~ライバル・パーティ・アライバル~ 5
森の地図は、そもそも存在しなかった。当たり前といえば当たり前なので、集落の狩人たちに情報を聞き込み、サクラが簡易的な地図を作成する。
おおよそは丸い形の森に、数軒の小屋が点在する。これは、夜遅くなった時の備えであり、休憩場所として狩人たちが使用する物らしい。その場所を地図に加えたあと、蛮族の目撃情報を聞いていく。
「ここと、ここらへんだったな」
「俺はこっちで見たぞ」
と、蛮族を見かけたり遭遇したりした場所を記してもらった。
「あと、ここらへんに水が湧き出るそこそこ大きい池があるよ。湖っていうやつもいるけど、俺は池に見えるな。そこでも蛮族を見たよ」
森の中心地にある池と、そこから川になって村へと繋がる筋を書き記し、森の簡易地図は完成した。
狩人たちに見てもらうと、だいたいそんなもんだ、と間違いは無さそうだった。おおよそ、という判断基準ではあるものの、それを頼りにリルナたちは森に入ることにした。
「深い森だね」
リルナは呟きながら上を見上げる。
木々の背は高く、太陽の光は届くものの暗い印象があった。しかし、鬱蒼としたりジメジメした感じはなく、心地よい雰囲気に包まれていた。
「最初は一番近い目撃地点に行ってみよか」
森は集落の東側に広がっている。森に入った現在地から北側へサクラを先頭にして移動していく。
周囲の警戒と共に足元の悪さもあってか、移動には少しばかり時間がかかった。森は静かではあるのだが、そこそこ賑やかでもある。風が吹けば木々の葉がこすれる音がするし、虫の声や動物の鳴き声も響いてくる。
さすがに人の声は聞こえてこないが、穏やかな森と言えた。
「あったぞ、小屋じゃ」
簡易地図に記した通り、おおよその場所に休憩小屋があるのをメロディがみつけた。慣れない足場と周囲警戒していた披露をとる為に小屋で一息、休憩していく。
「ふぅ、狩人って大変だね」
「森は全て把握しておるのじゃろう。ここでの戦いとなると、妾たちは負けてしまうかもしれんのぅ」
「そっか。罠にかかっちゃうよね」
リルナとメロディの仮想狩人対決を聞きながらサクラは地図を確認する。目撃情報はこの小屋の近くで、もう少し北へ移動したところ。残念ながら目印等は無いそうだ。
「ほな行こか~」
「は~い」
「うむ」
小休止で足の疲れを取ったリルナたちは、北へと移動する。今度は周囲警戒に加えて、蛮族の痕跡を探すように移動していく。さっきよりも更に移動速度は落ち、ジリジリとした速度で北へと移動していった。
「地図やと、だいたいこの辺やな」
森の一角。
ほとんど変化の無い風景と立ち並ぶ木々。足元には草に混じってコケが生えており、それが木の幹にまで及んでいた。
そんな中でリルナは蛮族の痕跡を探した。コケは周囲一体を覆うように生えている。試しに自分の歩いた後を見れば、少しばかりへっこみ、足跡らしきものが付くのを確認。蛮族の足跡が無いか、念入りに探索をした。
「う~ん……ダメだ、何も見つからない。メロディは~?」
「ダメじゃ~。サクラはどうじゃ~?」
「何もあらへんわ~」
それぞれ離れた地点でお手上げのバンザイをする。三人は合流してから地図を確認した。
「そもそもだいたいの位置だし、あんまり当てになんないよねっ」
「そうじゃの。次はどこへ行く?」
「目印のあるところがええな」
現在地からおよそ北東の方角に大きな岩が転がっている地点があるらしい。そこで蛮族が残したと思われる焚き火跡があったそうだ。直接も目撃情報ではないにしても、分かりやすい目印がある、ということでそちらへと移動することにした。
警戒移動しながら目印の岩に辿り着く。いったいどこからどうやって転がってきたのか、そこには家よりも遥かに大きな岩が鎮座していた。表面は元々白かったのだろうが、すっかりとコケに覆われており、ところどころに岩肌がすこしだけ目立っていた。
「ほほう、立派な岩じゃのぅ」
メロディはさっそくとばかり昇り始める。リルナは追いかけるように昇り始め、それを下からサクラが眺めた。
「絶景やな」
なにが絶景かはサクラは語らず、周囲を見渡す。岩のせいか、周囲には木は生えていない。それでも、数歩も歩けば木々にぶつかる程度の空間だった。
「これか」
そんな岩のすぐ横に黒い炭の跡があった。焚き火をしたあとに残るもので、周囲のコケが焦げている。
「焚き火跡があったで。そっちは何かあったか~?」
岩の上に向かってサクラは声をあげる。返ってきたのはリルナの声だった。
「見晴らしいいよ~」
岩の頂上……尖った場所であり先端とも言える場所にはメロディ。その少し下の平らな部分でリルナは周囲を見渡した。
といっても、木々の葉っぱより少し高いだけの視線であり、地上を見下ろせない。それでも雄大な森を見渡せ、涼やかな風を受けてマントがはためく様は気分の良いものであった。
先端に片足で立つお姫様はフラフラとバランスを取りながら、景色を見渡す。まるで民芸品の木工玩具みたいな光景だったが、装備品が複雑すぎて再現ができないだろう。
「ふむ、リルナ」
「何か見つかった、メロディ?」
「お昼にしようではないか」
お姫様の言葉に、かっくんと肩を落としたが、それでもお腹がすいてきたのはリルナも一緒。周囲探索の前に、サクラを呼んで岩の上でお昼ごはんを食べることにするのだった。




