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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その10 ~シティアドベンチャー・王子様騒動譚~

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~シティアドベンチャー・王子様騒動譚~ SIDEお姫様 5

 サヤマ城下街の東側は商業区となっており、店が立ち並ぶ。冒険者の街らしく、武器や防具店が多く、製作する工房も店の数ほど存在した。また冒険者の店も商業区に配置されている為に、治安はあまりよろしくない。

 そもそも冒険者とは荒くれ者が多く、一般民から見れば蛮族と変わらない。と、言い切るほどの意見もあり、毛嫌いしている人も中にはいる。依頼として利用するだけで、後は近づいて欲しくない、と考える人も多い。例外は国を救った英雄ぐらいなものだ。


「ふむ……パトロールとして見てみると……ここは厄介じゃな」


 商業区のメイン通り。多くの商人たちがこぞって出店するメインストリート。そこには冒険者の数は多く見受けられた。皆、アイテムを買い求め、冒険に出る準備をしている。依頼を受けている者、遺跡を探す者、未知の領域を目指す者、とさまざまなパーティがひしめきあっていた。

 多くの冒険者が動くとなると、やはり少なからずとも事件は起こる。ふつうに暮らす一般人でさえそうなのだから、冒険者ともなると言わずもがな、だった。


「姫様、あちらに」

「うむ」


 どうやら揉め事が起こっているらしく、メロディとメイド長は人だかりに突撃する。


「そこまでじゃ! 何があった?」


 背中に『パトロール中』の旗を付けたお姫様が乱入したとあっては、揉め事も中断せざるを得ない。どうやら肩が当たっただの当たってないのと単純なケンカらしく、パーティ同士で揉めていたようだ。


「うむ、状況は分かった」

「姫様、こいつになんとか言ってくださいよ!」

「はぁ!? 言うのはそっちだ!」


 と、再び揉めだす男に向かって、メロディは両手を広げてストップさせた。


「ごめんなさい、じゃ」


 は? と、空気が固まる中、お姫様は続ける。


「いいから謝るのじゃ。ごめんなさい、とは無敵の言葉じゃ。これを言われると、相手は何もできん。言葉が通じる同士の手段じゃがなぁ。残念ながら頭の悪い蛮族には通じぬ手じゃ」


 メローディア姫の言葉に、男たちは口を結ぶ。

 彼女の言葉は、暗に頭の良い人間ならばそれで治めよ、という意味だ。ごめんなさい、に対して許せないというのは、蛮族並の愚かさを示す。と言っているようなものだった。


「ご、ごめんなさい……」

「ごめん……なさい……」

「うむ。落着じゃな。ほれ、何をしている。こんな所で無駄な時間を費やした遅れを取りもどせ。さっさと冒険に出て一歩でも英雄に近づくが良い。見ろ、妾を。冒険者なのにこんな罰を受けておるぞ」


 背中の旗を指し示すメロディ。お姫様なのにそのマヌケな姿は、さすがに同情的だったのか、毒気を抜かれた冒険者たちは早々に目的地へと向かうのだった。


「お見事です、メローディア姫」

「ふっふっふ。どうじゃ見たか、妾の口車を」


 えっへん、と胸を張るお姫様の頭をメイド長は撫でるのだった。


「この調子で参りましょう」

「うむ!」


 その後、ほぼケンカや揉め事の仲裁をした二人は、午前中を商業区で過ごす。午後になれば冒険者の数は減り、それに伴って揉め事や事件はすっかりと静かになった。屋台で鳥のから揚げを食べてから、今度は西側の住民区へと移動した。

 冒険者であるメロディは住民区にほとんど用が無かった為に足を運ぶことが無かった。商業区とは違って、静かで落ち着いた午後の空気に少しだけキョロキョロと周囲を伺う。


「う~む、この場違い感はなんじゃろぅな」

「事件とは無縁そうですね……」


 冒険者が冒険に出かけた後の午後。旦那は商業区で働いている中、住民区に残っているのは女性と小さな子供ばかり。時折、子供がはしゃいでいる声が聞こえるが、それ以上のことは何も無かった。


「まぁ、罰じゃしな。何も無いからと止める訳にはいかんじゃろう」

「何も無いのは平和の証でもありますからね。いずれはこの街もメロディ様の物。統治なされていると考えると悪くはありません」

「なんか悪い響きが見え隠れしとるような気が……」


 メイド長の思惑に不穏な気配はあれど、それはいつも通りとメロディは諦める。背中に旗を背負った珍しいお姫様、と子供に囃し立てられながらも住民区のパトロールを続けた。

 住民に困ったことや問題などを伺いつつ歩いていくが、やはり事件などはなく平和そのもだ。そうこうしていると、そろそろと日も陰ってきた。最後に子供たちの集団に出会ったメロディは、ベタベタと鎧を触ってくる子供たちに質問する。


「何か変わったことはないか?」

「変わったことってなぁに?」

「そうじゃな。いつもあるのに、今日は無い、とかそんなことじゃ。いつも優しい母上が、今日に限ってすごく怖かった、とか。何か無いかのぅ」

「あ、それならね! あるよあるよ! キーユ君が今日はいないの」


 そうだね~、と子供たちは声をそろえる。


「キーユ君がいない……とは、どういうことじゃ?」

「いつも遊んでるんだけど、今日は遊びに来てないの~」

「風邪でも引いたのかもしれんな。よし、キーユ君の家を教えてくれ。妾がお見舞いに行こうぞ。で、お主らはもう帰るのじゃ。母上が怒って夕飯を取り上げてしまうかもしれぬ」


 は~い、と元気に返事する子供たちとメイド長。お姫様はツッコミをいれずスルーした。

 家へ帰る子供たちに教えられて、キーユ君の家へと辿り着いたメロディとメイド長はノックをしてみる。


「……留守でしょうか?」


 返事は無い。試しに入り口である木のドアを押すと、ゆっくりと開いた。家の中は暗く、シンと静まり返っている。


「すまぬ! 誰かおらぬか!」


 メロディが声をかけるが……それでも返事は無かった。


「失礼するぞ」


 と、声をかけてから家の中へと入る。玄関口から見えるのは台所。その奥に部屋があり、夕日も入らぬ部屋は真っ暗だった。

 遠慮がちにその部屋に入ると、中は散乱としていた。掃除が行き届いていないのではなく、まるで暴れたような跡。


「これは……」

「姫様!」


 メイド長が部屋の隅に駆け寄る。そこには一人の男性が気を失って倒れていた。加えて、その手足は縛られ、口には布が噛ませて有る。


「……事件じゃな」

「えぇ」


 夜へと染まり始めるサヤマ城下街。

 メロディは背中に背負っていた旗を投げ捨て、男性の介抱へ急ぐのだった。


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