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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その10 ~シティアドベンチャー・王子様騒動譚~

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~シティアドベンチャー・王子様騒動譚~ SIDEお姫様 7

「朝になってしもうたか……」


 明るくなっていく空を見上げながらメローディア姫はつぶやいた。拉致事件を追って夜を通して情報を集めていたのだが、真夜中での捜索は上手くはいかない。加えてメイド長の過保護が発動し、冒険者ではなくお姫様として扱われたメロディはお城へと引き返して仮眠をとった。

 少ない睡眠でも充分に動けるように訓練されているメロディは、適度に目を覚ますとヴァルキリー装備で身を固めて待機していた。

 母親がまだ冒険者をやっていた頃の装備をメロディ用にリメイクしたそれは、彼女の体に寸分狂うことなくフィットしている。もっとも、お姫様の成長に合わせてリメイクを繰り返す前提だった。

 道具や武器、防具の等級は通常品が最低ランクとなり、その上がマジックアイテムになる。そこに加えて作られた時代でも分けられる。ひとつ前の時代、神様たちが地上を跋扈していた時代を『神代』と呼び、その時代で作られた物を『神代級』と呼ばれている。マジックアイテムでも、かなり強力なものばかりが神代級にはそろっており、冒険者の憧れでもあった。

 さにそのひとつ前の時代は『旧神代』と呼ばれており、この時代の道具や武具は現在の技術では再現が不可能な代物ばかりだ。なにせ、どんな物質で構成されているのかも分からない。どういう原理で発動するのかも分からない。そういった失われた技術が使われているのが旧神代の特徴でもある。

 それとは別に『伝説級』と呼ばれるものがあり、その代表がリルナやサクラが持つ『倭刀』だ。正式名称は『タイワ刀』というらしいが、その名称はサクラが覚えているだけで失われている。この伝説級と呼ばれるものは、実はポンポンと遺跡から良く発見される。ともすれば、神話級よりよっぽど見つかるのだが、その委細がすべて伝説や伝承で伝わっているものが、そう呼ばれている。

 いわゆる伝説の武器、に当たるのだが、その形状や威力には微妙に違いがあったり、使いこなすのは難しい。加えて、まったくの魔法的な力を有しない。マジックアイテムでは無い、通常品である。また加工も難しく、複製することが技術的に不可能な代物ばかりで、扱いに困ることが多い。換金するとなれば莫大な値段が付くのだが、そんな金額は用意できない店ばかりなので買い手がつかず、捨てるには惜しい上に改良もできない。

 そんな悲しい扱いを受けているのが伝説級の道具たちだった。


「ふむ」


 メロディは手甲部分で胸を覆う鎧をカツンと鳴らす。

 彼女の装備するヴァルキリーシリーズは神話級に当たる。オートガードや軽さなどは旧神話級や伝説級にも匹敵するのだが、その魔法的システムや加工法は現在技術でも扱えるため、等級で表すならば『神話級』の鎧となる。

 身分には相応の装備だが、実力には相応としていない装備だ。冒険者になりたい、と宣言しメイド長の反対も押し切ってまで成った彼女に与えられた防具だった。いつの間にかこっそりと作られていて、母親のお下がりということに感じ入るものはあれど、逆に信頼されていない証でもある。


「仕方のないことじゃな。そもそも学校にも行っておらんし」


 メローディア・サヤマとしては特例の冒険者だ。正式な手順は踏んでいない。そんなところも、過剰なる過保護な防具を与えられた結果かもしれない。加えて、ロングソードしか買えなかった自分のおこづかい事情。なんともチグハグな冒険者ができあがってしまったという訳だ。


「リルナには感謝じゃな……ん?」


 母親が見つけてきた面白いルーキー、として出会った少女を思っていると、そんな彼女が所属する宿の店主が廊下を過ぎ去っていくのが見えた。


「カーラ?」


 隻腕の店主がいそいそと廊下を歩いていくのを見てメロディは後を追う。すぐに女王の私室へと遠慮なくノックして入っていった為に、はしたなくもお姫様は絵本にでてくるおてんば姫の真似をした。


