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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その13 ~エルフ王国と木の大精霊・ノルミリーム~

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~エルフ王国と木の大精霊・ノルミリーム~ 15

 リルナとイザーラが握手を交わし終えた時、サクラとノルミリームが同時に同じ方向を見た。刹那の送れてイザーラがリルナから視線を外し、距離を素早くあけた。


「え?」


 気付けなかったのはリルナだけ。

 きょとんとした顔でイザーラが見た方向を見ると、そこには藪からノッソリと何かが歩いてくるところだった。


「な、ななな、なに?」


 その異様な姿に、リルナは一歩二歩と後ずさる。そこには、人の形をした人ではないモノが居た。まるで何かを求めるように、リルナたちに向かって歩いてくる。


「アンデッドや!」


 サクラが倭刀を引き抜き、素早く肉薄すると横薙ぎに振るう。上半身と下半身が、着ている黒いローブごと斬り裂いた。

 青白くなった人間の上半身が宙に舞う。血は零れない。しかし、内臓が零れるようにぐしゃりと地に落ちた。

 アンデッドは、いわゆる生物が死んだ後の姿である。適切に埋葬しなかった結果、または神への祈りが無かった生物の死骸は、モンスターとなる。その理由は明らかになっていないが、世界を漂う悪霊が死体に乗り移り動かしていると言われている。

 アンデッドとなるのはもちろん人間だけではない。動物や蛮族、モンスターもアンデッドと成り得る。ただし、自然に生きる動物がアンデッドと成るのは非常に稀だった。それは、精霊の加護があるとも言われている。しかし、結局は詳しいことが分かっておらず、アカデミーの研究者の間でも議論が交わされている毎日だ。


「ひぃっ」


 飛び散った内臓類を見てリルナが短い悲鳴をあげる。そして、下半身を失って尚、サクラへと襲いかかるアンデッド。手だけでバタバタと動き回り、ジャンプした上半身はサクラへと噛み付きかかる。


「眠っとき!」


 その口撃を避け、首を跳ね飛ばす。どしゃりと地面に落ちたアンデッドは、それで動かなくなった。アンデッドの弱点は頭だ。切断するなり破壊するなりすると、それ以上は動かなくなる。ただし、サクラのように無慈悲に攻撃できるものは稀だ。蛮族やモンスターのアンデッドならまだいいのだが、人間種のアンデッドはそのまま人間の姿をしており、やはり攻撃しずらいものがある。


「ふぅ……ノルミリームの言うとったんはこれか~。これで安心やな」

「サクラ、まだ、まだいるよ!」

「へ?」


 リルナの声に森の奥を見ると、そこにはゾロゾロと黒いローブの集団。先ほどのリルナたちとイザーラの騒ぎに引き寄せられてきたのだろう。緩慢な動きだが、サクラを目標と定めた瞬間、その動きは本来の人間らしいものとなる。


「うひゃぅ!?」


 次々と襲いかかって来るアンデッドに、サクラは思わず後退した。そこに積み重なるように動く死体たちは跳びかかる。中には、元々から上半身だけの者や、片腕が無いモノまで居た。


「ど、どうなっとるんや、この数! この森には死体を捨てる習慣があるんか?」

「「ないわよぅ!」」


 奇しくも、ノルミリームとイザーラの声が重なる。よしんば捨てる習慣があったとしても、それはきっちり神様への祈りを済ませた後の話だ。誰もアンデッドを大量生産したい訳がない。下手をすれば、アンデッドの上位種であるレブナントが生まれる可能性もある。生前の知識を得た不死身のモンスターは、すぐさまネームドモンスターとして全国の冒険者に通達されるだけだ。


「リルナ!」

「了解っ!」


 サクラに呼ばれた時、リルナはすでにペイントとマキナを二重起動していた。ガツンと脳に負荷がかかる感覚にまばたき一つでやり過ごすと、肉体を全力で動かして魔方陣を空中に描く。


