~ライバル・パーティ・アライバル~ 4
翌朝、ベッドは無いながらも天井と壁のある場所で眠れたという心地よさのせいか、少しばかりリルナは寝坊した。といっても、太陽が顔を覗かせるか、出してしまうか程度。ぐしぐしと目をこすりながら、ヤット夫妻に挨拶する。
「ふあぁ~ぁ、おはようございます」
「はい、おはよう」
「おはよう、リルナちゃん。朝ごはん、できてますよ」
は~い、と返事をしてから外に顔を洗いに出た。水瓶に溜められた水で顔を洗って、すっかりと眠気を退治すると、中へと戻りテーブルにつく。
サクラとメロディはすでに座っており、リルナを待っていた。
「おはよう」
「おはようさん」
「うむ、おはようなのじゃ」
テーブルは普段、夫婦二人が使うだけに三人の少女が増えれば窮屈になってしまっていた。それでも、リルナたちの食事はお皿に丁寧に盛られた。
野菜たっぷりのサラダにベーコンエッグ。加えてミルクと焼きたてで湯気があがっているパンだ。そのパンにつけるジャムとバターまで用意してあり、リルナは瞳を輝かせた。
「ステキっ! まるで一流宿屋の朝食みたい!」
「あらあら、そんなに褒めてもらっても困りますよ」
ヤット婦人が照れたように頬をおさえる。名前すら無い集落といえど、まるで貴族みたいな振る舞いと気品のようなものをリルナは感じた。
「冷めないうちに食べて食べて」
と、うながされて、いただきます、と三人は各々手を伸ばす。野菜のシャキシャキ感や出来立てパンのっふっくら感と、塩気のきいたベーコンエッグの美味しさを充分に楽しめる朝食となり、少しばかり賑やかな食卓にヤット夫妻は終始笑顔だった。
「ごちそうさまでしたっ」
最後にミルクをこくこくっと飲み干して、リルナとメロディは食事を終える。サクラはまだサラダを食べていた。
「良ければいつまででも居ていいのよ」
「いえいえ、そういう訳には……」
「油断していると永住してしまいそうじゃ」
あはは、と談笑していると、ヤットさんが思い出したように手を打った。
「そうだ思い出した。三人は冒険者なんだろ? ちょっとばかりお願いを聞いてくれんか?」
「お願い?」
リルナはメロディとサクラの顔を見る。二人とも、構わない、と目で返事をした。
「なんですか?」
「実は、最近になって森に蛮族が居るみたいでな。悪さをしている訳ではないが、急に襲われても困るし。この集落は森と共存しているでの、その森に入れない、危険が増したとなっては生きていけん。どうにか追っ払ってくれんか?」
「分かりましたっ……と言いたいんだけど、どんな蛮族?」
ひとえに蛮族といっても、色々といる。コボルトやゴブリンといった種族ならばリルナたちでも充分に対処できるが、ミノタウロスやヴァンパイアといった上級な蛮族となると、手に負えなくなる。
サクラは大丈夫として、メロディも防具のお陰で死にはしないだろうが、リルナは確実に死が待っている。
情報は大事だ。盗賊ギルドに言わせると、命よりも重い時がある、らしい。
「俺はハッキリと見たことがなくて、チラっとだけだったんだが……白い肌っていうんかな。青白い人間みたいだった。あと、バッタリと出くわした奴が言うには三人組で、襲ってこなかったらしい。知っているのはこれくらいだ」
青白い肌、という情報に三人は顔を合わせた。
「だ、ダークほにゃらら、ってヤツだよね」
「なんやその、ほにゃらら、って」
サクラのツッコミにリルナが唇を尖らせる。神代文字を覚えるので精一杯だった学校時代。座学の知識が、ちょこっと冒険者として欠けているリルナだった。
「ダークニゲン、ダークエルフ、ダークドワーフじゃな。蛮族に味方した人間種、と言われておるぞ。もっとも、ヴァンパイアも肌が白いらしいが」
貴族主義の吸血鬼は、森にはいないだろう、とメロディが知識を披露する。なるほど、とリルナとヤット夫妻は頷いた。
「エルフとドワーフは分かるけど、ニゲンって何?」
「ダークニンゲンって言い難いやろ? そやから、いつの間にかンが無くなってダークニゲンになったんや。ウチが若い頃からニゲンやったで」
そっか~とリルナは頷いた。
「どうでしょう? 引き受けてもらえますか?」
ヤットさんの言葉に、リルナはサクラを見る。戦闘的な判断はサクラに任せるのが一番であり、的確な判断をしてくれるだろう。
「ウチらで対処できるんやったらするで。もし、ウチらで敵わんねやったら冒険者ギルドっていうところに報告しとくわ。とりあえずは森の情報と目撃証言を集めてから偵察に出よか」
それでええか、とサクラの質問にリルナとメロディは頷く。
「よろしくお願いします」
最後にヤットさんに返事を伝えて、行動開始となった。




