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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その10 ~シティアドベンチャー・王子様騒動譚~

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~シティアドベンチャー・王子様騒動譚~ 解決編3

 美術館で働いていた人の証言によると、そもそも地下の存在は知らなかったようだ。というのも、詳しく知っている人間はすでに逃亡した後だった。

 死亡者は唯一、推定犯人である男ひとり。その他に美術館に関わっていた人間は、いずれも雇われただけであって、事件には無関係なことが分かった。

 王子様をはじめ、誘拐された人間は、どうやら魔法で昏睡状態にされていたらしい。神官魔法によって解除されるも、相当高いレベルで魔法がかけられていたようで、神官長クラスがお城に呼び出されていた。


「う~ん……記憶が無い」


 髪をかき上げながらキザったらしく述べるエルフ王子ことスクアイラ・リュースは、質問したサヤマ女王にそう答えた。


「お前は馬鹿なのか、それとも記憶が消されたのかどっちだ?」

「自分が馬鹿ではないと証明するのは難しい。そして、記憶が消されたというのも証明することは不可能だ。なにせ、記憶が無いのだから」

「ごもっともな意見だな」


 女王は肩をすくめる。

 場所はお城の中でも会議などに使われる少し広めの部屋。その中で、サヤマ女王とスクアイラ王子と、そのお付のメイドさんたちが話し合っていた。正式な場ではない、ということを前提として、身分の差もない、平等な立場でふたりは話し合う。


「それで、この事件については君の父親に報告させてもらう。ウチにどんな罰が与えられるかは、お前次第だ」


 一国の王子が誘拐された。なんて、大っぴらにできる話ではない。だが、女王は平気な顔でそれを伝えた。下手をすれば領主の位が剥奪される可能性もある。というか、それが狙いだった。


「何も言うことは無いさ。この事件は僕の油断が招いたことだと思うよ。なにせ、この僕が拉致されたとあれば、相手が相当に優秀だったのだろう」


 ふぁっさ~、と再び髪をかき上げる王子様。後ろに控えるメイドさんたちの静かなる黄色い声が女王に届いたところで、彼女は肩をすくめた。


「ざんねん。平民に戻れると思ったんだけどなぁ」

「僕が怒りに震えて父に進言したところで、あなたの地位は動かないと思うが?」

「本当に?」

「えぇ。たとえカーホイドとヒューゴ国で戦争になろうとも、あなたの地位は磐石ですよ。戦争では最前線と思いますが」

「あぁ、そうか。そうなるか~。私ひとりで出撃だったらいいんだけど、絶対巻き込むよなぁ、一般人」


 でしょうねぇ~、と王子様は笑う。

 政治屋に殺された冒険者は、ひとりでは死ねないようだ。


「じゃ、適当に頼むわ王子様。なにかお詫びをするよ」

「それでは、マスクド・プリンセス君を僕にもらえないだろうか? いや、彼女が一冒険者なのは知っている。だが、あの若さであの強さはなかなかのものだ。是非とも僕の部屋に招待した――」

「なりません」


 と、どこから現れたのはメイド長がエルフ王子の襟首をつかむ。そして、そのままズリズリと引きずっていった。


「きゃー、王子~!」


 その後を王子様付きのメイドさん達が追い駆けていく。


「……いや、私も大反対だから助かったよ」


 会議室でひとり残された女王は笑った。


「それにしてもあいつ……もしかして正体に気づいていないんじゃないか……?」


 わっちゃわっちゃと騒ぎながら退城していったスクアイラ王子を苦笑しつつため息を吐いていると、件のマスクド・プリンセスとその仲間たちがやってきた。


「母上! リルナとサクラを呼んできたぞ」

「うむ、ご苦労。ところで王子と会わなかったか?」

「ん? 会っていないが?」


 ならいいや、と女王は椅子に座るようにと伝える。リルナ、メロディ、眠そうなサクラと見たあとで、女王はコホンと咳払いした。


「あ~、我が領地の、我が国の重大な客人に甚大なる被害が出るところだった。それを未然に防いだということで、そなたらに褒美をやろう。さぁ、この宝箱を開けるが良い!」


 ビシィ、と女王は足元を指差した。そこには絢爛豪華な装飾が施された真っ赤な宝箱。観るからに凄い物が入っていますよ、と言わんばかりの存在感だった。


「これ、絶対罠だよね……」

「そうやな。ミミックっちゅうモンスターのパターンや」

「なるほどのぅ。名誉を得ても油断するな、ということじゃな、母上!」


 と、なぜか怪しまれてしまった女王はキーと声をあげた。


「一度やってみたかったんだよ! いいから開けろよ、受け取れよ! お金だよお金! ひとり100ギル! 全部ガメル硬貨にするぞ、小娘どもがー!」

「ぎゃー、女王がキレた!」

「逃げるのじゃ、リルナ!」


 わーわーぎゃーぎゃー、と今度は少女たちが会議室から出て行く。残されたのはサクラだけで、きっちり宝箱を開けて中から合計300ギル入った袋を受け取った。


「ありがとー。これでまた色街で遊べるわ」

「冒険者としては正しいんだが、その体で言われると違和感しかないな」

「ええやんええやん。快楽は裏切らんで」

「嬢は裏切るぞ」

「しっとる。それもまたオツなもんや」


 三人分を懐に入れてしまうサクラに肩をすくめつつ、女王は苦笑した。

 結果はどうあれ、王子様誘拐事件は無事に解決した。

 しかし、大いなる謎は残ったまま。得にホワイトドラゴンが魔神と称したバケモノの正体や、その召喚方法、破壊された死体とツボといった不可解な謎が残っている。


「国王に報告だな」


 政治屋に殺されたならば、政治をしなければならない。サヤマ女王は報告書の内容を思い浮かべながら、自室に戻ろうとするが……やっぱり娘が気になるのでちょっぴり様子をうかがいにお城の中を移動するのだった。


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