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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
幕間劇

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幕間劇 ~みんなでお風呂~

 時間は少しさかのぼり――

 リルナたちが真奈と玲奈と桜花を伴って集落に戻った翌日の夕方。オレンジがかる世界の中で、サクラは少し太めの木の枝を構えた。

 そんなサクラに相対するのは、真剣を構える薫風真奈。彼女は肩で息をしており、手に持つ剣も体力の限界からか切っ先が震えていた。今にも剣を杖にしてしまいそうな程に消耗しており、汗にまみれた額には綺麗な黒髪が張り付いていた。


「大丈夫か、まだいけるか?」

「ま……まだ、まだ」


 ぜぇぜぇはぁはぁと息をする真奈は、口内に溜まった唾液を嚥下する。その一呼吸でさえも酸素が足りなくなって喘ぐように息を吸った。

 対してサクラは、息は愚か汗の一滴すら浮かんでいない。同じ戦闘時間を過ごしており、明らかに劣った武器を握っているというのに、サクラは余裕の表情で真奈を見ていた。正眼に構えていた木の枝を右腰へと移動させる。丁度、彼女の本来の武器である倭刀と同じ位置だった。


「これで最後や。よう見ときや」

「は……は、はい……!」


 真奈は約束通りサクラから訓練を受けていた。といっても、サクラは指導者ではない。よって、実戦形式で経験を積ませることにした。どこの流派にも所属しておらず、ましてや正式に訓練を受けてこなかったサクラの剣技は独特なものであり、習得できるものではない。

 だが、その強さは本物であり、真奈としては貴重な体験だった。

「行くで――流抜刀四十八手、四乃太刀『後櫓うしろやぐら


 世界への宣言。魔法を使うかのように呟いたサクラの動きは、果たして真奈の動体視力を超える。襲ってきた衝撃は前からではなく後ろから。高速で真奈の背後へと移動したサクラは、真奈の背中に一太刀あびせたのだった。


「なっ……ぐぅ」


 驚きと衝撃で真奈はバッタリと倒れる。そこで限界が来たらしく、ありがとうございました、と呟きながら意識を手放した。


「うむ」


 サクラも頭を下げる。それから真奈の襟首を持ってズリズリと引きずった。

 移動先は集落にあるお風呂場だった。森の中に湖があるように、集落の位置は水脈の上にある。掘ればどこでも井戸にできるといった感じだった。

 よって、水は自由に使えるとあってか集落には大きなお風呂が作ってあった。といっても、簡易的な布で目隠ししてある外の風呂。洗い場も無いので地面の上で体を洗わなくてはならない、ワイルドなお風呂だった。

 サクラが真奈を引っ張ってくると、他のパーティメンバーも来ていた。筋肉断裂から程よく復活した筋肉痛状態のリルナはメロディに手伝ってもらいながら服を脱いでいる。他の面々はすでに全裸なのだが、汗だくの真奈の姿を見て驚く玲奈と桜花だった。


