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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その13 ~エルフ王国と木の大精霊・ノルミリーム~

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~エルフ王国と木の大精霊・ノルミリーム~ 12

 イカウシュ村に着いたその日は宿に泊まり、翌日の朝。

 ナッツがたくさん入ったヨーグルトを朝食に出してもらい、一息ついたところで宿を営むお姉さんに挨拶してから村を出発した。

 神殿へは約三時間ほどの道のりらしい。村の外にも関わらず丁寧に舗装された道が真っ直ぐに続いていた。周囲を見渡せば相変わらずの森なのだが、真っ白な雪が残っているのが見えた。


「はぁー」


 息を吐いてみると、少しだけ白く濁る。そこまで寒さを感じないのだが、不思議と気温は低いようで、なんだかチグハグなイメージをリルナは抱いた。

 風も起こらず、森は静かだった。


「まるで誰もおらんみたいやな」

「うん……」


 道を歩きながら左右の森を確認する。そこには多くの動物が暮らしているはずだ。しかし、その気配は全く感じられなかった。

 もしかすると、この神聖な雰囲気に影響されているのかもしれない。過酷な環境にあった火の神殿を思い出す。

 かつて信仰の対象であり、神殿まで造られたシューキュ島の火の神殿だが、容易に近づける場所ではなかった。だからこそ、余計に神秘的とも謂える。木の神殿も、村からそれなりの距離が離れているのは、なによりも神聖さを尊重したからかもしれなかった。


「水の神殿が冒険者の登竜門になっとるわけやな」

「ウンディーネは優しいからね」


 水の神殿はクリクホ島の街にある。神殿が街にある、というよりは神殿が街となった、というほうが正解に近かった。というのも、冒険者を目指す訓練生たちがその加護を受けに水の神殿を訪れるようになっており、その為には宿が居る。宿があるならば、食料が必要だ。という具合にあれよあれよと言う間に水の神殿は街となった。

 そんな状態になり、賑やかな街となってもウンディーネはニコニコと笑っていたらしい。大精霊の中でも一番優しい性格、と言われるだけはあった。


「さて、木の大精霊様はどんな精霊さんか、楽しみや」

「失礼なこと言っちゃダメだよ、サクラ」

「いやいや、それはお前さんやろ」


 相変わらず雑談を交わしつつ、小休止を二度ほど挟みながらリルナとサクラは木の神殿へと辿り着いた。


「うわ~、すごい」

「木っていうより雪の神殿やな~」


 エルフによるものなのか、はたまたドワーフによって刻まれたのか、真っ白な石で作られた神殿には数々の彫刻が施されていた。朽ちかけていた火の神殿と違って、木の神殿は全くの綻びさえ無い。加えて、汚れのひとつも見当たらず、まるで出来上がったばかりかと思われるほどに荘厳で綺麗だった。

 そんな真っ白な神殿には雪が積もり、更なる白さを見せていた。サクラが雪の神殿と称するのも無理は無いが、しかし、そこは木の神殿――


「あ、でもほら。ツタが緑だよ」


 リルナが指差す柱には、ツタが巻きついていた。それは彫刻を邪魔することなく、まるで最初からそうあるかのように這っていた。


「そういえば、雪がまだ積もっとるのに、植物は元気やな」


 冬は草木を枯らす。それは再生への破壊ではあるけれど、今まで通ってきた道ではその現象は見られなかった。リルナが感じたチグハグなイメージはそこからであり、冬の光景の中に夏があったからだった。


「ほな、入ろか」

「うん」


 いつまでも神殿を眺めている訳にはいかない。観光客ではなく冒険者なのだから。

 神殿内へと入る入り口には、門も何も無い。誰もが自由に入れるようにと、大きな口がぽっかりと開いていた。

 その中は薄暗いのだが、リルナとサクラが足を踏み入れると魔力の光が灯る。天井に仕掛けられた光属性の魔石が明かりを放っていた。人の侵入を感知して自動的に明かりが点くシステムになっているらしい。


「うわ、根っこだらけだ」


 どうしてそんな配慮がしていあるのか、一目同然だった。明かりが無く、薄暗い状態では地面を這う木の根に足を引っ掛けるから。大精霊の影響を色濃く受ける神殿内では、木々の成長が強制的に躍動するようだ。

