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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その10 ~シティアドベンチャー・王子様騒動譚~

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~シティアドベンチャー・王子様騒動譚~ SIDE召喚士 8

 情報収集は冒険者にとって基本的かつ最重要ポイントでもある。

 知っていること、知らないこと、それが存在するのは当たり前ではあるが、知らなかったでは済まされない状況もある。たとえば、モンスターや蛮族の生態や行動、知能などは頭に入れておかなければならない。バッタリと遭遇してしまった時に、相手のことを知っているか、知っていないかで、対処の仕方はまるっきり変わってくるだろう。

 といったことから、冒険者の学校では情報の収集方法も教えてくれる。ひとりぼっちでは生きていけないのが冒険者。住民からも色々と話をして信頼も得なければならない。


「あ~……」


 とは言え、娼館の並ぶ繁華街での情報収集はお子様なリルナにとって刺激が強すぎたらしく、また聞く相手が酔っ払いばかりとあってか、スクアイラ王子の行方は不明のままだった。

 夜が明けてしまった空を見上げて、中央通りのど真ん中で不甲斐なさを後悔していたのだが、このままではいずれ馬車に轢かれてしまうので、しばらく呆けたあと移動を開始する。

 しかし、どこへ移動しようかと迷っているとルルが商業区側からやってきた。彼女は冒険者とは違って一般人だ。普段は夜通しで給仕のアルバイトをしているが、さすがにリルナに付きっ切りでは体力がもたないだろう、と休憩してもらっていた。


「おはよっ、ルル。眠れた?」

「おはようございます~、リルナ。あんまり眠れなかった~」


 不安で眠れなかったというより興奮で眠れなかった、と学士見習い。王子様誘拐事件、とセンセーショナルな内容だけに、ルルの興味は尽きないらしい。


「情報はもらえた~?」

「ん~……あいまいな話ばっかりだけど、総合すると南に移動したっぽい」

「みなみ?」


 ルルはつぶやき、リルナと一緒に南へと向く。そこにはサヤマ城が見え、朝日をあびて真っ白に輝いていた。


「いっそのこと、女王さまに報告したほうがいいんじゃ……」

「王子様ごと誘拐犯を薙ぎ倒しそう~」


 ルルがケラケラと笑うが、リルナもそんな気がして苦笑する。


「サヤマ女王には、カーラさんが報告に行ってるよ~。今朝、出て行った。あ、そだ。これ、カーラさんからおごりだって」


 ルルは持ってきたカバンからサンドイッチを取り出す。たまごがたっぷりとシャキシャキなレタスとチーズ、ハムがはさんである。朝食メニューの内のひとつだ。


「わーい、やった」


 朝食は屋台で食べようか、と考えていたリルナだが、サンドイッチが届いたことに素直に喜んだ。なにより、昨夜から食べておらずお腹がすいてきた頃。手近なベンチに座って朝食タイムとなった。

 サンドイッチをもふもふと食べて少しぬるくなってしまった甘い紅茶を飲んで朝食を終了させたとき、ふと商人と思われる男性が近づいてきた。


「いやいや、これは龍喚士のリルナさんではございませぬか。聞けば荷物の運搬もその魔法でできるとか」

「はい。保管しておく場所さえあれば一応はできますけど……今は忙しくて依頼は受け付けてないんです」


 ごめんなさい、と素直に謝っておく。その言葉を聞いて商人の男も残念そうに唸るが、それでもとリルナに紙を一枚手渡した。


「もしよろしければ連絡をお待ちしますね。それでは」


 男はにっこりと笑って去っていった。その姿はすぐに角を曲がり見えなくなる。コネは大事よね~、とリルナは受け取った紙を広げると、そこには商人に対する情報ではなく、簡潔な一文だけが記されていた。

「夏の神殿に王子様……?」


 しかも共通語ではなく神代文字で書かれており、リルナは目をパチクリとさせる。


「あ、盗賊ギルドの情報だよ~。王子様の目撃情報」

「そっか。え~、普通に渡してくれたらいいのに。わざわざ神代文字で書かれてるし……」


 一般的に世界で使われている共通語は、ほとんどの人間が読み書きできるが、神代文字となると冒険者でも限られてくる。訓練学校でみんなが座学や基礎訓練に費やす日々を、すべて神代文字習得に明け暮れていたリルナは辟易とその文字列を見た。


「一般人には秘密だから~」

「隠れてるのも大変なんだね」


 思い出そうとしても、いまいち思い出せない先ほどの商人の顔に、またひとつ盗賊ギルドの恐ろしさを感じつつ、リルナとルルは『神殿』の文字を頼りに南へと移動した。

 北門からお城までまっすぐに繋ぐ中央通り。そろそろと商人や冒険者でにぎわってきた通りを歩いていく。住民区と商業区を隔てる道でもあり、商業区からはわらわらと冒険者が出てくるし、住民区からは店を開けるために住民が出てくる。かっぽかっぽと商人の馬車や乗り合い馬車が移動し、街がどんどん活気づいていった。

