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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その13 ~エルフ王国と木の大精霊・ノルミリーム~

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~エルフ王国と木の大精霊・ノルミリーム~ 6

「何しとったんや?」

「ちょっとパペットマスターに釘を刺してただけ」

「拷問じゃな」


 なんて会話を交わしてリルナとサクラ、メロディは合流した。何食わぬ顔をしている三人だが、それぞれ思惑はあるらしい。リルナとしては、二人を巻き込む訳にはいかないという思いがあった。

 対してメロディはパーティメンバーとしてリルナを守るという前衛としての意思がある。リルナが話していた内容は余り聞き取れなかったが、それでも確かに視線を感じた。メロディ自身はヴァンパイア・ロードという存在は知らない。それでも凶悪ながらしっかりと、ハッキリとした意思を感じさせる何者かの視線。それを確実に知覚した。

 サクラは、二人を守ってやる義務は無いと思っている。しかし、行動を共にしている仲ではあるし、現在は冒険者として生きている。仲間をそう簡単に失う訳にはいかない、と一応は思っているので、さてどうしようか、と思案した。


「……」

「……」

「……ふむ。言われた場所に移動しようかの。確か街の北にある出口? 入り口? じゃったかな」


 黙りこんでしまったパーティの間を取り持ち、お姫様は提案する。こんな所で立ち止まっていてはどうしようもないし、船乗りたちの邪魔になる。移動じゃ移動、と言いながら先頭を歩いていった。


「は~い」

「馬車が待ってるんやったっけ?」

「そうじゃ。エルフの王族が持つ馬車じゃ。きっと快適に違いないぞ」


 雰囲気を良くしようとしてか、メロディはケラケラと笑ってみせる。合わせるようにサクラも笑顔を浮かべたので、リルナはつられて笑った。

 一同は街の北まで移動する。ミュルトの街の港が南にあるので、街の中央通りをそのまま歩いて行くと迷うことなく辿り着いた。

 驚いたことにミュルトの街には外壁などは無く、そのまま街の壁のように森が広がっていた。街のすぐ隣が深い森、というより深い森の中に街があるといった様相。しかし、そんな森に大きな街道が造られており、しっかりと舗装されていた。

 リルナたちが見ている間にも商人たちが馬車で移動している。森は深いが活気があり、護衛として雇われた冒険者の姿も多かった。

 商人たちの機能性重視の馬車に並んで一際豪奢な馬車がある。どう見ても貴族御用達といった感じで、馬車の前には一人の好々爺然とした老紳士が背すじを真っ直ぐに伸ばして立っていた。


「すまぬ。妾はヒューゴ国、サー・サヤマ領はサヤマ・リッドルーンの娘、メローディア・サヤマじゃ。お主がカーホイド城まで案内してくれるのかの?」

「これはこれはようこそ、メローディア様。この度、メローディア様を案内させて頂きますグロゥと申します。よろしくお願いします」


 黒くパリっとした礼服を見事に着こなした老紳士、グロゥは慇懃に礼をする。優雅な身のこなしは貴族にも匹敵するほどであり、白髪混じりの頭髪は歴戦の猛者を思わせた。社交界での常勝無敗の気配に満足したのか、メロディは一言、うむ、と頷いた。


「こっちはリルナ・ファーレンスとサクラじゃ。護衛ではなく、妾の友にして仲間じゃ。貴族ではないので、妾を含めて冒険者として扱ってほしい。よろしく頼む」


 今度はメロディが頭を下げる。

 リルナたちをお姫様と同等に扱うことは出来ない。ならば、とメロディが申し出たのは自分の地位を下げること。もちろん、貴族たちはリルナたちが混じっても不平や不満を言う者は居ない。貴族が貴族と呼ばれている所以であり、彼らは皆、恐ろしいほどに器が大きい。傲慢で欲に溢れた貴族など、物語や英雄譚の中でしか見ることは出来ない。