「うわ、真奈ちゃん大変だ」

「汗だくネ」


 そんな二人に真奈を任せてサクラは着ていた服と装備を脱ぐ。


「サクラ、手伝うのじゃ」

「あ~う~」


 動くたびに全身を襲う筋肉痛に顔をしかめるリルナ。サクラは肩をすくめてから、リルナの体をひょいと持ち上げる。後ろから両足を抱える持ち方で。


「ひっ、ちょ、ちょっと待ってサクラさん!? 恥ずかしい恥ずかしいっ!」

「ふひひひひ」


 少女らしからぬエロ爺みたいな笑い方をしたサクラはそのまま浴槽までリルナを運ぶ。メロディはケラケラと笑いながら後に続いた。


「よっしゃメロディ。かけ湯や、かけ湯」

「承ったのじゃ」


 木で作られた桶に湯船からお湯をくみ上げると、メロディは抱きかかえられたリルナにお湯をかける。


「よちよち、いい子でちゅね~。くふふ、良い身分じゃのぅ、リルナ」

「……いっそ湯船に投げ捨ててくれたほうがマシだよぅ!」


 全身の痛さで暴れることすら出来ないリルナは、文字通りの痴態を晒し続ける。その後、メロディとサクラもお湯で簡易的な汚れを落とすと浴槽にゆっくりと入った。

 ゆらりと波紋が広がり湯気が舞う。そろそろと日が落ちる頃合であり、涼しい空気とあいまって、三人はなんとも言えない声をあげた。


「あぁ~」「ふぅ~」「あふぅ~」


 そんなところへ意識を取り戻した真奈と玲奈、桜花がやってくる。といっても、真奈の意識はドロドロだった。疲労がピークのままで意識が止まってしまったらしい。


「やりすぎじゃないの、サクラ?」

「いやいや、本人の希望やで」


 リルナの言葉に責任は無い、とサクラ。

 真奈を介抱するように、玲奈と桜花は真奈にお湯をかける。ようやく汗を流せたからか、少しばかり真奈の意識は戻ったようだ。


「気持ちいい。いっそ、清々しい」


 そんなことを呟く真奈を立たせて、玲奈と桜花はそのまま真奈を湯船に突き落とした。


「あっぷ、あ、は、うわっぷ!?」


 おぼれる真奈を見て二人はケラケラと笑い、かけ湯してから浴槽へと入った。

 蛮族三人組もお風呂の気持ち良さは人間種と共通なのか、リルナたちと同じような気持ちいい声をあげる。


「ふむ……」


 そんな三人をメロディはじ~っと見つめた。


「どうしたの? なになに?」


 視線を感じてか桜花はメロディに問う。その質問に答えるように、メロディは人差し指を立てて手を伸ばした。行き先は真奈の胸。むにっと、指先が柔らかく白い肌に埋まった。


「な、なに?」

「お主ら、何歳なのじゃ?」

「私達は全員十二歳ネ」

「ほほぅ……」


 メロディの視線は真奈から桜花、そして玲奈へと行き着く。そのほとんど真っ平な胸を見て、メロディは鼻で笑った。


「ハン。妾の勝ちじゃな」

「お前もぺったんこネ!」


 意味を理解した玲奈はメロディのほっぺたを掴んだ。凄いのはその技術だ。お風呂の中だというのに、抵抗をものともせずに移動してみせた。盗賊ならではの技だった。


「いひゃいいひゃい! ……わ、妾はまだ十歳じゃ! 二歳の差は大きい! いだー!」


 玲奈はメロディの膨らみゼロの胸をがっしりと掴んだ。


「私はダークドワーフ。だから、小さくても不思議じゃないし、お前がババアになってもこの若さネ! いぎゃー!」


 お返しとばかりにメロディが玲奈の胸を掴んだ。不毛な争いだった。


「私達は一緒ぐらいだね~」

「この話に乗っかるんだ、桜花ちゃん……」


 年齢にしてはチビな真奈と桜花。ダークエルフという種族を考えて、桜花は少し童顔と思われた。顔立ちや身長が幼いのならば、胸の成長もお察しの通りである。メロディや玲奈よりは大きいが、


『貧』という文字がくる大きさではあった。

「ウチらは標準やろ」

「ですね」


 サクラと真奈は、リルナより大きい。きっちりと丸みを帯びたその胸は、触り心地が良さそうだった。とはいっても、二人の胸は慎ましい部類に入る。見る者が見れば、それは標準以下という結論を正しく付けることが出来るだろう。


「お前ら、平伏すがいい」

「ふふ、そうですわね」


 胸の大きさが人間の地位を決めるのであれば、この風呂場の勝利者はサクラと真奈である。しかし、リリアーナという『巨』の称号を持ちし最終到達者を知っている分、リルナとしては小さく見えるのだった。

 そんなこんなで、キャッキャウフフと騒がしいお風呂タイム。賑やかな少女たちの声は集落中に響き渡り、血気盛んな狩人さんの心へダイレクトアタックを仕掛けた夜なのでした。


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