「召喚! サラディーナ!」


 神代文字で描かれた魔方陣を起動。光が溢れ収束したそこには、てのひらサイズの真っ赤な髪と勝気な表情を浮かべた火の大精霊が顕現した。


「あたいの出番か!」

「うん! 属性付与をお願いっ」

「分かった――って、ノルミリームじゃねーか。あんたもリルナっちの仲間入りしたのね」

「あらぁ、久しぶりサラちゃん。相変わらず一人ぼっち? さみしくなぁい?」

「そのねちっこい喋り方やめろって。ウンディーネとキャラ被ってるって言ったの、まだ怒ってるのかよ」

「そんなことないわぁん、うふん」


 アンデッドが目前に迫る中、大精霊の二人がおしゃべりを始める。


「ちょっとぉ! 戦闘中せんとうちゅう!」


 久しぶりの再開からか、大精霊の二人が大精霊らしくない会話で盛り上がり始めるのを、リルナが注意した。召喚獣とはいえ、リルナが自由に使役できる訳ではない。時にはこうして戦闘中におしゃべりに興じる者も居る。便利だけど、いまいち人気じゃなかったのは、そういう理由が影響していたのは間違いない。もちろん、現代で困っているのはリルナ一人だ。


「あ、ごめんごめん。ノルミ、力を貸せよ」

「は~ぃ、まっかせてぇ」


 ノルミリームは属性付与の緑色の光をサラディーナに託す。一瞬、緑に包まれたサラディーナだが、その力が増幅したのがリルナでも分かった。


「燃やすぜ!」


 ちっちゃな手を振り上げて、迫るアンデッドの足元に炎を顕現させる。それは瞬く間に炎の柱となって、アンデッドを塵すら残さず燃やし尽くした。


「すごい威力っ! サラちゃん、凄い!」

「あぁん、私のお陰よ?」


 サラディーナの炎威力が上がったのは、属性関係から生まれたものだ。つまり、『木生火』。木は燃えて火を生む、という関係からノルミリームの属性付与によってサラディーナの力が上がったのだ。


「ありがとっ、ノルミリーム。あとはフォローお願いね。サラディーナはサクラとイザーラに属性付与エンチャントして!」


 オッケー、と二人は返事をする。ノルミリームは植物を操り、アンデッドの足を拘束した。サラディーナはサクラの倭刀とイザーラの弓に炎属性を付与する。


「あら、ステキ。マジックアイテムみたいだわ」


 イザーラは大型の弓に赤い属性オーラが宿ったのを確認すると、矢を引き絞る。太くたくましい腕に筋肉の隆起が現れ、ピタリと静止した。と、それもつかの間――一瞬にして放たれた矢は炎をまとう。そして、アンデッドの頭に突き刺さると全身を燃やし尽くした。

 サクラの斬るアンデッドも燃え上がる。不思議なことに、その魔法の炎は燃え移ることなく、森の木々や草には影響しない。環境に優しい炎だった。


「ふぅ……なんとかなりそうね」


 身構えるリルナだが、サクラの素早さとイザーラの正確無比な矢によってアンデッドは次々と燃えていく。おぞましい姿に緊張していたリルナだったが、そのグロテクスさにも不本意ながら慣れてきたこともあってか、ほぅ、と一息ついた。

 そこへ――


「うわっ!?」


 ガサリ、と近くの茂みが揺れたかと思うと上半身だけのアンデッドが飛び出した。腕だけで器用に歩き、飛び出た内臓を引きずりながらもリルナへと迫る。虚を突かれたリルナは避ける暇もなくアンデッドに足を掴まれて尻餅をついた。


「きゃぁ、へんたい!」


 女の子の足に掴みかかる光景は、まさに性的趣向が捻じ曲がったものだが残念ながらアンデッドには関係ない。左足にまとわりつくアンデッドの冷たい手に怖気を感じながらリルナはアンデッドの顔面を右足で蹴る。

 しかし、離れないアンデッド。しかもブーツに噛み付いてきたものだから、変態度が増した。


「ひぃ!?」


 足を舐める趣向は聞いたことあるリルナだったが、足に齧りつく上半身だけの男には恐怖しか感じない。スカートが捲れあがるのも気にせず、足をバタバタとして暴れた。


「落ち着きぃや、リルナ。ほれ」


 と、そこで戻ってきたサクラがさっくりとアンデッドの首に倭刀を刺す。瞬時に燃え上がるアンデッドはすぐに力尽き、ようやくリルナのブーツから口を離した。


「怖かった……怖かったよぅ……」

「あらあらまぁ、たいへんね。よしよし」


 イザーラがリルナの頭を撫でて慰める。どうやら、全てのアンデッドを倒したらしい。周囲には少しの塵が残っているだけで、すっかりと神の元へ送られた。


「あぁ、ブーツが……」


 リルナが左足を上げると、ブーツの底がペロリとめくれ、彼女の足の指が見えた。ダメージに耐え切れなかったのか、寿命がきたのか。

 なんにしても、アンデッドの群れに対して犠牲はブーツのみ。上々の戦闘結果だった。


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