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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その10 ~シティアドベンチャー・王子様騒動譚~

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~シティアドベンチャー・王子様騒動譚~ SIDE召喚士 7

 冒険者になる上で、一昼夜を通して行動を続けることは訓練されている。もちろんリルナはその訓練を受けているので、夜中に情報収集を続けることは苦ではなかった。しかし、それは通常の場所での話。


「う、うわぁあぁぁあ」


 娼館の中でだと、そのパフォーマンスはがた落ちになってしまい、真っ赤になって耳を覆った。なにせ、隣の部屋から色気のある女性の切ない声が聞こえてくるのだ。未経験者のリルナとしては、知りたいような知ってはいけないような、微妙な気持ちが混ぜ合わさり、結局のところ拒絶する、という行為になってしまっていた。


「リルナちゃんも良い年齢なのに~」


 部屋の主たるサヤマ城下街ナンバー1の娼婦、リリアーナはのほほんと頬に手を添えて真っ赤になるリルナを不思議そうに見た。休憩中という話だったが、今まで仕事をしてました、といった感があふれる姿であり、娼婦の仕事らしく全裸だった。神代の絵画に残ってそうな姿は有翼種の証である白い翼と傷ひとつない、美しい肌。彼女こそ神の使いたる天使だ、といっても反対する人は小児性愛者くらいなものだ。


「お給料いいんですか?」

「ん~、人気がある子は充分もらえるけど~、あんまりな子はふつうに働いているほうがいいわよ~」


 娼婦だからといって無条件で生きていける訳ではない、とリリアーナはルルに語る。未だに蛮族だ、と差別の残る有翼種や獣耳種。リリアーナも、何かしら苦労があったのかもしれない。


「ルルちゃん、ここで働く気……?」

「私じゃ無理そう。経験ないしぃ」

「あら~。初めての子は歓迎されるわよ~。リルナちゃんもどう?」

「ふ、不特定多数はちょっと、遠慮しますっ」


 リルナは勢いよく首を横にふった。きもちいいのに~、とリリアーナは残念がる。そこでようやく服を着始めた。しかし、それは服というにはあまりにも機能を果たしておらず、うすく透けている素材は、彼女の大事な部分を隠そうと努力をしている様子はない。裸とそう変わらない服に、リルナとルルは息を飲むしかなかった。


「それで何の用ですか~? お客さん? 女の子の相手は経験がないけど、がんばります!」

「が、がんばらなくていいです……えっと、ここにスクアイラ・リュースっていう王子様みたいな人、来ませんでした?」

「エルフの人です~」


 リルナの言葉にルルが補足する。その言葉に、リリアーナはうんうんと頭を右に左と揺らせて記憶をたどった。丁度二往復する頃に思い出したのか、あの人ね、と手を合わせて顔をほころばせる。


「あ、やっぱり来てたんだ」


 心の中でリルナは、ビンゴ! と喜ぶが、遊び人だなぁと王子様の評価をちょっとだけ下げた。


「見学に来たらしくてぇ、遊んでは行かなかったわ。なんか偉い人みたいな感じで、一応挨拶しとけって言われたから~、挨拶したわ」

「何か言ってましたか~?」

「う~ん……エルフは無駄にプライドが高くて困る、とか言ってました。エルフの女性も娼婦になり、男を迎え入れるべきだ、みたいなこと言ってましたね~。私も賛成しましたぁ」

「で、でも、エルフって気を付けないと赤ちゃんができちゃうんじゃ……」


 ニンゲンやドワーフ、有翼種や獣耳種と違い、エルフは種族特性によって妊娠をコントロールできない。それ故に人数は少なく滅多にお目見えできない人たちになっていた。


「あ、そっか~。残念ですぅ」

「でも、種族間では子供はできないから大丈夫じゃないかな~」


 エルフ娼婦危険説をリルナが提唱したのに対して、ルルは種族間での子供ができない理論を推した。ニンゲンとエルフ、ドワーフとエルフ、といったように異種族との間には子供ができない。ただし、有翼種と獣耳種との間には何例か子供ができた実例はある。詳しいことは世界中の人間が知らないのだが、基本的には子供ができないと考えられた。


「なるほど~。って、いやいやエルフさんが娼婦になるとかならないとか、今はどうでもいいから。王子様よ、王子様っ。いつ王子様はここに来たの?」

「確かぁ、朝でしたよ~。王子様に挨拶してから寝ましたから、まだまだ早朝に近い時間でした~」


 恐らく、スクアイラはイフリート・キッスを訪れたあとに繁華街を訪れている。その情報だけでも無いよりマシだ、とリルナとルルはお礼を言った。

 と、その時――


「おお、さすがは街一番の娼婦だ。オマケに二人の少女も付いてくるとはな」


 がっはっは、と豪快に笑いながら男性冒険者が部屋へと入ってきた。どうやらお客さんらしい。


「それじゃぁ、いっちょ頼もうか――」

「ぎゃああああああああああ!」


 冒険者が服に手をかけたところで、リルナは悲鳴をあげて逃げ出した。ルルは興味津々で見学を続けるが、ダッシュで戻ってきたリルナに首根っこを捕まれ、そのまま引きずられていった。


「ふははは、元気なお嬢ちゃんだ。冗談なのにな」

「ふふ。ささ、旦那さま。どうぞこちらへ」


 リリアーナの甘い声にさそわれ、部屋の中は甘美な空気が漂い始めるのだった。

 外へ出た二人の少女は、その後も繁華街で聞き込みを続け、真夜中に差しかかる頃には、一旦イフリート・キッスに戻り、状況報告と盗賊ギルドからの情報をまとめる。その後、短いながらも朝まで休息を取るのだった。


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