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召喚士リルナのわりとノンキな冒険譚  作者: 久我拓人
幕間劇

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幕間劇 ~リルナ、実家へ帰る~

 ダサンの街からサヤマ城下街へ帰る道から少しばかり反れた先。真っ直ぐに続く商人たちが利用する街道から舗装もされていない横道へ移動した先にあるのは小さな村だった。

 集落よりは大きく、村というよりは小さい。そんなのどかなゆっくりと時間が流れるような村の名前は『ミヤオヤーマ』。

 その意味は、山神に仕える者、という意味らしいが今となってはその山は見当たらず、どちらかといえば森に仕える者、というほうが正しいかもしれない。ミヤオヤーマのすぐ隣には深い森があり、住民たちはその恩恵を受けてくらしているのだから。


「いらっしゃいませ……って、なんだリルナか」


 そんなミヤオヤーマで唯一の雑貨屋の入り口をくぐると、店主である女性がにこやかに迎えてくれたのだが、それが娘だと分かると途端に営業スマイルを打ち消した。


「た、ただいま……」

「なんでもう帰ってきたのさ。この嘘つきめ」


 リルナと同じ茶色い髪は後ろで結い、一房が長く垂れている。美人ではないが、店主として朗らかな表情を浮かべた姿はそれなりに若くも見え、少しばかりリルナと似た表情である今は母親らしいとも言えた。身長はあまり高くなく、リルナが小さい理由がありありと見て取れた。

 お店であることのようにエプロンを付けており、少しばかりくたびれたエプロンから年季の長さを伺える。しかし、店内の雑多な商品は新しい物が多く、それなりに儲かっている証でもあった。


「だって近くだって言ったら二人が寄ろうって言ったから……」

「二人?」


 お店の入り口でニヤニヤとしたメロディとサクラ。親子対面の姿というのは、他人から見れば少しばかり楽しいイベントの一つだ。


「えっと、一緒に冒険者をしてるサクラとメロディ。二人とも剣士で、あとメロディはサヤマ女王の娘で、お姫様だよ」

「あらあら、リルナがお世話になってるわね」


 と、リルナの母は二人を店内へと招いた。


「リルナの母のルナイ・ファーレンスよ。よろしくね」

「よろしく」

「うむ、よろしくな」


 差し出された手を、サクラ、メロディの順に握手する。その後、ルナイはサクラの瞳をのぞきこんだ。


「な、なんや? ウチは別に、お宅の娘さんに何もしてへんで?」

「本当かしら?」

「ホンマホンマ。大丈夫やから、安心してや」


 サクラは苦笑しながら両手をヒラヒラと振った。


「あれは、どういうことじゃ?」


 そんな様子を見て、メロディはリルナに聞く。


「えっと……お母さんの特技で、嘘をついてたり、悪い人を見分けることが出来るんだけど……」


 その言葉を聞き、リルナとメロディはサクラから距離をとった。


「いやいや、ホンマやって。ここ百年は何もしてへんて」


 そんな言い訳をするサクラに対して、ルナイは彼女の頭をガッシリと掴む。


「百年? あんた何者よ。というか、詳しく私に聞かせなさい!」

「あ、いや、なんで、ちょ、ちょっとお母様?」


 ルナイはサクラの頭を腕と胸で挟み込むと、そのままズルズルと店の奥である住居スペースへと引きずり込んで行った。


「リルナ! ちょっと店番お願い!」

「あ……はい……」


 久しぶりに帰ってきた娘より、得体の知れない人間のほうが興味が上。冒険者の嫁らしい行動ではあるのだが、リルナはがっくりと肩を落とす。


「うむ、どこも母上はあんなものだな」

「いや、サヤマ女王と一緒にしないで」

「え!?」


 なんて会話をしつつ、リルナは店番することにした。メロディも初めてのお店屋さん、ということで瞳をひときわ輝かせ、ちょっとしたお買い物に来たおばあちゃんにリンゴをもらったりと、ゆるやかな時間が流れていき、結局は夜になってしまった。


「閉店……と」


 お店の掃除が終わり、入り口に閉店の木札をぶら下げると、営業終了となった。


「リルナ、メロディ、ご飯よ~!」

「は~い」

「わ~い」


 サクラから情報を聞き出すと同時に、どうやら夕飯の支度もしていたらしく、リルナとメロディは住居スペースへと移動する。テーブルには、それなりに豪華な夕飯が並んでいた。


「本当はパパと一緒の予定だったんだけどねぇ」


 ルナイの呟きに、どういう意味、とメロディの視線。


「わたしが冒険者になった理由というか何というか……パパを探して、見つけてくるまで帰って来ないって……」

「家出したみたいやな」

「いや、ママがそういう条件だったらいいよ、って」


 リルナがおずおずと母親の顔を見ると、ルナイはニヤリと笑った。


「それくらいの気概がないと、冒険者なんてやってられないし、大成しないものよ。こんなに早く帰ってくるんなら、パパより婿って言っておいたほうが良かったわ」


 どうなのよ? というルナイの言葉にリルナはブンブンと首を横に振る。ルナイは次いで、サクラとメロディを見るが、二人とも首を横に振った。


「女と枯れた元爺と一緒にいて楽しいもの? ちょっとくらい男を引き入れなよ」

「なんでママがそういうこと言うのさ……」


 はぁ~ぁ、と盛大なため息を吐くリルナに対して母親はケラケラと笑うのみ。そんな二人を見て、サクラとメロディは笑った。


「さぁ食べましょ。せっかくガンバって作ったんだから、美味しいうちに」

「は~い」

「いただきます」

「うむ!」


 その後も、賑やかなルナイと、茶化されるリルナ、過去を暴露されかけるサクラに、お城の内部事情を根掘り葉掘り聞かれるメロディ……と、楽しい夜が過ぎていく。

 結局実家で二泊してから、リルナたちはサヤマ城下街へと帰るのだった。


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