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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その12 ~ドラゴン・カーニバル~

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~ドラゴン・カーニバル~ 3

 ホワイトドラゴンの背中に乗って空を飛ぶ。

 という、それだけでも冒険譚になりそうなのだが、そんな体験をしているリルナは退屈そうにあくびを噛み殺した。

 はじめは景色を楽しんでいたのだが、キキン島を離れて海の上になってからはずっと同じ風景が続く。それはそれで広大な世界を見渡せるのだが、それも長く続くと退屈な風景に変わってしまう。


「太陽が動くだけの青い世界ってどうなの?」

「神様でも居ると思った?」


 そう返されてしまってはリルナは肩をすくめるしかない。神様は空に居る、と信仰している人も多いが、実際は空に住むのは鳥と羽を持つモンスターぐらいなものだ。


「人間が空を飛ばない理由が分かったよ」

「わたしは人間代表じゃなーいっ」


 アカデミーに所属する学者なんかは泣いて喜ぶ体験かもしれないが、冒険者のリルナにとっては変化の無い退屈な体験と化している。それでも、世界は永遠の空と海ではないのでやがて大陸が見えてきた。

 今度は水平線ではなく地平線の向こうまでもが大地であり、その広大さにリルナは驚きの声をあげる。


「島育ちだから、海の無い世界ってはじめて!」

「こっちには冒険に来ないの?」

「う~ん……そのうち行くかも?」


 つい先日出合った蛮族である真奈たちは、この大陸からやって来た冒険者だった。人間種の敵と言われている蛮族と共存する国というのも見てみたかったので、リルナはリーンの背中からキョロキョロと下界を伺う。しかし、国らしく物は見当たらない。せいぜい街道が見える程度で、馬車か何かが行き交うのが見える程度だった。


「国は無いの?」

「この辺一帯がひとつの国だよ」

「えっ!?」


 どうやらお城らしいお城は遠くにあるようで、リルナは残念と肩を落とした。すくめたり落としたり忙しい肩だが、すぐに元の状態に戻る。目指していた浮遊島が見えたからだ。


「本当に浮いてる……」


 女王から聞いたとおり、空に島が浮いていた。ひとつの大きな茶色い岩石の上に森がまるごと乗っかったような、そんな島がゆっくりとではあるが移動しながら浮かんでいた。


「あ、でも速い」


 ゆっくりと、と見えたのは誤解だった。あまりに巨大な為にゆっくりに見えていたのだが、移動するリーンの速度と影を相対的に見たところ、それなりの速度で移動している。恐らく馬車程度では追いつけない速度だった。

 高度は雲の少し下。という訳で雨の影響を受けるのか、森が岩の上に出来たようだ。周回コースに群島列島タイワは含まれていない為に、リルナたちは知らなかった。それでも、ここまで巨大な島が浮遊しているのだから、噂程度には広まってもいいのに、と思い、リーンに聞いてみる。


「当たり前だから、噂にならないんじゃない?」

「どういうこと?」

「生まれた時から太陽があるでしょ。そんな話、リルナはする?」

「……しない」

「だから、大陸の人も生まれた時から空に浮かぶ島の話なんて、当たり前過ぎてしないんだよ」

「分かるような、納得できないような」


 結局のところ、あまり島の外に出ないタイワ国民のせい、という話だった。もっと世界に出るべきなのか、とリルナが自問自答しているところで、リーンが浮遊島に追いつく。バサリ、と翼を打つわけでもなく降下していくと、なにやら賑やかな場所に降り立った。


「――ま、まままま、待って」

「え、どうしたの?」


 リーンが降り立った場所。

 それは、お祭会場のど真ん中。

 もちろん、それは人間ではない。ドラゴンたちのお祭であり、そのことを深く考えずにただただ言われるがままに付いてきたリルナは、覚悟もなく、その中に文字通り飛び込んだのだ。


「あわわわわわわわ」


 ドラゴンの群れ。

 レッドからブルー、はたまたグリーンにイエロー、ブラックときてホワイト。リーンの何倍もの大きさであるドラゴンが、一斉にリルナを見て首を伸ばす。

 リーンはまだ子供である、というのが一瞬にして理解できた。というのも大きさの違いに他に、体を覆っている鱗だ。リーンはうすくではあるが羽毛に覆われている体で、その触り心地は極上である。しかし、今まさにリルナを取り囲んでいるドラゴンには、羽毛は一切として無い。

 硬そうな鱗が、それぞれのドラゴンの特色である色に覆っており、中には歴戦の猛者らしい傷だらけのドラゴンまで居た。

 そんな中で一匹のレッドドラゴンが声をあげる。なぜか片目に傷を負っており、今にもリルナを食べてしまいそうなほどに顔を近づけると、くわッと口を開いた。


「誰だ! 生贄なんか用意したヤツは!」


 いけにえ。

 という言葉に、リルナの顔から血が一斉に引いてしまう。その青ざめた顔を見て、レッドドラゴンが空へと向かって炎を吹き出した。


「ほら見ろ! 怯えてるじゃねーか! かわいそうだろ!」

「ひいいいぃいぃぃぃぃいい!」


 あわあわと震えるリルナを見て、リーンはケラケラと笑う。


「いやいや、ロードアさん。今日のゲストですよゲスト。ほら、リーン君が契約したって話じゃないですか」

「怯えさせてるのは、あなたですよ」


 ずびし、とレッドドラゴンの頭にしっぽのツッコミが入れられた。その一撃で人間種ならば村ごと壊滅してしまいそうな勢いに、リルナはガタガタと震える。


「た、助けてリーン君……!」


 ひぃ、とリルナはリーンの首にしがみつく。食べられるのならばリーンと一緒、という覚悟の行動だった。


「ごめんなさいね、お嬢ちゃん。ロードアさんって話を聞かなくって」


 そんなリルナにグリーンドラゴンがにっこりと笑った表情を作って顔を近づけた。声からして女性であり、しかも格別に優しそうな声だった。


「は、はぁ……食べられない?」

「ドラゴンは人間なんか食べませんよ。おとぎ話でも、食べてないでしょ」

「……言われてみれば、確かに」


 リルナはようやくリーンの首から手を離す。


「まぁ、お姫様はさらっちゃうけどね」「人間に惚れたドラゴンって誰だったかな~」「それで痛い目にあったんだよね」「ですよね、ロードアさん」「うるせー!」


 と、周囲は賑やかになる。ゲストの人間に注目した後は、すぐに別の話題で盛り上がり始めるドラゴンたち。そんな中でリルナは、ロードア、という名前に引っかかりを覚えた。


「ロードアって……あのロードア?」


 子供なら誰でも知っている物語。お姫様が赤い龍にさらわれ、それを取り返す勇者の物語だ。その赤い龍の名前がロードアだった。


「そうそう、あのロードアさんだよ」


 リーンが認めて、リルナはあんぐりと口をあける。驚く声が出したいのだが、ここで出したらドラゴンの皆さんに叩き潰されそうな気がしたので声を我慢した。


「事実だったんだ……」


 なにかこう、恐ろしい場所に紛れ込んでしまった。

 リルナはがっくりと、草の上に倒れるのだった。


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