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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その13 ~エルフ王国と木の大精霊・ノルミリーム~

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~エルフ王国と木の大精霊・ノルミリーム~ 16

 パカパカと口を開けるようになってしまった左のブーツ修繕にと、ノルミリームがにょろりとツタを生やしてくれた。丈夫で切れにくい種類らしく、リルナが引き抜こうにも全く千切れなかったので、倭刀で斬る。


「もったいない使い方ねぇ」

「良かったら、イザーラがもらってくれない?」


 ブーツにツタを巻きつけて結びながらリルナは長身のエルフに問うが、彼は肩をすくめて首を横に振った。

 不相応な物は持ちたくない、というよりもイザーラは弓を使う狩人なので本当に必要無いのだろう。もらったとしても売りさばく手段もなく、埃をかぶった家宝になるのは間違いない。いわゆる『宝の持ち腐れ』というやつだ。


「それにしても、どこで手に入れたのよ、そんなの。普通はもっと上級の冒険者が持っているものでしょ?」

「訓練学校の卒業試験で、わたしに与えられた試練がこれだったの。魔法の箱に手を入れて、出てきたのが古い地図。その地図に記された場所に行ったら洞窟があって、その中にあったの」


 その洞窟の前には一匹のホワイトドラゴンが居て、それがリルナとリーンとの出会いでもある。三日間戦い続けた人間と龍は、とりあえず引き分けにしておこう、と話をつけた訳であり、召喚獣の契約をする仲となった。

 と、リルナがイザーラに卒業試験の厳しさを説明していたところでサクラから声がかかる。


「ちょっとこれ見てくれへんか?」

「なになに?」


 ブーツをツタで縛り、少しだけジャンプして具合を確かめた後、リルナはサクラの傍まで移動する。イザーラも付いてきてサクラの屈む場所を覗き込んだ。

 そこには唯一、サクラが斬り伏せたアンデッドの遺体が倒れている。他のアンデッドは全て燃え尽きてしまったのだが、最初に倒した一体は残ったままになっていた。


「このエンブレム……サヤマの地下におったヤツと一緒ちゃうか?」


 アンデッドの着ている真っ黒なローブの背中には、小さくマークのような物が刺繍されていた。一つの円の中に白くイビツで棘々としたエンブレム。良く言えば太陽を模している、と言えるが、悪く言えばイガグリ。そんな小さな刺繍がローブに施されていた。


「王子様誘拐事件の犯人だっ」


 サヤマ城下街の地下で謎の儀式を行っていた狂気の集団。誘拐した人々を生贄に、謎の魔物を呼び出し、無用な混乱を引き起こそうとしていた連中と同じエンブレムがローブに刺繍されている。


「魔神召喚だ……」


 リルナは自然と口の中に溜まる唾液を嚥下した。

 召喚術は、忘れ去られたものだ。加えて、習得には神代文字を覚え、更に魔法を二重起動させる能力が必須となり、かなり面倒ともいえる術である。

 だが、謎のイガグリ・エンブレムの集団は、その召喚を儀式とアイテムで行使していた。そのプロセスは召喚士の使う召喚術とは違い、契約外の異界の者を呼び出す手段ではある。


「魔神って……魔の神?」


 イザーラが言葉の端々を捉えて質問する。その問いに、リルナとサクラが首を横にふった。


「神様の召喚じゃないよ。もっとこう、劣悪なもの」


 上手く言語化できない事柄に、リルナはえ~っとう~っと、と言葉を選ぶ。本物の神様じゃなくて、もっと別の物っぽい、と曖昧にイザーラへと説明した。


「こいつらが地下におったんと同じ手段と考えると……もう魔神召喚は完成しとるんちゃうか?」

「ど、どうして?」

「アンデッド化しとるってことは、死んだってことや。こいつらが集団で」


 あぁ、とリルナは納得する。

 地下で見た魔神召喚の儀式において、真っ先に召喚されたバケモノが殺したのは、イガグリ・エンブレムたちだった。お陰で詳細が分からず仕舞いなのだが、今回ものその可能性が高い。


「ノルミリーム、もしかしてまだ匂うんちゃうか?」


 サクラの言葉に、サラディーナと談笑していたノルミリームがすんすんと鼻を鳴らす。


「あれ、本当だわん。なになに、まだアンデッドがウロウロしているのかしらん」


 むぅ~、とノルミリームは唇を尖らせて、ある一点の方向を見る。どうやら、そっちの方角に何かが居るようだ。


「恐らく魔神やな。イザーラ、悪いけど手伝ってや」

「えぇ、もちろんよ。その為に来たんだから」


 任せて、とイザーラは先行するように先を歩く。次いでサクラが後を追い、その後ろをリルナが追いかける。リルナの両肩にはノルミリームとサラディーナが乗って、二人して鼻をすんすんと鳴らせた。


