~ライバル・パーティ・アライバル~ 3
平原をサカ王国の方角へ歩いていくこと一日。出会うのは動物ばかりで、戦闘を行うこともなかった。空には鳥系のモンスターも目撃したのだが、襲ってくることはなく通り過ぎていった。きっと満腹だったのだろう。
、あた建物やそういった類の物も何一つとしてなかった。世界は到って平和であり、冒険者の出番はどこにも無かった。
「あ、見てみて。集落がある」
そんな中、森の入り口辺りから立ち上る煙を見つけたリルナは良く目をこらしてみる。そこには小さいながらも人が住んでいる集落があった。
「地図にもあるけど……名前は書いてあらへんわ」
サクラが広げた地図に『集落』とだけ共通語で書かれている。もしかしたら、名前自体が付いていない集まりなのかもしれない。
「どうするのじゃ?」
メロディの言葉に三人は顔を見合わせて、空のご機嫌をうかがった。雨は降りそうにない。ヒューゴ国は一年を通して比較的天候に恵まれている国だ。三人は様子を見たのは、日の傾き具合である。
「もうすぐ夕方になりそうだし、お世話になる?」
「そうやな」
「では、進路変更じゃな」
真っ直ぐ歩いてきた方角から少しばかり角度を変えて集落へと近づく。リルナほど目が良くないサクラとメロディはようやく見えてきたらしく、ほうほう、と感心した。召喚士というより盗賊のほうが向いているんじゃないか、なんて言葉をリルナに送りながら集落へと辿り着く。
高い壁などはなく、とりあえずの境界が分かる程度の柵。人間や蛮族ではなく動物避けといった感じの柵に囲まれた集落だった。
森と隣接しているだけに家は全て木造で、煙突のある家から煙がぷかりと浮かんでいる。おだやかな雰囲気が漂っている集落だった。
「あ、こんにちはっ」
柵を越えたところで集落に住むおばあさんと出会う。リルナたちは挨拶すると、おばあさんは笑顔で迎え入れてくれた。
「これはこれは珍しい。こんなところに冒険者さんが来るなんてねぇ。仕事かい?」
「いや、妾たちはちょっとした冒険中じゃ。ここは偶然見つけたのでな。宿は無いじゃろうか?」
「すまないねぇ、お嬢ちゃん。お客さんなんて滅多に来ないから、宿屋は無いねぇ。ヤットさん家に行くと良いよ」
ヤットさん? と三人は聞き返すとおばあさんはゆっくりと後ろを振り向く。その先には少しだけ大きな家が建っていた。
「あの家さ。集落のまとめ役で、大きな家だからきっと泊めてくれるよ」
「そうなんだ。ありがと、おばあさんっ」
「ふふふ、ごゆっくり」
おばあさんに手を振って分かれた後、ヤットさんの家のドアをノックする。中から聞こえてきたのは女性の声。少し待つと初老にさしかかった女性がドアを開けて顔を覗かせた。
「あら、冒険者さん? なにか依頼したかしら?」
「いやいや、ウチらは通りすがりや。今晩、この集落で泊めてもらおうと思って来たんやけど、宿が無いって言われてな。で、ヤットさんの家に行けって言われたんや」
「まぁ、どうぞどうぞ。遠慮なく泊まっていってくださいな」
三人はお礼を言ってヤットさんの家に入る。
木造である家だが、天井は高く丸太でできた名残がそのまま残された家だった。暖炉があり、そこそこ石も疲れているのだが、やはり木が目立つ。そんな家の中には色々と動物の毛皮が飾られており、角と思われる立派な装飾品も飾られていた。
「ほえ~、すごい」
リルナの身長の半分はありそうな立派な角が壁から生えているのは、ちょっとした宝石にも匹敵する感動だ。メロディも大きな毛皮に目を奪われている。その価値は、冒険者なら容易に想像できた。獲物を傷つけることなく仕留めた技術も含めて。
「もうすぐ旦那も帰ってくると思うので。ゆっくりしていってくださいな」
ヤット婦人は自己紹介を済ませるとお茶を入れてくれた。夕飯もご馳走してくれる、ということなのでリルナとメロディも夕飯作りを手伝う。サクラは料理が苦手らしく、薪割りを請け負う。
そんな風に三人が集落生活を過ごしていると、旦那が帰ってきた。リルナが予想していた通りの狩人で、ヒゲをたっぷりと蓄えて初老の男性だった。村一番の狩りの名人らしく、そのお陰でまとめ役を押し付けられたそうだ。
「いやぁ、一気に娘が三人できたみたいだ。はっはっは」
と、ご機嫌にリルナたちを歓迎してくれた。
その日は、久しぶりにゆっくりとベッドで休めた三人だった。




