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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その13 ~エルフ王国と木の大精霊・ノルミリーム~

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~エルフ王国と木の大精霊・ノルミリーム~ 7

 馬車から降りると、ツンとした冷たい空気が鼻の頭を冷やす。鼻腔を冬のにおいが駆け抜け、リルナは思わすくしゃみをしてしまった。


「はぁ~」


 メロディは口から吐く息が白くなっているのを確かめる。少女から放たれた空気は白く濁り、やがて元の空気に溶け込んでいった。


「寒いっ! けど、そこまで冷たくない?」

「そうじゃのぅ。確かに冬の空気じゃが……どことなく温かみを感じるの」


 気温が低い。しかし、その寒さは生物を殺す冷たさではなく、ただただ空気が静まり返っている冷たさであった。むしろ足元に積もっている雪が寒さの根源であるかのように感じる。


「今の時期は夏ですからな。季節がもう二つ巡りますと、本格的な寒さとなります」


 御者席から降りたグロゥ紳士が説明してくれる。どうやらカーホイド国民において、この寒さは寒いうちに含まれないようだ。

 リルナとサクラは革製の装備だが、唯一の金属鎧であるメロディは冷たくなった自身のヴァルキリー装備に辟易するように体は震わせた。


「それでは案内します」


 グロゥが先へ歩き、その後ろを着いていく。

 現在地はカーホイド城下街の外、馬車を停めて置く専門の停留所だ。馬小屋もあり、ありとあらゆる馬車が並んでおり、馬の数も膨大だった。現在、貴族たちが多く訪れているだけに豪奢な馬車が多く、一般の人々が見れば宮殿かと思わせるほどの絢爛豪華に馬車小屋が彩られていた。

 そんな停留所のすぐそばに入り口たる大門があり、周囲はぐるりと城壁で囲われている。それでも城壁のすぐ傍は森になっており、どれくらいの規模かは確認できなかった。

 大門のすぐ横にある小さな通用門へと向かうと、サヤマ城下街と同じく衛視の見張りが立っており、出入りする人物をチェックしていた。エルフ国らしく、衛視の男性はエルフであり、残念ながら彼が少年なのか青年なのか、それとも老人なのか、ニンゲンであるリルナたちには分からなかった。


「わぁ、すごいっ」

「おぉ~、見事な街じゃの」


 城壁は石だったが、街中の建物は全て木製で出来ており、木の色と白い雪がコントラストにも感じられて、趣のある風景になっていた。

 年中を通して気温が低い為か、建物の外にはランプが吊るしてあり、ほのかに光を放っている。オレンジ色の温かみある光が寒さを和らげているようだった。

 まるで童話の世界に迷い込んだみたいだが、街行く人々が全てエルフであり、その辺りで露店を営業しているのもエルフ。どこを見ても美男美女なので、童話の世界そのものといっても過言ではなかった。


「わ、わたしは場違いな気がしてきた……」

「妾もじゃ。姫などと浮かれてはおらぬが、それなりに自信があったのじゃがなぁ」


 リルナとメロディは自分のほっぺたをムニムニとなでる。もちろん美容効果は無い。場違い感を誤魔化す行為だ。


「いやいや、お姫様は自信もってええで。リルナは……お面でも買うか?」

「サクラが酷いこと言った!」


 そこそこ美人の部類になる元爺の足を蹴っ飛ばし、リルナはメロディに抱きつく。メロディはよしよし、と年上の召喚士の頭を撫でた。


「ほっほっほ、お嬢様方は充分に美しいですよ。何も恥じることはありません」


 三人の会話を聞いていてか、グロゥ紳士が笑いながらリルナを慰める。


「うぅ、ありがとうグロゥさん。っていうか、グロゥさんって若いころ絶対モテたでしょ」


 今はもう現役を引退した、といった風の老紳士だが、その顔立ちはかなり整っている。彼もニンゲンではあるのだが、エルフの国で生きてきただけにいわゆるイケメンなのだった。


「ふふ、ナイショですよ。私には長年連れ添った妻がいますので」


 白い手袋をはめた人差し指を口に当てて、グロゥはウィンクをリルナに決めてみせる。思わずメロディと一緒に、わぉ、と言ってしまうリルナだった。


「引く手数多やな」

「サクラ様も相当に遊んでいるご様子ですが?」

「それもナイショで」


 サクラも口元に人差し指を当ててみせる。グロゥとは違って、こちらは茶目ッ気のあるポーズになった。


「う~ん……こう?」

「違うのぅ。こう、こういう感じか?」


 爺コンビはさておいて、とばかりにリルナとメロディも口元に指を当てて素敵ポーズを模索してみる。しかし、年季の差には勝てそうになく、早々に可愛さ追求を放棄した。


「さぁお姫様、お嬢様方。こちらです」


 そうグロゥ紳士が手で指し示したのは、崖のようになった岩場。街中に巨大な岩石が立ち、その上に壮大なる真っ白なお城が立ちそびえていた。


「「おぉ~」」


 リルナとメロディは見上げて声をあげる。サクラは声こそ出さなかったものの、その全貌には心を動かされたようで笑みを浮かべた。

 巨大な岩の上に造られた城。そして、城に向かうためには岩に造られた階段を登っていくしかない。だが、雪で彩られた階段とお城の風景は綺麗であり、童話の世界そのものが体言している姿だった。


「さすがは長命なエルフのお城じゃ。その美しさはドワーフの手先の良さにも匹敵するのぅ」


 シューキュで見た好色王の城も素晴らしかったが、エルフの城は美しさに秀でていた。美男美女しかいないエルフというイメージをそのままお城にしてしまったかのようなもの。


「画家も滞在する者が多いですな。良ければお嬢様方もこちらに住んでみてはいかがでしょう? 冒険者の宿ももちろんありますからね」

「魅力的っ! でも、カーラさんを裏切るのは心が痛いかも」


 リルナは小さな胸を押さえる。メロディも、そうじゃの、と答えた。


「ウチも呪われとるしなぁ」


 死地にはいいかもしれんな、とサクラの笑えない冗談を受け流し、一同はグロゥの案内のもと、長き階段を登り壮大で荘厳で美しいカーホイド城へと辿り着いたのだった。


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