~ドラゴン・カーニバル~ 6
「依頼は簡単だ。畑を荒らすモンスターを討伐して欲しい」
「畑?」
ダクガインの言葉に、リルナは後ろを振り返る。彼の言う畑とは、もちろん島の中で作られた畑のことだろう。加えて、彼しか住んでいないこの火山島において畑の存在は、ダクガインが作ったと思われる。
人間サイズにしては少し大きな畑の畝を見てから、リルナはブラックドラゴンに質問した。
「モンスターだったら、ダクガインさんが退治すればいいんじゃ?」
目の前にいるドラゴンより強いモンスター。そんなのは想像できないよ、とリルナは肩をすくめる。それに、ドラゴンより強いモノを倒せと言われても、リルナには到底不可能だった。
「いやぁ、それがね。僕が目を離した隙にいつもやってくるんだよ。せっかく作った作物は食べられるし、住処は狭くて攻撃できない。ずっと手を焼いてたんだ」
「……度胸のあるモンスターね」
ドラゴンから宝を盗む冒険者の話はあるが、農作物を盗むモンスターの話は初耳だ。わざわざ彼の作物を狙わなくてもいいのではないか……とも思うが、周囲を見渡して納得もする。
島の中は、食べるものと言えばそれこそダクガインが作る作物しかない。火山である岩山ばかりで、大地とよべる土がほとんど無く、植物もあまり生えていない。加えて、周囲は断崖絶壁で見渡す限り島はなく、周囲はすっかり海に囲まれていた。
こんな状況であるのならば、それこそドラゴンから何としても作物を盗むしか生きる術はない。モンスターも必死なのだろう、とリルナは納得した。
「住処は分かってるの?」
「うん。付いて来て」
ダクガインはそう言うと、背中の翼を広げる。一度だけバサリと空気を打つと、その巨体はふわりと浮き上がった。
今度は咥えられないように、リルナは自分でリーンの背中に飛び乗る。彼も翼を広げると、空へと舞い上がった。
上昇した二体のドラゴンは火山を越えて断崖絶壁の中間あたりまで移動する。波が激しく打ちつけ、しぶきが上がる中、リルナが屈んで何とか入れそうなくらいの小さな穴があった。それは横に亀裂のように広がっており、縦ではなく横に関しては広そうだった。
「この中に居るみたいなんだ。そこまでは分かったんだけど、これ以上は手出しできなくてね」
「私も入れないや……ブレスはダメなの?」
ブラックドラゴンならば月属性か闇属性のブレスを使えるはず、とリルナは聞いてみた。
「壊れたり崩れたりしたら、どんな影響があるか分からない。僕は今のままのこの島が好きなんだ」
なるほど、とリルナは頷いた。
ドラゴンブレスは威力が高い。使用すれば、こんな狭い所に居るモンスターなど一撃で倒せるが、その代わり周囲への影響も大きい。下手をすれば崖が崩れて上陸可能な形になってしまうかもしれない。
「分かりましたっ! 畑に隠れて出てくるのを待ちます」
「頼むよ、リルナ。あと、リーン君も」
「ボクはついでなの?」
あはは、とみんなで笑ったところで島へと戻る。その後は、作業をするというダクガインと分かれて、リルナとリーンは畑の横である草むらに隠れることにした。ダクガインに普段の作業をしてもらい、いつもと同じ状況を作る、という作戦でもある。
「で、どうしてボクが下なの?」
「いいじゃない。わたしは服が汚れないし、リーン君はのんきに寝てられるでしょっ」
余り背が高くない草むらなので、隠れるには這いつくばる必要がある。多少の藪や木々もあるのだが、周囲から一番目立たない場所を見つけ、リーンがべっちゃりと這いつくばり、その背中にリルナが乗って、べったりとうつ伏せになった。
畑に水をやったり、雑草を器用に引き抜くダクガインを見ながら欠伸を噛み殺す。雲ひとつ無い青い空の下で海風を感じながらジっとモンスターの襲来を待った。
お昼が過ぎる頃。
ダクガインが洞窟内に移動してしばらく時間が経過した時、その音は聞こえた。不快音というべき重低音で、ぶぶぶぶぶぶという特有の空気を叩く音。それと共に空から飛来した姿に、リルナは思わず、うげ、と言葉を漏らした。
「リルナ、モンスターが出てきたよ」
「……嫌だ。リーン君、行って」
「え~。ボクは今、召喚された訳じゃないからね。言うことは聞かないよ」
「うえ~ん」
リルナはちょっと泣きそうになりながら、畑の中をギチギチと歩き回るモンスターを倒すべく、草むらからゆっくりと出て行くのだった。