 せっかくのツルツルに磨かれた石床だが、木の根っこが這ってしまうのは仕方ない。コツコツとブーツの靴音を鳴らしながら二人は進んでいくと、やがて最奥までやってきた。

 そこには大きな扉があり、二人は顔を見合わせてから一緒に両開きの扉を押す。装飾が施された煌びやかな扉を開けると――


「うわぁ、ここもすごい……」

「木の中やなぁ」


 扉の向こうもまた、魔石の明かりが灯っていた。しかし、それよりも注目を引くのは壁だった。いや、最早それは壁ではない。ビッシリと木が覆い茂り、中から神殿を囲っているようになっていた。上を見上げれば魔石が照らす緑の葉が見える。巨大な大木の中にすっぽりと入ってしまったかのような空間だった。


「よぉこそ、木の神殿へ」


 あっけらに取られるリルナとサクラ。そんな二人に声がかけられた。

 もちろん、それは木の大精霊ノルミリーム。


「は、はじめまして……えっと、召喚士のリルナ・ファーレンスと言います。えっと、こっちは仲間のサクラです。よ、よろしくお願いします」


 リルナは思い切り頭を下げて、そしてあげた。

 その視線の先、木の大精霊ノルミリームは少しだけ驚いた表情を浮かべていた。

 真っ白な肌とエルフみたいな尖った葉のような耳。緑色をした薄い布が胸と腰元を隠しているだけの露出が激しい姿であり、豊満な胸は溢れ出そうなほどだった。それなのに、妖艶なイメージではなく、サッパリと健康的な美に思わせる。長く緑がかった髪はウンディーネと似ていて、ウェーブがかっていた。


「召喚士! 召喚士ってぇ、あの召喚士よね? それもファーレンスのファミリーネームということは、キリアスの奥さんでしょぉ!」


 ズバリ言い当てたぞ、とノルミリームは指をビシィっとリルナに向けるが……そんな指から視線を外すようにリルナはぶんぶんと首を横に振った。


「ち、ちがいます……」

「あれ? じゃぁあ、お姉さん? 妹ぉ?」

「む、娘です」


 リルナの言葉に、今度はノルミリームが首をぶんぶんと横へ振った。


「嘘ぉ!?」

「あのぉ、わたしの父親は大精霊様に何と言っていたのでしょうか……」

「う~んとね……あぁ、何も聞いてないわね、そういえば」


 その答えにカックンとサクラは倒れた。ボケに対する正解、と言わんばかりに見事に倒れてみせる。


「あはは、そっちの呪われた人ぉ、おもしろいねぇ!」


 ケラケラとノルミリームは笑い、なんとも言えない空気にリルナは少しばかり、えぇ~、と声を漏らした。


「あ、うそうそ。普段は真面目な大精霊ですよ。久しぶりのお客さんだからぁ、はしゃいじゃっただけ。しかも召喚士だし、キリアスの娘なんですものぉ。お話したくなるでしょ?」

「サラディーナもそうだったけど、大精霊様って暇なの?」


 暇だよ、とアッケラカンに答える木の大精霊に、リルナとサクラは何も言えず、そうですか、と頷くしかなかった。

 精霊とは自然の姿が可視化された姿とも言われている。滅多に姿をみせないのが精霊だが、その全てを司る大精霊だけは別だ。各地で神殿が建てられ祀られている。その気質は、どちらかというと妖精に近いものがある。善悪の判断を超越した、そうあれかし、とばかりに生きる存在。無邪気な大精霊がいても何も不思議ではないのだが……、実質そんな大精霊様と対話すると、その荘厳な雰囲気からギャップが激しく、何とも言えぬ雰囲気になってしまうのだった。


「あの、わたしと契約してもらえますか?」

「もちろん! 最近は召喚士なんて全然来ないから、喜んで召喚獣になっちゃうよぉ」


 巨大な体でリルナを覗き込むように身を寄せるノルミリーム。

 にっこりと笑った笑顔だが……その笑顔を急に真面目なものへと変えた。


「でも、条件がある。聞いてもらえる?」

「条件? なんですか?」


 穏やかな雰囲気は消え去り、ピリリと空気が張り詰める。そんな中で、木の大精霊ノルミリームが静かに告げた。


依頼クエストよ。何が何でも達成してもらわないと、困ります。たとえ、リルナとサクラ、二人の命が奪われたとしても」


 大精霊からの依頼。

 思わぬ出来事イベント発生に、リルナは思わず、ごくりと喉を鳴らしてしまうのだった。


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