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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その10 ~シティアドベンチャー・王子様騒動譚~

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~シティアドベンチャー・王子様騒動譚~ SIDE召喚士 8

 コンコンコン、と三度ノックすると、中から女性の声が聞こえてきた。どうぞ、という声に従いルルはドアを開ける。どうやら一番良い部屋のようで、ドアの向こうは大きく広がっていた。いわゆるスイートルームに、リルナは感嘆の声を漏らしそうになり、口を結んだ。今は貧乏性を発揮するタイミングではない。


「うわぁ、すごい部屋~」


 隣でルルが緊張感なく呟いたのを見て、リルナは感嘆の息を飲み込んでため息を漏らす。後ろからキョロキョロと部屋を見渡す学士見習いの背中を突っついた。


「あの、あなた方はもしや……」


 入ってきた二人をメイドさん達は見つめる。記憶力の良いメイドは、二人が冒険者であることに気づいたらしく、すがるような瞳を向けてきた。

 リルナとしては、少しばかり重い視線。助けるつもりだが、期待に応えられるかどうかは不明なので、その視線から目をそらせた。


「状況を聞きに参りました~。とにかく情報を教えてください」


 後ろに控えるリルナとは違い、ルルは堂々とメイドさんに質問する。その言葉で、二人を記憶から呼び戻せなかったメイドさんたちも、二人が王子様の助けになる、と判断した。


「何でもいいので、教えてください」


 リルナの言葉にメイドさんが頷く。


「と、言っても……ほとんど分かりませんが」


 そう前置きして、メイドさん達は口々に情報を話してくれた。

 まとめると、今朝一人で出かけたスクアイラ。目的地はイフリート・キッスだったのだが、このときはメイドたちに断りを要れず単独行動だったらしい。今朝、一番早く目が覚めたメイドさんは、すでにベッドの上が空っぽだったと証言した。

 出かけたと分かった理由はメモ書きが残されていたから。


「これです」


 と、一枚の紙を渡してくれる。

 リルナとルルが見ると、シンプルに『出かけてくる。みんなは待っているように!』と、共通語で書かれていた。エルフ語ではニンゲンであるメイドさんたちには読めないから、なのかもしれない。


「またスクアイラ様の悪い癖が出たのかと思ったんですが……」

「悪い癖?」


 メイドさんの呟きに対して、リルナは質問する。


「時折、夜中に抜け出しては一人で遊ばれるのです。大抵は、その……女性絡みですが」


 メイドさんの困ったため息。

 それに合わせて、リルナとルルも、あぁ~……、と応えるしかなかった。


「それでもお昼頃に戻られるのが常でした。今日みたいに夕方まで……もう夜になってしまいましたが……戻られないのは初めてです」


 なるほど~、とリルナは呟く。


「盛り上がってる可能性は~?」


 と、聞いたルルのわき腹をリルナが肘で突っつく。


「王子様が探してたのはメロディじゃない。出会えてないよっ!」

「あ、そっか~」


 逆に盛り上がってたら大変だ、とリルナは頭を抱えた。


「良く分かんないけど、外交問題? みたいな感じ? えっと、ほら。王子様とお姫様だし。もし本当なら女王が今頃……」


 今頃、王子様を殺してるよっ、という言葉をリルナは飲み込んだ。ありえそうで怖かったので。


「あ、あの……スクアイラ様は無事なんでしょうか?」


 メイドさん達の一番の心配事。それはもちろん、王子様の命だ。彼に仕えているのに、本人を誘拐されました、では国に帰れる訳がない。いくらエルフの国とは言え、ニンゲンであっても母国は母国だ。


「はい、頑張りますっ!」


 リルナはそう答える。気休めは無意味だと、メイドさん達を見て思う。すでに王子様はなんらかの事件に巻き込まれているのは確実な状況だ。例えそうでなくても、心配されている時点で、もう心は一杯だ。

 だからこそ、リルナは真っ直ぐに答えた。

 頑張ります、と。


「よろしくお願いします」


 リルナの言葉に、メイドさん達は一斉に礼をした。豪華な広い部屋でたくさんのメイドさんに礼をされる、という貴族みたいな体験に、リルナとルルは思わず一歩だけ引いてしまったが、それでも一言だけ答えた。


「はいっ!」

「はい~」


 二人は腰を折り続けるメイドさん達に礼をしてから宿を出た。すっかりと夜も更けており、暗闇に街が沈んでいる。


「……次はどうする?」

「情報収集~」

「ということは……歓楽街?」


 うん、と頷くルルに、リルナは少しだけ嫌な顔を浮かべた。いわゆる大人の街であり、少女の寄り付くところではない。


「でも、王子様行ってそう……」


 リルナはため息を吐きつつ、ルルと一緒に煌びやかな大人の世界へ急ぐ。歓楽街は昼夜逆転した場所であり、今が本番という感じだった。

 冒険を無事に終えた冒険者たちが闊歩かっぽして歩き、命の無事を生命誕生の儀式によって祝う場所。もちろん、それには酒も不可欠だ。酒場と娼館が入り乱れた赤とピンクの世界が広がっていた。


「る、ルルちゃんは平気なの?」

「なにがですが~?」


 平気っぽい、という感想を心に秘めておいて、リルナはなんでもないと首を横にふった。

 そんなリルナたちの様子を男たちは見ていくのだが……すっかりと名声だけは上がったリルナだったので、無駄に声をかけられる様子はない。

 ただし、


「よぅ、龍喚士ちゃん。遊んで行くかい?」


 と、からかわれてしまう。

 そんな声に半笑いで対処しつつ、薄い布をまとっただけのお姉さん達に驚きつつ、通りを歩いていくと、目当ての建物に辿り着いた。


「女神の微笑み亭……ここだ」


 知らない場所は、知っている人に頼ればいい。ということで、サヤマ城下街一番の娼館にやってきた。


「こ、こんばんわ~……リリアーナいます?」


 入り口に誰もいなかったので、リルナはそのまま受付のカウンターまで進んだ。そこには人なつっこそうな青年。およそ娼館に似つかわしくない雰囲気に、少しばかりドギマギしつつ、リルナはリリアーナの所在を聞いた。


「あ、姐さんのパーティの人でよすね。リリアーナ嬢は……っと。丁度休憩時間です。どうぞ、二階の部屋にお通りください」

「……」

「どうしました?」

「あ、いえ、なんでもないです」


 娼館に顔パスが通じるって、女の子としてどうなの!? という何だか良く分からない気持ちを遠くに放り投げ、リルナとルルは二階へと上がる。途中、なんだか聞いちゃいけない艶やかな声を聞きつつ、真っ赤になったリルナは逃げるようにしてリリアーナの部屋に飛び込んだ。


「あら~? リルナちゃんじゃないですか~」


 飛び込んだ先。

 豊満な肉体を隠しもせず、まるで天使のような翼を広げたリリアーナの裸体。張りのある美しい艶姿を見て、リルナは何故か悲鳴をあげたのだった。


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