 それでも社交界だ。貴族の集まりだ。ルールなどは存在しないが暗黙の了解は守るべきでもある。


「了解しました。しかし、お客様を冒険者扱いなど出来ようはずもありません。リルナ様とサクラ様もメローディア様と同等にお世話させて頂きます上、ご了承をお願いします」

「ふ~む、仕方がないのぅ。それで良いか、二人とも?」

「いいもなにも……」

「ウチらは何でもええで。ドレスでダンスフロアに放り出されん限りな」


 メロディは肩をすくめる。


「ほっほ。それでは馬車にお乗りくださいませ。なにぶん人手不足でして、御者も私が務めさせて頂きますので、何かあれば窓を開けてお知らせくださいませ」


 お願いします、と三人は答えると早速とばかりに馬車へと乗り込んだ。周囲の商人のそれに比べて一回り大きく、内部は真っ白な内装になっていた。ふかふかのカーペットにゆったりとしたソファ。庶民には縁の無さそうな座り心地にリルナは思わず感嘆の声をあげる。


「すごいフワフワ。メロディのベッドと同じだ」

「そりゃ柔らかそうや。しかし、リリアーナ嬢の胸には劣るな」

「あれに勝てるのは、神の膝元くらいなものじゃ。妾たちには縁が無いのぅ」


 メロディは自分の胸を鎧の上からコツンコツンと叩いてみせる。リメイクのヴァルキリー・メイルの胸はほぼ真っ平。女性専用装備のはずが、女性特有の丸みを帯びてなかった。


「それでは出発します」


 馬車に取り付けられている小窓からグロゥが少しだけ顔を見せて声をかけた。リルナたちは手を振って答える。

 馬車を引く三頭の馬が進み始め、馬車も動き出す。少しの衝撃を感じたあとはスムーズに動き出した。乗り心地は素晴らしく地面の揺れのほとんどは吸収されていた。加えてソファはふかふかなので、お尻の心配はしなくても良さそうだった。


「それにしても深い森。あと、ちょっと寒い?」

「カーホイドでは夜と静寂を司る女神、ディアーナ・フリデッシュ神が信仰されとるからな。ディアーナ神は冬の象徴やから、カーホイド島は冬の国でもある。信仰深い中心部は雪があるんとちゃうかな」

「そっか~。キキン島は今、夏だから混乱しそう」

「夏になるとカーホイド、冬にはシューキュ島に住むのも悪くはないかもしれんのぅ。そんな冒険者も悪くはないかもしれぬぞ」

「ん~、わたしは春夏秋冬ってあるほうが好きだな。ほら、季節ごとに全然違うじゃない?」

「リルナは風流やな」

「うむ、自然のその意見が出るとは、通じゃのぅ。妾も見習うとしよう」

「……褒められてるの、それ?」


 肩をすくめたサクラとメロディにリルナは、もう! と文句を言った。

 その後も順調に馬車は進み、一日ごとに街道沿いの街へ寄る。グロゥと共に宿に泊まりながら三日後、森の中に突出するように見える白い大きな城が見えてきた。


「お~、さすがはカーホイド城。美しいのぅ」


 馬車の窓から顔を出し、冷たい風を受けながらメロディはお城を眺めた。岩場に建てられた真っ白なお城は、それこそ御伽噺に出てきそうな程の荘厳さと美しさで魅せる。なにより雪が白さに拍車をかけ、化粧をほどこしているようだった。

 お城の周囲に見える城下町にも雪が積もっているようで屋根は白く見える。また遠くに見える山脈にも木々を覆うように白くなっていた。


「冬の国やな~。老人には厳しい寒さかもしれん」


 サクラは寒いのは苦手なのか、ちょっぴり苦笑している。それでも、美しいと感じているようで悪い気分ではないらしい。


「すご~い! 綺麗だね、メロディ」


 リルナはすっかりとカーホイド城に魅せられたのか、瞳をキラキラと輝かせた。メロディと一緒に馬車の窓から顔を出して景色を見渡した。


「来て良かったっ!」


 ヴァンパイア・ロードという問題を抱えながらも、それを忘れられる景色。この美しさは、いくら最凶のヴァンパイアであろうとも破壊できないだろう。

 リルナは無邪気に笑顔を浮かべるのだった。


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