~お使いクエスト~ 2
相変わらず酒の匂いが漂う1階。今日も今日とて、冒険者達がカーラさんを肴に真昼間から酒を飲んでいるらしく、賑やかなものだった。
そんな中、リルナはカウンターを飛び越え、キッチンに突撃する。
「ハー君っ!」
キッチンの真ん中で何やらゴソゴソとしていたコボルトに声をかけた。
「うわ、びっくりした!」
突然に声をかけられ、ハーベルク・フォン・リキッドリア13世の肩が跳ね上がる。幸い料理中では無かったので、大事には至らなかったが、もし火でも扱っていれば危なかったかもしれない。コボルトだけに火が体に燃えうつっては大変だ。
「ど、どうしたの?」
「それはこっちの台詞っ!」
地団駄を踏むようにしてハーベルクのもとに近寄ると、リルナは今にも泣きそうな声で訴えた。
「わたしはご飯が食べたいのよっ! 果物じゃなくて肉! ミート! この際、魚でもいいわ。なんでないのよぅ!」
「あぁ、そのこと?」
ごめんね、とばかりにハーベルクは苦笑する。
「実は朝から団体客が来ててさ、全部出しちゃったんだよね」
「団体客?」
「そう。長い遠征から返ってきた冒険者ご一行さま。かなり儲かったらしく、じゃんじゃん料理を持ってこいってさ。それで材料がなくなっちゃって」
「え~、ちょっとぐらい残ってないの?」
リルナがそう訴えるが、ハーベルクは頭を振った。ついでとばかりに指をさした先には鉄製の大きな箱。どうやら食料を保存する為の収納箱らしいが、今は扉が開いていて、中身が空っぽだということをアリアリと証明していた。
「あ、いた~。リルナちゃん、ダメだよ。ここはキッチンでハー君の仕事場なんだから」
ルルが追いかけてきたらしく、注意を促す。
「仕事してないじゃんっ」
「それは理不尽だよ。今から材料を買出しに行くところさ。仕事をしていない訳じゃぁない」
まぁまぁ、とリルナをなだめるようにハーベルクは苦笑する。彼が用意していたのは、ちょっと大きめの買い物鞄だ。
「カーラさんから100ギルを預かっているから、これで肉を買ってくるよ」
ハーベルクが持ち上げた麻の袋は重そうな雰囲気。その中にはギル硬貨がたっぷりと詰まっていた。
「どれくらいかかる?」
「さぁ、どれくらいだろう? 少なくとも夕飯までには帰れるだろうね。どこか別の食事処でも行って来なよ。何も所属の店で食べなければいけないルールなんて無いんだから」
もちろんレストランや別の冒険者の店でも食べることが出来る。所属している冒険者の店だからといって割引サービスもないので、気に入った店で食べるのが一番だ。
「え~。だってハー君の料理って美味しいんだもん」
「そう言ってもらえると、料理人としては嬉しいんだけどね」
ハーベルクは照れるように、人間でいうと頬の部分を指で掻いた。蛮族とは言え、人間と生活していると仕草も変わってくるのかもしれない。
「良かったら買い物についてくるかい? リルナのリクエストでも聞こうじゃないか」
「ほんと!?」
「あ、じゃぁ私もついていく~。カーラさんにお願いしてくるねぇ~」
料理が出せないのなら、ルルの給仕の仕事も無いだろう。案の定、あっさりと同行の許可がでる。なにより、コボルト一人では荷物の持てる量が限定されてしまうので、人数は多い方が良いのだろう。
リルナとルルは、ハーベルクの買い物を手伝うことになった。
「お買い物クエストってところねっ」
「冒険の依頼じゃなくてただのお店の買出しだけどね」
「お買い物~、おかいもの~」
少女二人とコボルト一匹。
お買い物クエストの始まりだった。




