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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その13 ~エルフ王国と木の大精霊・ノルミリーム~

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~エルフ王国と木の大精霊・ノルミリーム~ 9

 メロディの回復を待ち、一向に戻ってくる様子の無いカーホイド王に肩をすくめたリルナは部屋へと戻ることにした。相変わらず貴族たちで溢れている廊下を歩き、適当に会釈しながら元の部屋へ戻ると、サクラが服を脱ぎ散らかしてベッドで寝ていた。


「これぞ庶民の姿じゃな」


 何が嬉しいのかメロディもドレスを脱ぎ捨て、別のベッドへとダイブした。正統派庶民であるリルナは、恐れ多くてそんなことは出来ない、とは言わないでおく。なんだかんだ言って、メロディ自身もお姫様らしいところはあるのだ。その言葉遣いも含めて。

 ブーツを脱いでリルナもベッドへと上がる。メロディの部屋にあるフカフカのベッドと良い勝負であり、沈み込む自分の体は中々に心地よい。


「はふぅ」


 ちょっぴりはしたないため息を吐き、スカートがめくれるのも気にせず、リルナはベッドの上で身じろぎをする。なにせ隣のベッドにはほぼ裸で呪いだらかの少女爺がいて、その向こうのベッドには下着姿のお姫様がいる。ここで気にしたところで、どんな利益が生まれるだろうか。いや、何も生まれない。冒険者バンザイ。

 と、良く分からないことを思いながらまどろんでいると、ドアがノックされた。


「は~い?」


 ひとまずスカートを抑えながらリルナが返事をすると、グロゥ紳士が慇懃に礼をしながら入ってくる。なんだろう、と思っているとその後ろから王様が現れた。


「よぅ」

「は?」


 軽く手をあげて入ってくるカーホイド王。リルナは信じられない風景を目の当たりにして、思わず、なんじゃそりゃ、と叫びたくなった。


「乙女の個室に入ってくるとは感心せんのぅ、カーホイド王。懲りずにまた衛兵に取り押さえられに来たか?」


 カカカと笑いながらメロディは身を起こす。下着姿でも相変わらず恥ないのは、まぁお姫様らしいといえばらしいのかもしれない。そんなメロディの姿を見ても、カーホイド王は鼻の下を伸ばすことはなかった。


「いや、なに。マトモな話が出来なかったのでな。再び足労願うのも失礼な話じゃ。こちらから出向いたという訳じゃ」

「なるほどのぅ」


 お姫様は頷くが、リルナとしては少しばかり首を傾ける。

 はてさて、王様がどんな用があるのだろうか?


「先ほども言ったが、メローディア姫よ、久しぶりじゃ。もっとも、そなたは覚えておらぬと思うが」

「一歳か二歳の頃に会ったと聞く。じゃが、面目ない。妾の原初記憶は三歳の時じゃ。お主にお世話になった記憶は妾には無い」


 すまぬな、とメロディは謝るが王様はほがらかに笑う。


「なに、それも当たり前のことじゃ。わしも三歳の頃くらいしか記憶がないしのぅ」


 数百年を生きるエルフが三歳の頃の記憶を保持しているとは……と、リルナは関係ないところで驚いていた。

 少しばかり世間話をしている隣で、リルナは自分の記憶をたどる。一番最初に覚えている、自分の中の一番古い記憶。


「あ……」


 リルナは自分の右腕にまいた青いスカーフを見た。リボンのようにアクセサリーっぽく巻いているが、それは父親からもらった物だ。その時の記憶が、リルナにとっての原初記憶だった。

 父親がいなくなった。

 それはもう、とうの昔に受け入れたことであり、悲しみは無い。まだまだ小さな頃は泣きもしたが、それよりも今は自分の父親がいったいどうなってしまったのかが気になった。

 すっかり忘れられた、と思い込んでいた召喚士という存在。訓練学校の先生ですら、『忘れられた』、と思っていた。しかし、真実は違った。召喚士という存在は『消された』のだ。

 召喚士と関わりが深かった者のみが、その記憶を持っている程度。かろうじて覚えている人もいるが、それも昔にそんな職業があったなぁ、と感慨深く頷くくらいだ。


「あ、あの、カーホイド王様……」

「む? なんじゃ?」


 話に割り込んだせいで機嫌を損ねてしまったか、と思ったが、カーホイド王はにこやかにリルナへと向き直った。やはり王族貴族といえど、基本的にはエルフであり人間種だ。その地位は不平等でも、根本的には同じ平等性を保持している素晴らしい人物ではある。


「王様は、召喚士を覚えていますか?」

「ふむ。知っておるぞ。じゃが、いかんせん冒険者のことは詳しくないのでな。存在を知っている、程度でしか言えぬよ」

「で、では……キリアス・ファーレンスという召喚士の名前は聞いたことありますか?」


 リルナの質問に、カーホイド王は顎元を触りながら記憶を探る。しばらく記憶の棚を開けていたようだが、降参したかのように首を横に振った。


「そうですか……」

「期待に応えられなかったようで、すまぬ。リルナ、お主にはスクアイラを救出してくれた礼をしなければならなかったな。どんな褒美でも思いのままに授けるぞ……と、言いたいところじゃが、さすがにアレの嫁になるのはオススメせぬ。ワシと違って浮気者じゃからな」


 メイド全員に手を出しよった……、と王様は目元を押さえて涙を拭くフリを見せた。


「さすがはお主の息子じゃな」

「がっはっは。サヤマの娘は口が悪いのぅ」


 ゲラゲラゲラ、と王様とお姫様が笑う。しかし、二人とも目が笑ってなかったのでちょっと怖かった。


「じゃぁ、情報をください。木の大精霊に会いたいんですけど……木の神殿はどこに?」

「そんなものでいいのか? 木の神殿ならばここから北へ街道を真っ直ぐに歩いていった先にある『セイカウシュ』という村の近くにある。ここからなら馬車で一日の距離じゃ。手配しようか?」

「あ、いえ。これでも冒険者です。歩いていきます」


 そうか、とカーホイド王はすこしだけ残念そうだった。


「まだ何かあれば何でも言ってくれ。あぁ、せめて今晩の晩餐会だけは参加してもらいたい。気さくな立食パーティじゃ。適当に食べ、飲んでくれ」


 それでは、と王様は部屋を後にするように扉へと向かった。

 最後に振り返り、ベッドの上で寝ているサクラと下着姿のメロディを見て、ニヤリと口元を歪めてみせた。


「眼福じゃ」

「出ていくのじゃっ!」


 メロディが枕を投げつけるが、王様は見事にそれを避けると、ケラケラと笑いながら廊下へと走り出るのだった。


「まったく、男という生き物は困ったものじゃのぅ」

「いやいや、メロディがそんな格好で居るのが悪いと思う……」

「う……むぅ。しかし、妾は十歳じゃ。まだストライクゾーンには達していないはず!」

「それってどうなの?」


 そもそもストライクゾーンって……と、リルナは肩をすくめるのだった。


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