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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その2 ~お使いクエスト~

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~お使いクエスト~ 4

 ブヒーモス。

 おじさんが告げた肉の名前がそれだった。


「そ、それってドラゴンじゃないですか!?」


 冒険者ならば誰でも知っているドラゴン。その中でも有名な黒い邪龍。時折、人間達に大損害をもたらすそのドラゴンは、すでに災害級とまで言われており、退治を断念した程の存在だ。

 そんなドラゴンの肉など、食べられるはずがない。

 リルナが叫んだのも無理はなかった。


「おっと、良く聞くんだお嬢ちゃん。ドラゴンの名前はベヒーモスだろ。オレが言ったのは『ブヒーモス』だ」

「ベ、じゃなくて、ブヒーモス……? ややこしい名前ね」

「そもそもドラゴンにはバハムートっていう立派な名前があるじゃねーか。二つも名前を持っているドラゴンが悪い」


 冒険者ではない肉屋の親父の認識では、ドラゴンの方が悪いらしい。その意見に賛同するようにハーベルクも頷いた。


「ブヒーモス。大型種のブタですね。食用に適しており、肉は柔らかく大変に美味。森に生息する。らしいです」


 ルルが森羅万象辞典で調べてくれたようだ。

 リルナが覗き込むと、ご丁寧に挿絵付き。しかし、絵では普通のブタなので大型種と言われてもイマイチ大きさが分からない。


「このブタを狩ってくればいいのね?」

「やるかい、お嬢ちゃん。そいつは狩人の中でも相当ランクの高い得物だ。もしここまで持ってきたのなら、オレが買い取ってさばいてやる。もちろん、無料で提供するぜ」

「その言葉、忘れないでねっ!」

「あぁ、店仕舞いは止めだ! 包丁を研いで待っててやらぁ!」


 がっははは、とおじさんは嬉しそうに笑い、ピシャリと禿げ上がった頭を叩く。


「よし、行くよルルちゃん! ハー君!」

「は~い」

「なんでボクが?」


 リルナの掛け声にルルは楽しそうに返事をしたが、ハーベルクは疑問の声をあげる。尤も、彼は狩人ではなく料理人だ。ここで待っているのが正解なのだが――


「乗りかかった飛行船って言うじゃない! 一緒に行こうよっ」

「飛行船に乗りかかるもあるか! おい、こら、離せ!」


 そんなハーベルクの襟首をむんずと掴み、リルナとルルは歩き出した。もちろん、ハーベルクはズリズリと引きずられていく。


「がっはっは! ワン公、両手に花じゃねーか!」

「これのどこが!? ボクは料理人で狩人じゃないワン!」


 人間社会に溶け込んでいるコボルトは、少しだけ不幸属性が染み付いているのかもしれなかった。

 そのまま東側の門までくると、リルナはハーベルクを解放。さすがにここまで来ておいて抵抗するのも諦めたらしく、大人しく同行することになった。


「コボルトって軽いのね。力も私より無いんじゃない?」

「うるさいなぁ。それが種族的限界なんだ。モンスター共に良いように使われるより、個人として認めてくれる人間の方がマシなだけさ」

「そうなの?」


 リルナはルルに聞いてみる。ルルは森羅万象辞典を開いて、リルナに見せた。


「コボルトは最弱の蛮族であり、大抵は他の蛮族の手下になっています。酷い時は奴隷扱いだとか。ハー君のように、人間社会に逃げてくる者も多いですよ」

「ふ~ん。逃げてきたの?」

「……ボクの名前はハーベルク・フォン・リキッドリア13世だ。これがボクのオキュペイションカード」


 彼は誤魔化すようにエプロンのポケットからカードを出した。


「あれ? 本当に冒険者なの?」

「いや、カーラさんから貰ったものだ。彼女が冗談で作った物だが、一応正式に認められている」


 リルナはカードを受け取り、検める。

 そこには、サブ職業に料理人とあり、レベルは5となっていた。それ以外は書かれておらず、本来の職業欄は空白になっている。


「料理人レベル5……これって強いの?」

「料理人としてレベル5だ。戦闘スキルじゃないよ」


 それでも戦えないことはないのか、ハーベルクは腰のベルトにぶら下がっているナイフの位置を整えた。


「急に協力的になった」

「ブヒーモスは高級な肉だからな。料理人としても無料で手に入れたいものだ。そのチャンスがあるのだから、頑張るのは当たり前だろ」

「ふ~ん……ところで、ブヒーモスがいる森ってどこ?」

「……知らないで東門に来たのか?」


 ハーベルクは呆れたように、ガックリと肩を落とした。そんなハーベルクの代わりにルルが説明してくれる。


「ここから1時間くらい歩いていった所に、『紫の森』と呼ばれる場所があります。狩人の皆さんや依頼を受けた冒険者が良く行く場所ですよ」

「ルルちゃんは何でも知っているねっ」

「えへへ~」


 ルルは森羅万象辞典を掲げながら笑った。

 きゃっきゃと笑う少女二人。

 こんなメンバーで果たしてブヒーモスを狩れるのか。普通のブタでさえ危ういのではないか、と思ったハーベルクは大きくため息を吐くのだった。


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