表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その13 ~エルフ王国と木の大精霊・ノルミリーム~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

181/304

~エルフ王国と木の大精霊・ノルミリーム~ 17

 木の神殿まで戻るには遠すぎるために、サクラとイザーラは魔神の姿が見えなくなり、ある程度の距離を空けたところでリルナを下ろした。


「大丈夫か?」

「だ、だいじょうぶ……じゃない……いぃ」


 リルナの表情は悪くない。服やマントに血が滲んではいるが、出血は多くなく、また左手も動いている。


「ノルミリームは、サラディーナはどこいった? 大精霊の力が必要やっていうのに」

「ご、ごめん。召喚陣の、維持が、出来なかった」


 ひぃひぃと息をしながらリルナが説明する。

 召喚術を行使する際、魔方陣の維持が必要となる。リルナの意思でそれを開放したり維持したりとできるのだが、大きなダメージを負った際に解除されることが多いそうだ。


「ほんまに厄介な魔法やな。どうりで誰も使わん訳や」

「う、うぅ……」


 最強の召喚獣を使役したところで、本人にダメージが通れば解除されてしまう。世界から忘れられたのは、何もヴァンパイア・ロードだけのせいでは無さそうだった。


「脱がすで」


 リルナの返事を待つことなくサクラはマントとシャツを脱がせる。キャミソールだけになったリルナの左肩には、三角形の骨のようなものが深々と刺さっており、血が少しづつ流れ出ていた。


「リルナ、すまんがウンディーネを召喚してもらえるか?」

「わ、わかった」


 サクラに促され、歯を食い縛りながら無事な右手にマキナを発動させる。次いで、ペイントの魔法を発動させようとしたのだが、傷みからか一度目を失敗。少しばかり集中して魔法の二重起動に成功すると、右手が動く範囲で小さく魔方陣を描き、発動させた。


「あらら、大丈夫?」

「ウンディーネ、悪いけど綺麗な水で傷口を洗っててや。イザーラ、何か布ないか?」

「あるわよ」


 サクラはイザーラから受け取った布をリルナに噛ませる。イザーラにリルナの体を抑えてもらっている間に、一気に肩に刺さっている物を引き抜いた。


「ん~~~!」


 リルナのくぐもった悲鳴と共に肩口から血がにじみ出る。その血と傷口にウンディーネが水を顕現させ、流水でもって洗浄した。しかし、それもまた激痛となるのだろう。リルナは布を噛み千切る勢いで歯を食い縛った。


「よう耐えた。さすがは冒険者や」


 ぜぇぜぇと涙目で息を整えるリルナの頭をサクラは撫でてやる。それから自分の服を切り裂いて包帯にしようとしたところ、イザーラが静止した。


「薬と包帯ならあるわ。これでも薬士なの。任せて」


 イザーラは腰に装備していたウェストポーチから小瓶と包帯を取り出す。小瓶の中身は薬草とすり潰したようなドロリとした緑色の液体。それを首をブンブンと横に振っているリルナを無視して傷口に流し込むと、痛さで悲鳴をあげる彼女をよそに傷口を包帯でグルリと巻いた。


「はい、これで大丈夫。しばらく安静にしていれば血も止まるはずよ」

「ひ、ひ、っひひ、ヒリヒリする。ヒリヒリするよ、これ。あ、なんか熱い。冷たい? ひぃひぃ~。助けて助けて!」

「いや落ち着かんかい、リルナ。これが刺さっとるよりマシやろ」


 ペシンと頭を叩かれて、ようやくリルナは落ち着く。渡された鋭利な三角形の物質を見て、改めてゾっとした。ちらりと見た自分の傷口には少しだけ白い物が見えていただけ。つまり、それだけ奥に刺さっていたということ。下手をすれば左腕が動かなくなっていた可能性もあっただけに、痺れる中で左手の指を動かせるのに安堵した。


「これ、やっぱり魔神の攻撃……?」


 リルナの言葉にイザーラが答える。


「そうみたいね。あたしが見たところ、それって歯よ。お腹に付いてた狼みたいな口の中にいっぱい生えてた」


 うげ、とリルナは顔をしかめる。

 牙で噛まれた、ならまだしも、相手の口の中の一部が飛ばされて肩に刺さった、となるとイメージは最悪である。直接噛まれたほうが理解しやすいが、歯が飛んできて刺さった、なんて上手く説明できる気がしなかった。


