~ドラゴン・カーニバル~ 1
●リルナ・ファーレンス(12歳)♀
召喚士:レベル5 剣士:レベル0(見習い以下)
心:普通 技:多い 体:少ない
装備・旅人の服 ポイントアーマー アクセルの腕輪 倭刀『キオウマル』
召喚獣:8体
ヒューゴ国を有するキキン島にも夏の兆しが訪れた。春のポカポカとした暖かさから、肌をチリチリと焼く暑さへと変わろうとしている。
季節が巡るのは、神様の信仰がごちゃ混ぜだからだ。夏を司る神様、火と炉の神『バルドル・スヴァドール神』を信仰するドワーフが多いシューキュ島は年中を通して夏である。また、冬を司る神様、夜と静寂の神『ディアーナ・フリデッシュ神』を信仰するエルフが多いカーホイド島は、年中を通して冬となっている。
神様の影響を如実に受ける土地柄は精霊にも影響を与えるので、火の大精霊がシューキュ島に神殿があったのは、当たり前といえば当たり前の話だった。ちなみに冬の島であるカーホイドに神殿があるのは雪の大精霊でも氷の大精霊でもなく『木の大精霊』だ。理由は、大森林が広がる土地だから、だった。
極端なシューキュとカーホイドを除く群島列島タイワに所属する島では、信仰がバラバラで色々で多種多様。その為に、季節は固定ではなく春夏秋冬は巡る。春を終えれば夏が来る。冒険の際は水分に気をつけましょうと発足されたばかりの冒険者ギルドから注意喚起が出る頃だった。
「あれは……モンスターですかね~」
サヤマ城下街の門にて、外を警戒する青年衛兵が真っ青に染まった空を見上げながら言った。
本日は雲ひとつ無い快晴で、夏らしい雰囲気。そんな空に影が見えたのだ。鳥とも思えたが、姿が少し違う。
「ふ~む、モンスターじゃな~」
青年衛兵の隣で、老衛兵が同じく目をこらす。老眼ながら捉えたその姿は、はっきりと鳥ではないことを認めた。
二人が眺める先には、白い姿。それは見る見ると大きくなっていく。もちろん巨大化している訳ではない。近いと思っていた存在は、実は遠くにあり、青空のせいで遠近感が狂っていたのだ。
「え……」
「は……」
それが何なのか、理解した瞬間に二人はマヌケな声を出した。そして、理解した自分の目を疑う。いよいよ退屈すぎて幻覚でも見始めたのか、と思ったが現実は待ってくれない。
遠くの空からやって来たと思ったら、すでに真上に居た。そして、それは門の前へ音も無く着地したのだ。
「こんにちは。え~っと、入ってもいいですか?」
白きモンスター……ホワイトドラゴンは、丁寧にも挨拶をした上で、街に入る許可を取ってきた。
「え?」
ここで聞き返した青年は、モンスターが共通語を喋る訳がない、という前提のもとで生きてきた為に、ホワイトドラゴンが何を言っているのか理解できなかった。そんな青年が何も言えなくなったのに対して、老衛兵は何とか返事をすることが出来た。
「しょ、少々待ってくだされ、ホワイトドラゴン殿。せ、責任者を呼んでくるので」
あわあわと今にも倒れそうな老衛兵は一目散に門の内側に入ると、休憩中の衛兵に声をかける。声にならない声でもって、女王を呼んでこい、と何とか言い切った。そして、自分はまたおっかなびっくりと門の前に戻ってきた。
「すぐに、その、あ~……お待ちしていただいても、よろしいでしょうか?」
「ボクはそんなに偉くないので。リルナって知ってる?」
「お、お嬢ちゃん? ということは召喚されるドラゴンとは貴殿のことになるのですか?」
「不本意だけど」
そういうと、ホワイトドラゴン……リーン・シーロイド・スカイワーカーはにっこりと笑った。しかし、人間には口を開けたようにしか見えず、青年衛兵はドラゴンの牙を見て気絶しそうになり、その場にヘロヘロと座った。
「だいじょぶ?」
「だ、だいじょうぶじゃないです」
「いや、ほんと。ボクはまだ子供だから、そんなに偉いものじゃないよ?」
「しかし、龍ではないですか」
青年衛兵が腰砕けになるのは、当たり前だった。龍種との会話といえば、英雄譚に残されているぐらいに貴重な体験となる。中にはドラゴンによって叡智を与えられ英雄となった者の話も残されている程だ。そんなドラゴンがほいほいと空からやってきた挨拶するなんて、信じられない事態である。
冒険者や豪胆なものならいざ知らず、衛兵には天地がひっくり返るほどの出来事だった。
「おはよう。大慌てだったけど、何かあったの?」
と、今度は門の通用口からひょっこりと顔を出した元英雄。青年衛兵が、ぎゃぁ! と叫んだのは仕方がないかもしれない。
「あ、ドラゴンだ。へ~、もしかしてリルナっちの?」
そんな青年に失礼なヤツだな~、と声をかけつつもサヤマ女王はリーンに挨拶した。
「うんうん。街に入ってもいい?」
「いいよいいよ。別に許可なく入っても誰も怒らなかったんじゃない? 律儀だねぇ」
「人間から見ればモンスターでしょ? 討伐されても困るし」
「お、討伐していいの?」
女王の冗談に、リーンはくわっと大口を開けて拒否した。
「あっはっはっは! とりあえず、どうぞ、ついでにリルナちゃん所に案内するよ」
「ありがとうございます、女王陛下」
「サヤマっちでいいよ」
「じゃ、ありがとサヤマっち」
のっしのっしと歩くリーンの背中をサヤマ女王はケラケラと笑いながらバシバシと叩いた。その勢いたるや、並の冒険者でも吹き飛びそうな勢いだったが、リーンは何でもないように目を細めて笑う。
嵐のような理不尽が過ぎ去った後。
「今日は休みにしよう」
「はい」
朝一番の仕事にドっと疲れた老衛兵と青年衛兵は、すぐさま休暇を取るのだった。