「ほんとだ、におうぜ。ちゃんと自分の住処ぐらい監視しとけよな」

「サラに言われたくなーい。誰も住んでない火山なんて、寂しいだけだわ~ん」

「だから昔は住んでたんだって。綺麗な神殿があるんだぜ、ほんとほんと。まぁ、お前は来れないけどな。草一本生えてないから」

「誘われたって行かないわよ、そんなところ」

「そんな所ってなんだよ、そんな所って」

「熱いだけよ~、つまんないわ~ん」


 むきー、と言い合う大精霊様をなだめつつ、リルナはサクラの後を追う。隠密動作は得意ではない上に森の中ということもあって、できるだけ静かに移動する。先行しているイザーラはさすが狩人というべきだろうか、遥かに大きくごつい体をしているにも関わらず、物音を一切と立てずに森の中を進んでいった。

 ジリジリと三人は移動していき、やがて少し開けた場所に出る。といっても、森の中は森の中。その周囲五メートルほどだけ偶然にも木が生えておらず、平地となっている場所に奇妙な陶器の割れた欠片が散乱していた。


「ここね」


 イザーラが呟き、欠片を調べる。サクラもそれに習い、平地へと出た。


「あっ」


 リルナは周囲の木々に何か異物が突き刺さっているのを発見する。まるで矢の先端である矢じりだけを突き刺したかのような真っ白な物質。木に刺さっているそれを引き抜き、観察してみた。


「なんだろう、これ」


 色は白く、骨みたいな印象を受ける。表面はザラザラしており、細長い三角形みたいな形をしていた。それほど重くは無いが、頑丈であるらしく、木に刺さったところで欠けたりはしていない。


「骨みたいだね」


 大精霊の二人にも見てもらい、意見をもらおうとした時――

 リルナの視界の端に、何か動くものがった。

 黒い影。

 いや、黒い魔物。

 不気味にも、音なく動く巨体な獣をリルナが視線で捉えた時、そいつは何かを飛ばしてきた。瞬時に、リルナは手に持つ謎の物体が黒い魔物が飛ばした物だと理解する。つまり、周囲の木々に刺さっているそれは、攻撃の痕跡だったのだ。


「っ!?」


 飛来物は視線で捉えている。

 体も反応した。

 声は出す暇は無い。

 ギリギリで避けられる――と、判断したリルナだったが、その選択肢は悪手だった。いや、〝悪足〟と表現するべきだろうか。

 ブーツを縛っていたツタが引っかかり、体をその場で繋ぎとめた。驚く声を出す暇もなく、飛来したソレはリルナの左肩に突き刺さる。瞬時にアクセルの腕輪の防御効果が発動するが、そのダメージを遥かに超えてリルナの肩に刺し込み、彼女の体を吹っ飛ばした。


「リルナ!?」


 サクラとイザーラが気づく。吹き飛び倒れるリルナをサクラが抱え起こし、イザーラが牽制の矢を放った。


「あれが……魔神」


 イザーラの目に映ったのは、巨大な黒き魔物だった。この世の物ではないという照明なのか、色は黒く、影みたいな存在だった。それを例えるのならば、狼男だろうか。しかし、顔と思われる部分にあるのはのっぺりとしただけであり、肝心の大きな口は腹に付いていた。およそ生物の概念が違うその存在が、大きく腹の口を開ける。そこには真っ白な歯がこちらを向いて無数に生えていた。


「なによ、あれ」


 およそ租借する為とは思えないそれを見てイザーラは絶句する。


「あかん、逃げるで! 体勢を整えんと、やられる」

「わ、分かったわ」


 傷みに耐えるように歯を食いしばるリルナを抱え、サクラは走り出す。その後ろをイザーラが矢を放ちながら援護する。


「ぐ、う、うぅ、う、うっ」

「我慢しいや、リルナ。抜いたらアカンで。血がようさん出てしまう」

「う、う、わかった……」

「がんばってね、リルナちゃん。あたし応援してるから」

「な、なんか出産する……みたいな、そ、それ」


 冗談言えるなら大丈夫やな、とサクラは笑い、一目散に駆け出す。

 そんな三人の姿を、魔神は腹の口を大きく開けて、声なき咆哮で威嚇するのだった。


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