~ライバル・パーティ・アライバル~ 10
「うへぇ~」
と、女の子らしくない声をあげて、リルナはぐったりと桜花の背中に持たれかかった。おんぶされている状態なのだが、手はだらりと肩から垂らしているだけ。足もまったく力が入っていない様子で、いまにもブーツが脱げてしまいそうだった。
「これに負けたとは思いたくない事実だわ」
そんなリルナを見て真奈はため息を吐いた。すでに契約は完了しているので、薫風真奈はリルナの召喚獣となっていた。ついでに玲奈と桜花も契約を交わし、いつでも召喚できるようになっている。
「勝ちは勝ちだもんね」
表情筋すら筋肉痛なのか、上手く笑えないままにあっはっは、と笑うリルナ。真奈はムっと頬を膨らますと、リルナの足をつっつく。
「ひぎゃぁ!」
「ふふ。この程度で悲鳴をあげるとは冒険者として情けないわですわね」
「いや、やめて、真奈ちゃん、ごめんな、さ、ひぎぃ!」
「もう真奈ちゃん。やめてあげなよ~」
桜花の注意を受けてか、それともすっかりと復讐心と加虐心を満たされたのか、真奈は貴族にあるまじき、は~い、という返事をしてから先頭を歩く玲奈とメロディに並んだ。
勝負が決したと共に倒れたリルナは、全身に筋肉を過剰に動かしたオーバーワーク状態で倒れた。二日間ほどはまともに動くことも出来ないだろう。
本来ならば、使えない技だった。その昔、『召喚士くずれ』と呼ばれる人たちは身体制御呪文マキナを使いこなし、自分の体を操った剣士や武道士が居た。彼らは日々、その体を使いこなし、決して力量以上の力は使用しなかった。
どうしてか? それはリルナを見れば一目瞭然だ。しばらくマトモに動けなくなってしまうから。立つことさえ出来なくなる。食事さえも取れなくなる。
冒険者としては、致命的だ。例え、強敵を倒したところで魔力回復までは何も出来なくなってしまう。通りすがりの子供にさえ生殺与奪の権利を奪われてしまうのだ。
リルナのように無茶をしてまでもマキナを使用する者は、いなかった。
「それにしても、ギリギリやったな。あんまり無茶したらアカンで」
「うぅ~、だって~。わたしだって強くなりたいもん。召喚士の強さは、召喚獣の数なんだもん」
隣に並んだサクラの言葉に、リルナは駄々をこねるように言う。
「そうなんだ?」
桜花が素直に聞いたので、リルナは頷く。
「わたしのパパはすっごい召喚士だったの。今は行方不明になっちゃって、探してるんだけど。パパは色々な召喚獣を仲間にしてて――」
「あの、申し訳ないんだけど」
と、先を歩いていた真奈が速度を落として戻ってきた。どうにも言い分があるらしく、リルナの言葉を遮る。
「召喚『獣』と呼ばれるのは、どうにかならないのですか?」
真奈の不満点。ダークニゲンながらも貴族で美しい彼女だが、『獣』と呼ばれるには美意識やら尊厳が許さないのだろう。
「昔はモンスターと契約することが多かったらしくて……でも、真奈ちゃんだけじゃなくて、大精霊を召喚獣っていうのは、変だよね」
そうやな~、とサクラも納得する。じゃぁどうしよう、と盛り上がっていると先を歩いていたメロディと玲奈も合流した。
「新しい呼び方を考えればいいネ。召喚士はリルナしかいないんでしょ? 好きに呼んでも怒られないよネ」
誰に怒られるんだろう、とリルナは苦笑しつつもその案に賛成した。
「えっと、召喚人? なんかシックリこないね」
そもそも人じゃないのが多いし、とリルナは首を傾げた。
「ふむ……召喚を受けるから、被召喚者というのはどうや?」
サクラの意見。なんか契約する時の書類みたい、と五人の少女から否定されてションボリとお爺さんは後ろへ下がった。
「召喚される……呼ばれる者……そして、少女か」
メロディは良い案が思いついたらしく右手をあげてアピールした。
「はい、メロディちゃん」
桜花が促し、みんなは耳を傾けた。
「呼ばれる、つまりコールされる女の子、という意味でコールガールでどうじゃろうか!」
あ、いいかも。
と賛同したのはリルナと桜花だった。
対して、
「却下です!」
「却下ネ!」
と全力で否定したのは真奈と玲奈だった。
「くくくく……ヒヒヒ、はっはははっはっは」
で、サクラは後ろでお腹を抱えて笑うのだった。
「あれ、何かダメじゃったか?」
メロディは玲奈と真奈に聞くが、二人は頬を染めるばかりで何も話さない。という訳で、メロディは振り返ってサクラに聞いた。
「コールガールは娼婦の昔の言い方やな。呼ばれてやってくる女、という意味では一緒なんやけど……ふひひははは、そうなっては召喚術がいかがわしい術に見えてくるなぁ」
どうやらツボに入ってしまったらしく、サクラはゲラゲラと笑う。
「なるほど、娼婦か。もういっそ娼婦を名乗ってはどうじゃ――」
メロディの暴言に真奈のチョップが炸裂した。どういう訳か、ヴァルキリーシリーズのオートガードの効果が発動せず、お姫様の頭にお嬢様の一撃が決まる。マジックアイテムにも空気を読む力があるようだ。
「ま、いい案が浮かぶまで保留だねっ。真奈ちゃん、考えといて」
「了解しましたわ」
はぁ、とため息を漏らしたところで集落が見えてきた。丁度出迎えるようにして立っていた村人に警戒心を抱かさないために、リルナたちは全員で大きく手を振りながら帰宅の挨拶と敵じゃないアピールをするのだった。