「大丈夫、リルナちゃん。はい、お水」


 ウンディーネがふわりと浮かび、リルナの目の前に水の球体を顕現させる。透明な丸い瓶に水が注がれるように現れたそれに向かって、リルナを顔をつっこんだ。


「ぷはぁ。あいたっ」


 さっぱりと気分を入れ替えるつもりだったが、息を吸った衝撃で傷口に傷みが走る。気分はげんなりと沈んだまま、右手で水をすくい喉を潤おした。


「ウチらもええか?」

「えぇ、どうぞ」

「ありがたいわ~ん」


 ひとまず落ち着いた、ということでサクラとイザーラもウンディーネの顕現させた水を飲み、ぷはぁ、と疲れを癒した。


「さぁて、アレをこのままにする訳にもいかへんしな。イザーラはバックアップを頼むで」

「心得たわ、お姉様」

「誰が姉やねん。お前さんみたいなゴツイのと兄弟の契りは交わしとう無いわ」

「やだわ、サクラ姉さん。いえ、サクラ姐さん。あたしは姐さんに付いていくことに決めたんだから」


 どういうことや、とサクラは薄目でエルフ男を見た。


「いずれ姐さんと魔女の元へ、とさっきまで考えていたわ。でも、リルナちゃんを手当てするサクラ姐さんの姿に、あたし感動しちゃったの。もうこの人にだったら全てを任せてもいい! って思っちゃったの。うふ」


 ご丁寧に投げキッスを贈るイザーラだが、その不可視の唇マークをサクラは見事に避ける。速度も位置もサッパリ分からないはずの投げキッスを、サクラは確実に避けてみせた。


「お前さん……魂は女ちゃうんかったか……」

「そうよ。そして、姐さんの魂はオ・ト・コ。そこに性別の違いはあるわん」

「うっ」


 珍しくもサクラはうろたえ、助けを求めるようにリルナを見た。しかし、リルナはサクラの視線を避けるように森の奥へと体を向ける。ちなみにウンディーネはなにやらキラキラとした瞳で二人を見守っていた。もちろん、助けてくれそうにない。


「え~っと、まぁええわ。好きに付いてきてもええし、好きに呼んでもええ。ウチももう年やしな。お前さんみたいなんを従えるんも、まぁ久しぶりやしなぁ。そんかわり、ええか、ウチに絶対に挿入すんな。捻じ切るからな」

「あら、姐さんってば処女なの?」

「絶倫王と呼ばれた爺やけど、実はな。まぁ、ひとりでは何度もしてみたけど」


 あっはっは、と笑ってサクラとイザーラはお互いをバシバシ叩きあった。下世話な話で盛り上がるのは、魂が爺だろうが乙女だろうが関係ないらしい。

 ひとり、うわ~、と思春期らしい少女な瞳で二人を見ていたリルナだったが、ふと思い出したのでサクラに聞いてみた。


「サクラってば、シューキュに行った時、ドワーフの王様に、その、抱かれたんじゃなかったの?」

「ん? あぁ、あの時は王様とリリアーナのプレイを見てて思わずこうソロプレイが盛り上がってしもてなぁ。気づけば隣で、え~っとあのタヌキ娘は何て名前やったっけ?」

「……サッチュ・リボンフィールドだよ。覚えてあげてよぅ」

「そうそう、サッチュも盛り上がってたので、ちょ~っとやり過ぎたんやわ」


 なにそれなにそれ、とイザーラが聞いてきたので、サクラがゲラゲラと笑いながら説明をする。どうしてこんな時に下ネタで盛り上がっているのか良く分からないといった表情でリルナはひっくり返る。


「こう、同じ学校でパーティメンバーだった友達の赤裸々な情報を現パーティメンバーから聞かされるのって、非常に稀有な経験だと思うの」

「レベルアップしたわね、リルナちゃん」

「うぅ、ウンディーネまでっ!」


 両手で赤くなっている顔を覆いたかったのだが、残念。リルナの左腕は動かない。不貞腐れるように、地面の上を転がるしかなかった。


「おっとっと。長話になったな。休憩は充分やろ」

「えぇ、そうね。バックアップは任せて、サクラ姐さん」

「おう。後ろは任せたで。といっても、ウチのバックはやらんからな。さぁて、リルナの弔い合戦や!」

「行くわよー、待ってなさいね、魔神ちゃん!」


 えいえいおー、と盛り上がる二人。

 そんな二人に対してリルナは、


「わたし、死んでなーいっ!」


 と、叫ぶのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