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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その12 ~ドラゴン・カーニバル~

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~ドラゴン・カーニバル~ 4

 ドラゴンのお祭、といっても何か催し物があったり神様への踊りを捧げたり、祈ったりや感謝をするといったものではなかった。

 ただ単純にみんなで集まってワイワイと食事を楽しもう会、とリーンの説明にリルナは潔く頷いた。こんなところで、お祭じゃない、と否定しても何も生まれない。むしろ、逆鱗に触れた時点でリルナの命はあっさりと終わりを迎えてしまう。勇者でも英雄でもないただのレベル5には、首を縦に振ることしか許されていなかった。


「ほれお嬢ちゃん、食べな。美味いぞ!」


 今にもリルナを食べそうな勢いでレッドドラゴンのロードアがリルナにお皿を差し出してくれる。ドラゴンにしてみれば小さなお皿には、たっぷりの肉が切り分けられており、リルナはそれを両手で何とか受け取った。


「わ、美味しそう」


 香ばしい香りとボリュームたっぷりな見た目。ドンと並んだ肉の塊からは未だに肉汁があふれている。育ち盛りの少女にはたまらない光景に、リルナは一つ噛みの塊を手に取ってかぶり付いた。


「ん~! 美味しいです!」

「くわっはっは! そうだろ、たくさん食べて大きくなれよ!」

「え、育つまで待ってるっていうニュアンス……」

「だから人間は食べないって。しつこい嬢ちゃんだなぁ……」


 ロードアが呆れるほどにリルナは警戒していたが、警戒するだけ無駄なのは明白だった。なにせ、いつでも食べられるのだから。気をつけたって無駄だった。


「いや、だから食べないって」

「リーン君には分からないよっ。この恐怖!」


 そもそもにして種族『龍』は最上位種だ。人間よりも上であり、神様と同等と考える人もいるくらいだ。知性を持たない『竜』にしてもその強さはモンスターの中でも高い。下手をすれば街ひとつを容易く壊滅させるくらいの力は有している。

 言ってしまえば、現在のリルナの状況は神様に囲まれているようなもの。テーブルマナーが存在しないのが唯一の救いだった。


「リルナ、ボクにもちょうだい」

「うん。はい、あ~ん」

「あ~ん……ん~、美味しい肉だね。ロードアさんが狩ってくる天然牛は一番だ」

「あ、これ牛だったんだ」

「……分からずに食べてたの……」


 しかし、そんな恐怖もしばらくすると麻痺してくる。人間種の長所でもあり短所でもある。感じなくていい無駄な恐怖に慣れてきたところで、リルナに声がかかった。


「初めましてリルナさん、息子がお世話になっております」

「まぁ、かわいいじゃない、やるわね、リーン」


 どうやらリーンの父親と母親のようで、真っ白で美しい二体のホワイトドラゴンが丁寧に頭を下げた。鱗は太陽の光を反射し白く輝き、神々しさを漂わせている。同じ龍種の中でも比較的顔のつくりは優しい感じではある。もちろん、比べるのが片目を傷で塞がれたロードアだったりしたら、当たり前なのだが。

 ホワイトドラゴンは数が少ないのか、両親とリーンの姿しか見えない。今までは別の場所で挨拶まわりしていたらしく、遅れてすみません、とリーンパパが謝った。


「いえ、いえいえいえいえいえ。とんでもないです!」


 リルナは慌てて頭を下げる。


「こ、こちらこそリーン君にはいつもお世話になってますっ! 危ないところを何度も助けてもらいました!」

「え~……ボクの時と態度が違う~」

「だ、だって……」


 リーンはリルナと初めて出会った時を思い出し、鼻の上に皺をよせた。怒ってる表情、である。地上でのんきに眠っていた際に襲い掛かってきた少女と、丁寧に挨拶する今のリルナを比べてドラゴンブレスを吹き付けたくなった。


「リーン君と全然違うよ? パパさんママさん」

「うっ」


 それを言われるとリーンも弱いらしい。今のリーンに神々しさがあるかと言われれば、確かにあるのだが……本物を目の前にするとその違いは歴然だった。『神』と『神レベル』くらいに差がある。どちらも人間にとって恐ろしいものだが、明確には差がある訳だ。


「はっはっは、言われてるぞリーン」

「生意気な子ですから、もっと言ってやってちょうだい、リルナちゃん」


 ご両親のお墨付きも出た、ということでリルナはニヤリとする。リーンは凄く嫌な顔をした。


「どうぞ楽しんでいってください。ドラゴン種族は普段、一人で生活しているため、こんな機会がないと話すことも無くなりますから。ちょっとしたお茶会だと思ってくださればいいですよ」


