~ライバル・パーティ・アライバル~ 6
お昼ごはんを食べ終わった一同は、高岩の上で簡易地図を広げた。
「次どこ行く?」
サクラの言葉にリルナとメロディは、う~む、と地図を見渡した。ちなみに現在地である岩の周辺はサクラが探索済み。確かに焚き火跡が有ったが、それ以上の情報は得られなかった。
「ふ~む、相手は蛮族と言えども生き物じゃな」
「うん。それが何か?」
なにを当たり前のことを、とリルナはお姫様を見た。その視線にちょっぴりの悪意を感じたので、メロディはリルナの頬をむにぃっとつまんだ。
「いひゃいいひゃい」
「生き物であるならば、妾たちと同じように昼食をとっている可能性が高い。ということは、水分が必要じゃ」
「なるほど。リルナがおると意識が薄れるな」
そういうことじゃ、とメロディはリルナの頬から指を離した。あいたた、とリルナは頬をさする。
「どういうこと?」
「水や。生きとるものは、動物であろうと人間であろうと、たとえ蛮族やっても水は飲まな死んでしまう」
例外はあるがな、とサクラは地図に視線を落とした。森の中心地にある湖だ。
「今、水辺に居る可能性が高い。どこに居るかは……運次第じゃな」
「なるほどっ。じゃ、移動しよ~」
リルナとメロディは、おー、と右手をあげる。サクラは頷き、地図と岩から見える景色とをイメージの中で合わせた。
現在地は森の中でも北側にいる。湖は森の中心地に位置しているので、三人は周囲警戒をしながら南下した。今度の移動は痕跡を探すのではなく、周囲の警戒だけ。しかも、相手の休憩を狙う形なので、できるだけ急ぎつつも静かに移動するというもの。
「しかし、便利やのう。その鎧」
先頭を行くサクラは感心するようにメロディに伝える。金属鎧ながら、移動に対してはほとんど音がしない、という恐ろしい性能だった。
「妾からすれば、サクラの歩行技術が恐ろしいがのぅ」
サクラのサムライの鎧は軽装備に分類される。それでも鎧は鎧であり、多少なりとも動きに影響するのだが、サクラの歩は一切として音を発生させない。それどころか、森の中なのに体の動きがブレていなかった。いつでも倭刀を抜けるという体制でもある。
「……そんなに凄いの?」
そんな中、後ろから付いてくるリルナはさっぱりと分からない、とばかりに肩をすくめた。もっとも、後衛には必要の無い技術だ。その凄さは盗賊技術じゃないのか、と首を傾げるのだった。
サクラが歩いた後をメロディは正確に追従し、リルナができるだけ真似をする。そうすることで無駄な物音をたてずに移動できた。
やがて地図に示された湖に到着する。湖と評するには、やはり小さい。しかし、池や水溜りと言い表すには少しばかり大きい。
「わぁ……綺麗」
そんな湖を見てリルナは思わず感嘆の声を漏らした。
まるで森の中の窪地が、そのまま水に浸かってしまったかのような風景。さすがに木々は少ないが、それでも湖の中から幾つかの木が生えており、その中心地に向かって少なくなっていく。水は透明であり、キラキラと太陽の光を反射している。小魚が泳いでいるのが悠々と見て取れた。
「気配はあるか?」
「分からぬ……しかし、美しい湖じゃの」
蛮族の行方を捜さないといけない。しかし、リルナはおろかメロディも少しばかり湖の風景に目を奪われた。
「まぁ、気持ちは分かるけど。しっかりしてや」
はーい、と頷くものの、二人はすっかりと観光モード。サクラは肩をすくめて、一人で周囲を探索することにした。
二人から余り離れずに蛮族の痕跡を探す。しかし、足跡や食事の後、焚き火のような炭のあとは周囲に見つからなかった。
「ほれほれ、移動するで。もう見慣れたやろ」
「サクラは淡白だなぁ。こんな綺麗な風景なのにっ」
「そうじゃそうじゃ。いくら爺でも心まで貧しくなってはレナンシュが泣くぞ」
「そうは言うてもなぁ……ウチはずっと旅してきたから、もっと凄い風景を見てきてるし」
それこそ心が貧しい証拠だ、とか、他の風景と比べるとは何事じゃ、なんて文句を言ったり受けたりしながら三人は移動する。
ひとまず湖を東方角へまわることにした。湖面に風はそよぐと小さな波が立つ。それにキラキラと太陽の光を反射する風景を見ながらリルナたちは移動した。
「ほんと綺麗だねっ」
「うむ。画家に情報として売れそうなくらいじゃな」
「いやいや、ええ加減にせえよ――」
注意散漫になったリルナとメロディに小言を漏らそうとしたサクラが口を閉ざす。瞬時に戦闘態勢を取った。
腰を落とし、腰の倭刀に手をそえる。その静かな動きにリルナとメロディは息に詰まる。だが、それも一瞬。メロディはサクラより少し後ろでバスタードソードを引き抜いた。身長ほどに長い刀身が一瞬、太陽の光を反射した。
リルナは下がる。後衛として適切な距離を取ると少しばかり上を見た。木々の間から太陽の光が入ってくる。右側には湖で、左側には広大な森が広がっている。
前方は少しばかり背の高い藪が広がっていた。向こう側の様子は分からない。草も背が高く、特別に植物が育っているようだった。
「――、――――」
そんな向こう側から会話が聞こえてくる。その声質からして女性のようだった。男性特有の低い声ではなく、女性や子供が持つ高い声色。聞こえてきた声は三種類。
ガサガサと藪や草が揺れる。
サクラとメロディが警戒するように息を飲んだ。リルナも腰の倭刀を確認し、いつでも償還術を使えるようにと、身体制御呪文『マキナ』を発動させた。
リルナの体がビシっと固定される。それと合わせるようにして、藪の中から三人の姿が現れた。
藪の中を通ってきたせいで、三人の体は少し汚れていた。枯れた葉などが体や髪に付いてくる。それらを払おうとしたところで、先頭の一人がリルナたちに気づいた。
同時に、リルナは口を開いた。
「なっ!? 冒険者! せ、戦闘準備じゃなくて、開始かいし!」
「戦闘開始!」
目論見通り、蛮族に遭遇したリルナたちは戦闘を開始するのだった。




