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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その10 ~シティアドベンチャー・王子様騒動譚~

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~シティアドベンチャー・王子様騒動譚~ SIDE召喚士 9

 黒い服装をした人と話をしていたという情報を加えて聞き込みをした結果、リルナとルルはとある美術館に目星を付けた。

 サヤマ城下街は比較的新しい街である為に、商業施設の乱立は珍しくない。加えて美術館という芸術方面の施設は貴族や裕福な商人などが訪れる切欠となるために、比較的簡単に行政の許可が出ている。

 なにか新しい悪事を働くとすれば、悪くない隠れミノだ。それを後押しするように、盗賊ギルドからの情報もあった。

 美術館へと向かう道すがら、前を歩く商人が落とした一枚の布。ハンカチかと思われたそれは、本当にただの布切れではあったが、そこには黒い墨で『美術館』と書かれていた。リルナが手に入れた情報も、盗賊ギルドは手に入れたのだろう。より核心に近づいたふたりはゴミ箱に布を捨ててから美術館へと移動した。

 クリューセイド美術館。

 入口に共通語で看板に刻まれていた。入場料は大人が1ギルで、未成年は500ガメルとなっていた。


「クリューセイドって何だろう?」

「人の名前じゃないかな~」


 試しに、とルルは鞄から森羅万象辞典を取り出して調べてみる。しかし、クリューセイド、という物は存在しないらしく、やはり固有名詞であるらしかった。恐らくオーナーか館長の名前だろう。


「入ってみる?」

「そうですね~」


 朝から営業しているようで、ふたりは入口でお金を払って美術館の中へと入る。2ギルをリルナが支払い、受付を通る。白い壁に赤い絨毯が敷かれており、豪華な様相がリルナとルルを迎えていた。


「お姉さんは普通っぽい……」


 受付の女性に怪しい様子はない。むしろ、普通過ぎる印象であり、およそ王子様を拉致した一味とも思えなかった。


「普通っていうのが一番怪しいです~」

「う……そうかも?」


 そう言われると、何もかもが怪しく見えてしまう。リルナの目は良く、感覚も鋭いので、盗賊の才能はあるといっても、それはスキルだけ。人を見る目は、少しばかり訓練が必要のようだ。

 ひとまずリルナとルルは美術館の中を見ていくことにした。ふたりとも美術館は初めてだったので、他と比べて怪しい箇所は分からない。巨大な絵画や彫刻が展示されている通路を歩きながら周囲をうかがっていく。残念ながら冒険者と学士見習いに芸術に感動する暇あ与えられなかった。

 それでもルルに思うところはあったのか、リルナの袖を引っ張る。


「ねぇねぇ」

「ん? 何かあった?」

「あんなに大きくないよね~」

「う……なに見てるのよ、ルルちゃんっ」


 男性の裸の絵の局部を指さしてるルルの手を慌てて引っ込めさせて、リルナは少し頬を染めた。


「芸術だよ~。恥ずかしくないよ~」

「そうだけどぉ……」


 意識してしまうとどうにも顔をあげられなくなり、リルナはスタスタと進んでしまう。ルルは一応とばかりに怪しい場所や絵がないかチェックしてから移動していく。

 先に進んでいくと開けた場所に出た。広く空間が取ってあり、周囲の壁に絵画が展示されていた。中央の柱には休憩用にとベンチが用意してあり、そこには先客と思われる二人の姿があったのだが、その内のひとりが何故か完全武装しており、加えてメイド服の女性という非常に目立つ存在だったので、思わず目がいってしまう。

 もちろん、それは知り合いだったからこそ、かもしれない。


「メロディ!」


 思わずあげてしまった声は館内に響いた。控えていたスタッフがリルナをぎょろりと睨み付けたのは、王子様誘拐事件の犯人だからではなく、単純に大声を出したリルナへの注意だろう。


「リルナ……め、珍しいところで会うものじゃな。まさか芸術に興味があったとは」


 ベンチに座っていたメロディは立ち上がり、リルナに声をかけるのだが……その目は少し泳いでいた。視線の先はメイド長。何か言いたげなニュアンスが含まれていることにリルナは気づく。

 加えて、リルナもリルナで誘拐事件を追っている。そのことを詳しく敵陣内で話せるわけもなく、さてどうしたものか、とルルへ視線を送った。

 そこでお互いに事情アリと伝わったのだろう。メイド長が進言した。


「姫様、遊んでいられる時間は多くありません。リルナ様もメローディア様の邪魔をされては困ります。さっ、芸術への見分はここまで。次へと参りましょう」

「そ、そうじゃな。どうじゃ、リルナとルルも妾の勉学に付き合わぬか? 冒険の役に立つやもしれぬぞ?」

「そ、そうだねっ。たまには座学も悪くないし、学士見習いのルルだったら何か手伝えることがあるかも」

「は~い、任せてください~」


 話はまとまった、とばかりにメイド長を先頭にして歩いていく。一応は美術館の指定通りのルートをたどり、美術館の外まで無事に脱出することができた。少々怪しかったかもしれないが。

 そのまま商業区の人ごみに混ざりながら雑談をしながら歩く。


「尾行はありません。大丈夫です」


 ある程度歩いてきたところでメイド長がそう判断し、リルナとメロディは大きく息をついた。一同はそのまま雑踏の中で雑談を交えつつ会話を進めていく。


「何があったのじゃ?」

「王子様誘拐事件。メロディもそれを追ってるの?」

「いや、妾たちは別の誘拐事件じゃ。あの王子様がさらわれているのを知ったのは今朝じゃな。どうやら誘拐された人間は複数おるらしい」


 そこでリルナたちは情報を交換しあう。やはり、あの美術館が怪しいという事実は変わらず、商業区を適当に歩きながら今度は美術館の裏手へと回った。路地を抜け、できるだけ姿を隠しながら移動していく。


「美術館の中に怪しい場所や不自然さはありませんでした。となると……」


 メイド長の先導で移動していく。どうにもメイドらしくないと思っていたが、盗賊スキルに長けているようで、ただただ歩いているだけで、不思議と誰にも見つからずに路地を移動していった。


「やはり美術品の搬入口が怪しいです」


 メイド長が立ち止まる。その先は路地の中でも少し開けた通りになっており、人の姿は無いものの、日差しが差し込んでいた。建物の角からメイド長がうかがう。その先には、美術館の裏口があり、なんとも重厚な扉が設置されていた。大きさから考えて美術品の搬入口に利用されているのだろうが、盗難防止にしては不自然なほどに入口との差異があった。裏口の扉と比べて表の入口が非常に貧相なのだ。どう考えても不釣り合いになっている。


「怪しいといえば怪しいし、怪しくないと思えば怪しくないのぅ」


 メロディのつぶやきにリルナもうなづく。もし、通りがかっただけならば、盗難防止策としか思えない。しかし、美術館が怪しいとなれば、すでに裏口は魔界の門にも思えた。


「問題はどうやって入るか、だねっ」


 破壊する方法は不可能に近い。ただの盗賊団のアジトを襲撃するのであれば、力技としてそれでもいいが、残念ながら拉致被害者がいる。王子様たちの身の安全を考慮すれば、扉の破壊は論外だ。加えて、美術館の内部からの侵入もすでにできない。

 さてどうするか? 盗賊ギルドに頼ろうか? と、リルナとメロディ、ルルが後ろで相談しているとき、屋根の上から声がかかった。


「よう」

「誰っ!?」


 リルナたちが見上げる先、そこには彼女たちの見知った人物が見下ろしていた。


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