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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その13 ~エルフ王国と木の大精霊・ノルミリーム~

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~エルフ王国と木の大精霊・ノルミリーム~ 11

「という訳で、妾はしばらく剣士ではなく踊り子を極める。先生が剣士というのも、また都合の良い話ではないか。え? 関係ない? 真奈は少々生真面目すぎるではないか? 男の一人や二人でも抱けば世界が変わ――いひゃいいひゃい!」


 真奈にほっぺたをつねられてキブアップするお姫様を残し、リルナとサクラは木の神殿へと向かうことにした。カーホイド王に馬車を借りても良かったが、楽をすると冒険者とは言えない上に、サボり癖が付いてはかなわない。なにせお金が充分過ぎるくらいに持っているので、レベル5にしてはイージー過ぎる毎日ではある。


「スカイ先輩は厳しいって言ってたなぁ」


 魔法使いがリーダーを務める先輩パーティたちの懐事情と比べるに、自分の運の良さを痛感する。だからといって無駄遣いして良い理由もないし、甘えると自らの強さに関わってくる。油断から命を落としかねない状態でもあるので、それらを律する為にもとリルナは歩きで木の神殿へと向かうことにした。


「リルナは偉いな。ウチにはもう無い感覚やわ」

「サクラが十二歳頃は、どんな人だったの?」

「女の子を追い掛け回しとった」

「……今と変わらないね」


 リルナの言葉にサクラはケラケラと笑う。その笑みの意味するところが分からずリルナは首を傾げるが、サクラは何でもないと独特のイントネーションで答えるのだった。


「せやけど、水と火がいらんっちゅうのは便利やなぁ。ウチも召喚士になっとったら旅が便利やったのに」

「飢えて倒れることも無かった?」

「まぁ、水だけでは人間、一週間で死んでまうっていうし。どっちにしろ倒れとったわ」


 召喚士になる意味ないじゃない、とリルナ。それにはサクラも肩をすくめるしかなかった。

 お城で借りた革製のバックパックに道具屋で買った保存食を詰め込む。そこに簡易テントやポーションなどを含めた、いわゆる『冒険者セット』は今回はいらない。

 カーホイドでは島の中心あたりにカーホイド城があり、それを東西南北に渡る大きな街道が敷かれている。その街道付近には村や宿泊できる小さな宿が点在し、冒険者や商人が利用できるように整備されていた。

 その莫大な労力はひとえにエルフの長命がなせる業である。長年をかけてコツコツと道を舗装していき、ついには島の中心を貫く街道を造ってみせた。お陰で商人は安全に早く村や街を移動できるようになった訳である。

 冒険者にとっては移動は楽ではあるが、元よりモンスターの少ないカーホイドにおいて護衛という仕事が無くなったに等しくなり、マイナスでもあった。しかし、それでもエルフ王国という響きと美男美女しか居ない国というのは人間種には魅力的であり、わざわざカーホイドで冒険する者も少なくない。

 そういった事情から、遠出するには少しばかり心もとない重さを背中に感じつつ、リルナとサクラはカーホイド城下街の北門から出発した。


「メロディ大丈夫かな~。変なことにならないといいけど」

「大丈夫やろ。あれでも貴族やし、真奈もおる。むしろ、真奈がカワイソウやな」


 貴族に絶望したりダンスを覚えるぞ、と珍しくワガママなメローディア姫を思ってかサクラは苦笑した。


「ま、成人していないお子様はアレでこそ、や。たまには発散せんとな。リルナは何か悩みがあらへんか? あるんやったら爆発せんうちに言いや」

「わ、わたしは子供じゃないから大丈夫よ」

「ホンマか?」


 珍しく真面目な顔をしてサクラがリルナの顔を覗きこむ。リルナとしては、ヴァンパイア・ロードの名前を出すわけにもいかず、ましてや巻き込む訳にもいかないので言葉を濁すしかなかった。


「そうか。何かあったらいつでもいいや。これでも二百年生きてきとるし、相談相手には文句ないはずやで。あぁ、でも無理なことがひとつあるなぁ」

「え、なになに? サクラでもできない事ってあるの?」

「リルナっちの処女をもらって――」


 無言で倭刀を引き抜くリルナ。サクラは黙って両手をあげた。


「冗談や」

「ポーションの瓶、突っ込んであげようか?」

「な、なんやその恐ろしい行為……あかんで、痛いどころやすまへんで」

「訓練学校時代にあったのよ。そんなイジメが」


 もちろん、リルナは関わっていない。しかし、噂で流れてきた恐ろしい事実だった。同じパーティ内での男女のいざこざの末、らしい。仲良しこよしだったリルナの訓練時代パーティは良かったなぁ、とリルナはサクラを見てにっこりと笑う。


「怖いわぁ。女の人、怖いわぁ……」

「今はサクラも女じゃない。うふふ」

「ウチは爺や。心はいつまでたっても少年のような爺やで」


 そんな風に二人はノンキに雑談しながら街道を歩いていく。荷物を交代で持ちながら、時折休憩しながら、時に出会った商人と挨拶を交わし、夕暮れ時は急いで宿まで走ったりしながら、エルフたちが長年に渡って作り上げた街道を進んでいく。

 そして、三日目のお昼過ぎ。

 ちょっぴりのんびり過ぎたこともあってか、馬車で一日の距離であるセイカウシュの村に辿り着いた。

 村は街道から少しばかり森の中に入った場所にあり、他の村や街と同じように柵や壁のないところで堂々と家が立ち並んでいた。森の木を利用して造られた家には、その全てに煙突があり、暖を取っているのか料理をしているのか、どの家からも煙がぷかりぷかりとゆったりと出ていた。

 屋根が急角度なのは雪を落とす為だろう。そのせいか、一階建ての建物にしてはやけに高さがあり、森の木々に匹敵するほど。お陰で雪は見当たらないが、それでも街の陽の当たらない場所には、とけていない雪が積もっていた。


「ついた~っ!」


 ふぅ、と一息ついた後、リルナはバンザイする。サクラはバンザイこそしなかったものの、リルナと同じように安堵の息を吐いた。


「まずは宿の確保やな。あと、神殿の位置の聞き込み」

「は~い。あ、あの人に聞いてみよ」


 村人であろうエルフにリルナは話しかける。


「冒険者さんかい? 珍しいね。宿ならほら、あの大きな家がそうだ」

「ありがとうございますっ! あっ、あと木の神殿ってドコにありますか?」

「ほぅ、こりゃまた珍しい。冒険者さんで神殿にお参りとは、大精霊さまもお喜びになる」


 エルフの男性は、どうやらそこそこ年齢を重ねた人だったらしく、精霊信仰の厚い人だった。自然崇拝者の多いエルフは、特に森の人とも呼ばれるほどに緑を愛する人も多い。荒くれ者の多い冒険者が神殿を訪ねてきたのは珍しいことなのだろう。


「木の神殿へは村の北から続く小さな道を歩けば行けるよ。大精霊さまはそこにいらっしゃる」

「北の道ですね、ありがとうございますっ! あ、冒険者でも精霊信仰が厚い人はいっぱいいるから、珍しいことじゃないですよ」

「そうなのかい? 時代は変わるものだね」


 見た目が青年なだけに、ちょっとした違和感を覚えるところだが……リルナの隣にはエルフ並に生きているお爺さんがいる。しかも、女性の姿で。

 そんな理由からか、エルフに慣れていない彼女でも、普通に接することができるのだった。もっとも、それで得をすることなど一切としてない。ただただ、エルフとにこやかにお話ができる程度である。


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