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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その10 ~シティアドベンチャー・王子様騒動譚~

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~シティアドベンチャー・王子様騒動譚~ SIDE召喚士 7

 すっかりと夜に包まれたサヤマ城下街。しかし、商業区にはまだまだ活気があった。冒険者たちからすれば、今からが一日の本番なのかもしれない。

 通りを行き交う人々を見ながら、リルナは考えを巡らせる。やるべきことは情報収集。やってはいけないことは、誘拐事件を嗅ぎ回っていると犯人に知られること。


「犯人……って、複数犯かな?」

「そう思いますよ~」


 ルルはノンキに答える。その視線はキョロキョロと街中に向かっているが、気にする冒険者はいなかった。今ではすっかりと有名になったリルナと、店主が有名なイフリート・キッスの従業員が夕飯場所を探しているようにしか見えなかった。


「え~っと、えっと……あぁ~、こういう時はどうしたらいいかなんて、学校で習ってないよっ」

「そんな時はリルナちゃん。犯人の気持ちになって考えればいいんですよ~」

「犯人の気持ち?」

「うんうん」


 ひとまず、二人は人の流れに乗って移動することにした。いつまでも同じ場所にいては目立ってしまうからだ。落ち着いたとはいえ、未だにリルナをパーティに勧誘する者もいる。そんな人たちに捕まってしまう前に、人の波にあわせて歩き始めた。


「ルルちゃんなら、どうする?」

「観察する~」


 観察か~、とリルナは頷いた。誘拐したい対象を捕まえる第一歩、と言えた。相手を知らなくてはとても誘拐なんかできない。


「じゃぁ、あとは尾行かなっ」


 観察して尾行。あとは誰も見ていないチャンスを待って、捕らえるだけ。簡単なように思えるが、難しい犯行であるのは確かだ。


「王子様を運ぶには、何か大きな荷物に紛れさせるとかかな~」

「あ、そうだね。運ばないといけないのか……じゃぁ、犯人は商人のフリをしていたとか?」

「決め付けるのは、よくないよ~」


 ルルのその言葉に、リルナは奇妙な唸り声と共に頭をガシガシと掻いた。頭脳労働は苦手というのをアリアリと証明してみせたあと、諦めたようにルルを見る。


「……前面的にルルちゃんに任せます」

「ダメだな~、リルナっち」


 すいません、と謝るとルルはくすくすと笑った。


「それでは、まず情報収集と夕飯にしましょ~。こっちですぅ」

「ゆ、夕飯?」


 食べてる場合じゃないんじゃない? なんて思いながらも行動をルルに任せた手前、文句は言えないリルナ。ちょっぴり不安を覚えつつもルルに着いていくと、昨日と同じ場所に辿り着いた。


「そっか、海風の翼亭だ」


 商業区から居住区へ移動してきたせいで、少しばかり夕飯時とズレた為か、レストラン内はほとんど空っぽ状態だった。

 昨日と同じウェイトレスさんに案内されて、テーブルの席につく。適当な注文をしたあと、しばらく待つと料理が運ばれてきた。


「どうぞ」

「ありがとうございますぅ。あ、ウェイトレスさんウィトレスさん~」

「はい、なんでしょう?」


 ルルは呼び止めたウィトレスさんにギル硬貨を一枚お盆の上に置いた。


「昨日の王子様なんですけど、誰か見張っていたりしませんでしたか~?」

「……いいえ、そんな様子はありませんでしたわ」


 こっそりとしたルルとウェイトレスさんの会話に、リルナも耳を向ける。


「じゃぁ、何か変わった様子とか~」

「ん~、派手に注文されてましたけど、支払いも滞りなく……お金持ちって羨ましいって思ったくらいですかね」


 どうやら昨晩は何も問題は無かったようだ。


「王子様が帰る時、どっちに向かってました?」


 リルナもこっそりと訊ねる。


「それでしたら、宿に泊まるそうで……確か、『ワルツ・ソーラー』に泊まっているとか聞こえましたよ」


 情報提供と料理を運んでくれたお礼を言って、ウェイトレスさんを解放する。ちょっぴり遅くなってお店に人に怒られては大変だ。


「……で、ルルはどうしてそんな交渉術を覚えたの?」


 盗賊ギルドや、先ほどのお金を握らせる方法。アカデミー志望の学士見習いとは思えない手際だった。


「カーラさんに教えてもらいました。あと、情報を売る側でもありましたから~」

「売る側?」

「冒険者の宿って、いろんな情報が聞こえてくるので」


 なるほど、とリルナは頷く。

 冒険を終えて、上手いエールと美人の顔を見ながらの一杯。ルルもそこそこ可愛いので、ついつい口が緩んだり、自慢話に花が咲くのだろう。そんな情報を、ルルはそれなりに持ち合わせているらしい。


「次はワルツ・ソーラーっていう宿だね。ルルは知ってる?」

「知ってますよ~。こっちです」


 食事を手早く終わらせ、ルルに案内されて辿り着いた宿は、それなりに高級感のある宿だった。冒険者の宿ではなく、普通の宿。ただし、貴族御用達、のような雰囲気があり、リルナは少しばかり立ち入るのを躊躇した。


「お、おおぅ……高そうな宿。こんなのあったんだ……」


 さすがにメロディの実家には敵わないが、それでも相応な豪奢ぶりは外からでも感じられる。まず宿を取り囲む塀の上に施された柵。ただの柵なのに所々に彫刻が施されていた。これを持ち込むだけでそれなりの値段が付きそうなくらいだ。

 ルルは慣れたように遠慮なく宿へと入る。リルナはおっかなびっくりと後ろから着いていった。中も綺麗で足元は絨毯で覆われている。天井からぶら下がった大きなランプには、絢爛豪華な飾りつけがされており、否応にも光を反射して壁をキラキラと照らしていた。


「いらっしゃいませ。お嬢様方」


 キョロキョロとするリルナと、堂々としたルルに対してカウンターの男性が声をかける。身なりはキッチリとした黒の正装で固められ、貴族的な雰囲気をかもし出していた。


「スクアイラ・リュースさんに言われて来ました~。こちらにお泊まりと伺ったのですけど」


 上手い、と内心でリルナはルルを褒める。顔はしきりに、うんうん、と嘘ではないですよ~と縦に往復していた。


「スクアイラ様のお使い……でしょうか?」

「遊び相手です~」


 ルルは、今度はお金を渡さず、にっこりと笑う。遊び相手、という言葉にリルナは感付き、赤くなった表情で、またしても顔を縦に往復させた。


「あぁ……それでしたら、二階の奥の部屋でございます。ただ……」

「ただ?」

「スクアイラ様はまだ帰られておりません」

「あらら~、約束してたのに破るなんてヒドイですぅ。ねぇ?」


 ルルに話を振られたリルナは慌てて首の上下運動。


「え、えと、あ、あの、朝からいないの?」

「そうですね……早朝に出かけられたままです。彼のお付の方々はずっとおられるのですがね」


 少し困った感じで、彼は二階に続くと思われる階段を見る。つられて、リルナとルルも階段を見た。


「ありがとうございました~。メイドさんに話を聞いてみます」

「あ、ありがとうございましたっ」


 お礼を言ってから、リルナはルルの後に続いて二階の奥を目指した。


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