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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
冒険譚その10 ~シティアドベンチャー・王子様騒動譚~

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118/304

~シティアドベンチャー・王子様騒動譚~ SIDEサムライ 1

●サクラ(212歳)♀(♂)

 旅人:レベル90 剣士:レベル4

 心:凄く多い 技:凄く多い 体:多い

 装備:倭刀『クジカネサダ』 サムライの鎧 サムライの篭手

 ぷっかりと浮かんだ白い乳房の間に頭をおさめて、サクラは広い湯船の中に体を浮かべた。湯煙の中に見えるは、赤い柱と木の天井。聞こえてくるのは、とめどなく追加される贅沢なお湯。その合間に、ときおり聞こえてくるのは、少しの嬌声。

 お湯の中で浮かぶサクラを受け止めている魅惑で請惑な肢体はリリアーナ・レモンフィールドのもの。有翼種たる白い天使の翼は、湯に濡れたところでちっとも美しさに影響しなかった。


「……やっぱり風呂はええなぁ~」


 浮かんでいた体を沈めてすっぽりとリリアーナの体におさまる。傷と呪いだらけのサクラの体は、白く美麗なリリアーナの体に覆われた。

 のんびりと、ノンキな入浴タイム。川での水浴びとは違って、やっぱり心が休まり癒されるのはお湯だとサクラは確信した。

 手のひらで掬い上げると、もちろん零れていく。トポトポと水音を立てて湯船に吸い込まれた水の球は再びお湯の一部となった。


「毎日来てくれてもいいんですよ~」

「それはええんやけどなぁ。あんたを半日独占するんに100ギルも払っとったらすぐに財布が空っぽになってまうわ。ん~、風呂だけでも入れへんもんやろか」

「さぁ~」


 少しばかり赤くなったサクラの耳をリリアーナはぺろりと舐めた。


「ひゃうんっ!」


 不意打ちだったのか、サクラが嬌声をあげる。大浴場でそんな声をあげれば、もちろん響き渡るわけで。ただでさえサヤマ城下街ナンバーワン娼婦のリリアーナは注目を集めるというのに、そのリリアーナとなぜか超仲良く戯れている謎の黒髪少女の百合光景だ。色々と日ごろの鬱憤を発散したあとの殿方を更にパワーアップさせたことは否めない。


「ん~、ステキな光景ですね~」

「ウチにとっては悪夢やけどな……」


 元爺が色目で見てくる男共の重力に逆らう一部をゲンナリと見つめたところでお風呂から出ることにした。

 その後、リリアーナによって体を拭いてもらい、服を着させてもらう。その様子があまりに堂々としているので、どこかの貴族であったかのような光景だった。


「また遊びに来てね~」

「儲かったらくるで」


 着替え終わり、髪を乾かしてもらうとサクラはリリアーナに別れを告げる。彼女専門の部屋から出ると、ゆっくりと息を吐いた。


「お疲れ様です、姐さん!」

「またお越しくだせぃ!」

「ん。ほなまたな~」


 従業員たちの挨拶を受けながら外へ出ると、まだまだ午前中という時間。歓楽街は人通りがほとんどなく、まばらな風は吹き荒ぶばかりだった。


「ん~……豪華やった」


 冒険者の宿を夜に抜け出し、予約していたリリアーナと遊びに遊ぶ倒すこと夜通し。程よい気だるさに包まれながら、少しの太陽の光が痛くも感じた。


「いや、レナンシュか」


 腕に巻きついた木属性の呪い。それが締め付けるようにサクラを非難していた。契約という名前の呪いに苦笑しつつ、サクラは歩き始める。

 目指すは商店が並ぶ区画。サヤマ城下街の商業区であり、街で一番無骨な一角だ。


「やっぱ風呂はいるわなぁ」


 サクラは呟く。

 冒険者の宿『イフリート・キッス』の所属料金は500ガメルという破格を通り越した値段だ。その理由は一階の酒場が有り得ないほどの売り上げを叩き出しているお陰だった。加えて、所属できる冒険者は女性のみ、という条件もある。

 冒険者のパーティ制と相まって、イフリート・キッスに所属するにはそれなりに厳しい条件である。女性ばかりのパーティは、やはり稀有なのだ。

 元男であるサクラも、一応は女性であり所属できている。他のパーティや、リルナ、メロディを性的な目で見たことは一度もなかった。サクラの本来の趣味から懸け離れているからだ。リリアーナの元に通っているのも、一種のデモンストレーションのようなものだった。

 そんなサクラには、不満があった。

 風呂が無い。

 イフリート・キッスには、簡易的な桶に水が溜めてあるだけで水浴びすら不能な状況だった。その事態にサクラはそろそろ我慢が限界にきていたのだ。


「風呂がほしい」


 宿の主であるカーラに相談したが、難しいそうだ。それは常にお湯を沸かし続けるコストよりも手間がある。誰か一人が必ず番をしないといけない。それは贅沢な人間の使い方なわけだ。


「新しい仕組みがいるなぁ」


 そこでサクラは思い立った。

 無いのなら、作ってしまえばいい、と。

 それには、職人の手がいる。剣の腕がいいだけの無骨者には出来ない、専門家の力がいる。

 だからサクラはここを訪れた。


「邪魔するで~」


 カランコロンとドアベルが来客を告げる。すこしばかりくたびれた外観とは違って、中は所狭しと武器防具類は並べられた店。

 武器防具店『リトルヴレイブ』。


「ほいほ~い。あ、サクラちゃんじゃない。今日はどんな用事? 剣はいらないだろうから、新しい防具かな? それとも補助装備? そ・れ・と・も、えっちな道具かな~?」


 サクラよりも小さな身長で、店主であるマイン・リューシンはくひひと笑った。


「えっちな道具が近いな」

「え、マジで!? ごめんだけど、実は扱ってないのよね。なんなら私を買ってくれる? 高いけどね~」

「そやな。800ギルでええか?」


 サクラはギル硬貨が詰まった袋をドンと勘定台へと投げ置いた。


「ちょっとウチに買われてもらうで」

「え……えぇええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 いつもは驚かす側のリトルヴレイブの主人の驚く声が、珍しく響き渡るのだった。


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