 リーンパパの言葉に、リルナはなるほどと頷いた。どうせなら、とリルナは質問する。


「ドラゴンって、普段は何をしているんですか?」


 ドラゴンの生態はまったく知られていない。それこそ、おとぎ話や英雄譚に出てくる程度で、普段の龍の話は謎だった。


「さっきも言ったようにドラゴンは一人で巣と決めた場所にいます。僕達は夫婦なので一緒に居ますが、夫婦でも別の場所に住む者もいますね」


 どうやらリーンの両親は仲良しらしい。いいな~、なんてリルナは笑顔を見せた。


「巣の中ではのんびりとしています。時々、蛮族が龍の力を狙って襲い掛かってきますが……まぁ、相手してやる程度ですかね」


 その説明に、周囲からも笑いが起こる。ドラゴン族にケンカを売る時点で、リルナとしては失笑ものだった。自殺しに行くのならまだ話が理解できる。勝とうというほうが良く分からない。


「あとは、訊ねてきた人間の相談に乗ったり、ですかね。滅多に来ないですけど」

「相談……おとぎ話に出てくる神託、みたいな感じ?」

「アドバイスしてるだけなんだがなぁ」


 リルナの言葉にグリーンドラゴンが呟く。他にも覚えがあるドラゴンが、神様のつもりは無いぞ、とリルナに笑いかけた。


「ドラゴンの皆さんって、気さくなんですね……」


 なんだか恐いイメージが無くなっていく、とリルナは複雑な表情を見せた。


「何せ一人で居るからねぇ。話し相手ができると嬉しいし、ついつい相談に乗ってしまうんだよね」


 じゃぁなんで一人で居るんだ、とリルナは思ったが……こうして群れでいるドラゴンを見ると、あぁ普段はバラバラで良かった、なんて思う。おとぎ話に龍がうじゃうじゃと出てこられたらたまらない。神々しさも半減だ。


「あとは、お城に住んでる者もいるね」

「あ、私ですよ~」


 鮮やかな鱗をそたブルードラゴンの女性がリルナに頭を下げた。


「街のシンボルっていうか神様みたいな役割をしているよ~。守り神、みたいな感じかな~。街とお城を守るかわりに寝床を掃除してもらってる~」


 ちょっとした王様みたい、とリルナが言うと、そうでもない、とブルードラゴンは否定した。


「いや~、神聖視過ぎちゃって、誰も相手してくれないのよね~。普通にビビっちゃって~。リルナちゃんの様子を見てたら、無理もないか~」


 と、ブルードラゴンは肩をすくめるような、人間くさい動きをした。


「まぁ、そんな風に普段はみんな一人だから。なので、定期的にみんなで集まってお祭しているんだ。全員が集まって意見交換することもあるし、問題があったらここで相談したりするよ」

「全員?」


 リルナの言葉に、リーンパパは頷いた。どうやら、世界中の龍がここに集まっているらしい。恐ろしい。どうりでおとぎ話の登場する龍もいる訳だ、とリルナは納得した。


「あ、彼がいないよ。ほら、ブラックドラゴンの」

「あぁ、そうか。また欠席かな」


 その一言を切欠に、わいわいとそのブラックドラゴンの話題になる。どうやら出不精らしく、しかもかなりの変わり者らしい。お祭にも滅多に顔を出さないそうだ。


「そうだ、良かったらリルナちゃん、呼んできてくれないかい?」

「ひょえっ?」


 突然の申し出に、リルナは驚いて奇妙な声をあげた。


「彼は人間が大好きだからね。リルナちゃんが呼んできてくれると、顔を出すと思うんだ」

「人間が好きって……食べるほう?」


 相変わらずのリルナの言葉に、龍の皆さんは全員で首を横に振った。


「だからドラゴンは人間を食べないって」


 リーンのツッコミに、リルナはだって~と言葉を漏らす。


「普通の人間好きだよ。それに、彼は召喚獣だったんじゃなかったかな?」


 リーンパパの言葉にリーンママは頷く。


「ほ、本当ですか!?」

「という訳で、呼んできてくれるかな?」

「行く! 召喚してたのってもしかして――」


 お父さんかもしれない。

 世界に名の通るほどの召喚士だった父。その召喚獣として、ドラゴンが居ても不思議ではない。むしろ、リルナとホワイトドラゴンであるリーンが出会っているのは、何かしら意味ある事、とリルナは考えていた。


「リーン君っ」

「分かったよ。それじゃ、行って来ます」


 リーンはリルナの襟首を咥えると、放り投げて背中に乗せた。リルナは悲鳴をあげながらも、何とか背中につかまる。


「場所は知っているかい、リーン」

「うん。有名でしょ、ブラックドラゴンのダクガインさん」


 ダクガイン。

 その名前をリルナはしっかりと覚え、リーンの背中にしがみつく。ふわりと舞い上がるリーンの背中から、お祭会場を見下ろした。

 龍たちが飛び立つリルナとリーンを見上げている。その盛大な光景は、恐怖よりも何か誇らしい気持ちがこみ上げてくる。

 彼らに行って来ます、と手を振り、リルナとリーンはブラックドラゴンのもとへと飛び立つのだった。


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