「何をしておいでです、姫様」

「……メイド長か。相変わらずタイミングの悪い。妾は今、聞き耳の修行中じゃ」

「剣士や騎士には不必要なスキルですね。どれ?」


 ふたりは耳をぺっとりとドアに付けて中の音を聞き取る。廊下を歩いてきた政治担当のおじさんがビックリしてお姫様とメイド長を見るが、いつものことか、と諦めて自分の仕事に戻っていった。


「――聞こえたか、メイド長?」

「えぇ、問題なく」

「すごいのぅ。妾は少ししか聞き取れなんだぞ」

「ですが、急ぐ必要がありそうです」

「うむ」


 ふたりはドアから離れると急いで外へと向かった。部屋の中から聞こえたのは、スクアイラ王子が誘拐されたらしい、というカーラからの情報だ。サヤマ女王の唸る声は、どうあがいても王子様への恨み。余計な外交的負担をかけてくる不愉快な相手への憎々しい声だ。


「このままでは母上が王子を殺しかねないぞ」

「違いますよ、姫。ここで考えられるのは、私たち追っている拉致事件と王子誘拐の犯人が同じであろう、ということです」

「おぉ、なるほど」


 ポン、とメロディが手を打った頃には、ふたりは城内を後にして衛兵をねぎらいつつ、急いで神殿区にたどり着いていた。


「で、何か情報は手に入ったのか?」

「決定打ではございませんが」


 一応は、とメイド長は申し訳なさそうに答えた。


「なに。妾では手に張らなかった情報だろう。メイド長はその肉体があるからのぅ」

「色仕掛けは使っていませんよ?」

「嘘をつけ」

「なぜ姫に対して嘘をつかねばいけませんか! 私がメローディア姫に嘘を言うとでも!」

「……お主のその妾に対する無駄な情熱は何なのじゃ?」

「愛です!」

「時折、妾の本当の母は、実はメイド長なんじゃないか、と思うのじゃが……違うのか?」

「幸いなことに血がつながっておりません」

「……幸いなことにお主が女で良かったと思うぞ。メイド長が執事ならば、妾の貞操はとっくに散っておるじゃろう」

「確かに!」

「否定せんのじゃな……この事件がいち早く解決したら、一緒に風呂に入るとしよう」

「はい喜んで! という訳で、犯人を特定しましたわ、お姫様!」


 うむ、と頷いてメロディは情報の開示を促す。


「どうやら最近、真夜中に黒ずくめの集団が動いているようです。彼らは夜な夜な、大きな荷物を移動させているようですね」

「明らかに怪しい集団ではないか」

「いえいえ、それが怪しくはないんですよ」


 どういうことじゃ? と、メロディは聞いた。


「普段から真っ黒な衣装を身にまとっている人は、夜中であっても同じ格好で動いている、と思われても不思議ではないでしょう。神官がいつも同じ服であるように」


 神殿区で見渡せば、白い神官服を身にまとった信者たちが掃除に勤しんでいる。彼らはいつも同じ神官服を着ており、それを怪しいと思う人は一人もいない。

 それと同じように、いつも黒い服を着ている人が、真夜中に黒い服で移動していても何ら不思議ではない。


「なるほどの。で、その荷物というのは?」

「展示物を運び込む、という名目でガラガラと大きな荷車を引いていてもおかしくはない、ですね。それが連日ともなると、非常に不思議ではありますが」

「展示物?」

「見たことありませんか、貴族の家などで。大きな絵画や彫刻された像です。大きい作品は価値が高いですから、一般の方は滅多に見ることはできませんが。あと、ウチの女王様はまったくといって良いほどに芸術に興味がありませんからね~」


 私もありませんが、とメイド長は付け足した。メロディもそれに習うように頷く。


「つまり、それが犯人という訳か。動機は分からぬが、それこそ状況証拠だけでも発見できたら十分じゃろ」

「ですね。まずは行ってみましょう」


 メロディとメイド長は、神殿区から移動する。

 推定犯人の元へ。

 商業区へと、足を向けるのだった。


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