 しかし、南に進むにつれて段々と静かになっていく。もちろん、店があり冒険者もいるのだが、その声のボリュームが下がっていく。そして、サヤマ城の前方に建ち並ぶ神殿区に入ると完全な静寂に包まれていた。遠くに聞こえる喧噪が嘘のようにも思える空間は、なんとも清々しく清涼感が溢れている。真っ白な神殿ばかりな上に、ゴミひとつ落ちていない美麗な道だからかもしれない。

 そんな神殿区の朝は掃除から始まるらしく、各神殿の前をほうきで掃いている神官が多い。同じような神官服のせいで見分けはつかないが、それぞれ神様に仕える神官たちはお互いに挨拶しながら落ちているのか落ちていないのか分からない塵を丁寧に掃除していた。

 そんな神殿の立ち並ぶなか、リルナたちが訪れたのはバルドル・スヴァローグ神を祀る神殿だった。火と炉の神様として有名で、鍛冶師に信仰されることも多く、ドワーフが大勢住む南の大陸では特に信仰されている。その為、南のシューキュ島は年中を通して気温が高く夏が続いている。


「お~……」


 普段は冒険者と断絶されているので近寄れないのだが、今のリルナは普段着のまま。防具を付けていなければただの少女であり、神殿にお参りにくる人々に交じって中へと入った。神殿の造りは、どこもほぼ同じで最奥に神様の像があり、その手前に教壇がある。その手前には椅子が並び、真ん中は通路となっていた。


「立派な筋肉です~」

「たしかにっ」


 バルドル神の像は筋骨隆々の男性だった。威風堂々と仁王立ちする像は、頼もしくあり信仰する理由としては、分かりやすい。安心感を抱かせる神様ではあるのだが、彼がどんな風に神官に声をかけてくるのか、少しだけ気になるリルナだった。

 そんな風に、他の信者とは違った行動をしていたからだろうか、神官のひとりが声をかけてきた。女性神官であり、すこし高齢であり、優しい雰囲気が満ちている。ちょっと油断したらお母さんと呼んでしまいそうな雰囲気をまとった神官だった。


「なにか、御用でしょうか?」

「あ、はい。実は――」


 自分が冒険者であることは秘密にしておいて、リルナとルルはスクアイラ王子の目撃情報を神官に聞いてみた。


「あぁ、その方でしたら確かに見ましたよ」

「ほ、ホントですかっ?」


 えぇ間違いなく、と神官はうなづく。


「エルフの方って目立つでしょう。あまり見かけないものですから、記憶に残っています」

「どこへ、どっちの方向に歩いて行ったとか……知りませんか?」

「どこへ向かったのかは知りませんが、神殿区を見物されているようでした。他の神殿の方にも聞いてみたらどうでしょうか?」

「そうですね……ありがとうございますっ」

「バルドル神さまの加護がありますように」


 女性神官にお礼をつげて、リルナとルルは外へと出る。その後、いろいろと神殿に入っては神官に話を聞くのだが、空振りが多い。情報があったとしても目撃情報だけで具体的な行方は分からず仕舞いだった。


「う~ん……情報が増えないね」

「困りましたね~」


 リルナとルルは神殿区に設置されたベンチに座って、がっくりと肩を落とした。荘厳な雰囲気のある神殿と、真っ白に輝くサヤマ城が見える中で、ふたりは休憩とばかりに息を吐いた。


「ねぇねぇ、お姉ちゃんたち」


 ふと、そんな声をかけられてリルナはお城に向いていた顔を正面へと戻す。そこには小さな神官がいた。年齢は五歳くらいだろうか、神官服を着た少女が声をかけてきた。


「あらら~、かわいい神官さんです~」


 ルルは少女神官の頭を撫でてやる。そして、お布施です~、と彼女にガメル硬貨を渡した。神殿では孤児の保護もおこなっている。そうした内のひとりだろう。リルナも彼女の生活に彩りを添えるべくガメル硬貨を手渡した。


「はい、どうぞ。あ、そうだ。神官さま、エルフの王子様を見かけなかった?」

「エルフ?」

「そうそう。金色の髪で、耳がこうピーンってなってる人」

「見たよ~!」

「え、どこでどこで?」

「あっちの方で、黒い服の人とお話してたよ」


 少女神官の指さす方角は商業区だった。そして何より新しい情報が手に入ったことに加えて、もしかしたら犯人に近づいたかもしれない。

 ざわり、と浮足立つ心を抑えて、リルナは改めて少女にお金をほどこす。ガメル硬貨ではなくギル硬貨を手渡し、少女神官が信仰する神様に全力でお礼を言うと、ふたりは早速とばかりに目撃情報を追うのだった。


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