陰であり、そのお陰で少ない魔力でもって拘束魔法を連発できる。本来の作戦であれば、拘束しておいてからの攻撃魔法という流れだったが、レナンシュは方針を変えて拘束魔法に専念している。

 その間に薫風真奈と天月玲奈が魔神の相手をしつつ攻撃を加え続けている。そして、拘束が外れたり二人の体制が崩れた際には神導桜花の凶悪な魔法撃が放たれる瞬間だった。

 その間の連携を上手く取り持っているのが、実はコボルトのハーベルクだったりする。料理用のナイフに炎属性を付与されて、サラディーナの指令のもと、あっちこっちへと移動しては魔神の隙を突き、ナイフで切りつけ焦がしていった。


「もうちょっとだよ、みんな!」


 木々の上からリルナの声が響く。返事は無いが、それでもみんなは心で頷く。魔神の動きは確実に鈍ってきていた。すでに腹の顎を開くのを諦めたのか、大きく腕を振り回すばかりだ。やはり知能はあまり高くないらしい。

 見た目の変化はほとんど無い。息が切れている様子もないし、黒い身体に傷が付いている様子もない。それでも、見て分かるほどに魔神の動きが遅くなってきた。


「チャンスよ、魔女っ子ちゃん」

「はい。フォレスト・バインド」


 ノルミリームの小さな体が緑に光り、レナンシュに木属性の魔力を付与する。レナンシュは大きく息を吸うと、闇魔法フォレスト・バインドを起動させた。

 動きが鈍くなったからこそ使える一手。リビー・バインドの強化版であるこの魔法は、ツタの本数が段違いに多い。三本ほどだったツタが二桁になり、魔神の足や口だけでなく、腕や体を一気に巻きつき地面へと縫い合わせた。


「ふ~む、エロいな」

「エロいわね」


 見物組に徹することになったサクラとイザーラがつぶやくが、もちろんレナンシュには聞こえていない。もし声が届いていたら、二人に向かってダークショットの魔法が放たれたことだろう。


「よしっ! チャンス! とうっ!」


 そんな魔神の完全拘束を見て、一番に動いたのは召喚士だった。リーンの背中から飛び降りようとするが――


「行かせないよ」


 彼女の襟首をリーンが咥える。ガックンとなったショックで傷に激痛がはしり、リルナは悲鳴をあげた。


「なにするのよ、リーンくん!」

「こっちのセリフだよ。死にたいの?」

「みんな頑張ってるのに、わたしだけ何もしてないんじゃ申し訳ないじゃないっ!」

「……君、召喚士に向いてない」


 発声器官が人間とは違う龍の一言は、召喚士にスピリチュアル・アタックをクリティカルさせた。うぅ、とリルナは一言唸ると、がっくりと肩を落とす。


「学校の先生にも盗賊職の方が合ってるって言われたし……うぅ、パパのあほぅ」


 理不尽な少女の怒りは、偉大なる召喚士へと向けられたのだった。


「もう、わたしが行けないんだったらいいよっ! 真奈ちゃん!」

「なんですの?」


 動けなくなった魔神を斬りながら、真奈は上空を見上げる。木々の間からリルナがキラリと光る何かを投げてきた。

 それに対して嫌な予感を感じたダークニゲンのお嬢様は慌てて逃げる。ドスリと地面に刺さったのはもちろん倭刀。その異常なまでの斬れ味のせいか、それとも投げ込む角度が良かったのか、刀身がほぼ地面に埋まってしまい、鍔と柄が生えているみたいな状態になった。


「殺す気ですの!?」

「あ、ごめん」


 まったくもう、と呟きながら倭刀を引き抜き少し緊張の面持ちで構える。


「はっ!」


 気合いと共に魔神へと肉薄すると腹についた大きな口を下から上へと斬り上げた。ずっぷりと入り込む倭刀の刃。そして、真奈は少しだけジャンプすると、刀身を空へと振りぬく。まるで影を零すように液体が漏れると、腹についていた大きな口が胴から分離する。ビシャリと地面に落ちたかと思うと、雨が大地に染み込むように消失してしまった。


「――」


 声なき悲鳴。


「皆さん、トドメですわ!」


 真奈の声に合わせて、おー、と少女たちが応える。レナンシュがダークショットを放ち、玲奈がファインダガーで斬りつけ、桜花の魔力撃が拘束を引きちぎる勢いで炸裂する。ぐしゃり、と腕がひしゃげ、消失した。そこへ真奈がもう片方の腕を倭刀で斬り裂く。

 攻撃手段の失った魔神が口なき顔で、大きく見開いた真っ白な瞳。そこに映ったのは、果たして真っ白なドラゴンだった。


「がるるるるる」

「きゃんっ!」


 咥えていたリルナを離し、棒読み風な声をあげて魔神へと掴みかかるリーン。リルナは地面へと尻餅をついて可愛らしい悲鳴をあげたあと、突き抜ける衝撃で肩のダメージに悶絶。その間にも、リーンは魔神を組み敷き、その顔に向かって本物の大口を空けた。


「くわっ」


 可愛らしい声付きで。

 牙が並ぶドラゴンの口内に光りが収束する。ホワイトドラゴン特有の全属性を操れる中で、もっとも稀有なブレス――光。まぶしい位に輝くそのブレスを小さく小さくまとめ、それを魔神の狼のような顔へと吹き付けた。ビクンと震える魔神の身体。そう皆が確認した瞬間、魔神の顔部分がブレスによって消失する。その光ブレスは地面に当たるとまばゆい光を放ち、魔神の身体を飲み込んでいった。

 あとに残ったのは、ホワイトドラゴンと魔法のツタだけ。

 あまりにも呆気ない最後だったが、それでも勝利は勝利。


「勝ったネ!」


 玲奈がバンザーイと叫びながら真奈へと抱きつき、真奈も倭刀を持った手でバンザイをして、あやうく玲奈を斬りそうになった。


「やったよ、レナンシュちゃん!」

「あ、うん……そうね」


 桜花はガクガクと震える杖からウンディーネを放出し、レナンシュと握手する。


「はぁ~、死ぬかと思った」


 コボルトのコックさん、ハーベルクは大きく息を漏らして地面へと座る。手持ちのナイフから付与された火属性が消失し、ちょっぴり残念な様子だった。

 大精霊の三人は集まってハイタッチする。


「お疲れ様ですね」

「いやぁ、戦場を自由にまわれるのは楽しいぜ」

「久しぶりの冒険者の戦い。体がうずきますわ~ん」


 三者三様、そこそこ楽しかったらしい。


「ふあ~ぁ……だからボクだけでいいって思ったんだけどな」


 リーンは大きく欠伸する。森に影響を及ぼすことなく倒せる方法を実証してみせた。実は、こんなことも出来るんだぞ、という彼の意地でもあり、まだまだ子供らしい性格を見せるホワイトドラゴンではあった。

 そして、みんなが喜びを噛み締めている中。


「い、痛い……くぅ、リーン君のばかぁ……」


 お尻の痛みと肩の怪我、両方に悶え苦しむ召喚士。


「うぎぎぎぎぎ」


 歯を食い縛って耐えるリルナなのだった。


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