~お子様ダンジョンに挑戦!~ 10
「一文字目、二文字目、三文字目ってことは答えは三文字だよね」
台の上でリルナは、う~ん、と唸り声をあげた。先ほどのなぞなぞとは違って、これはパズルに近い問題だ。直感で導くタイプではなく、ひとつひとつ考えていかなければならない。
「小さな子供? 群れで襲ってくる? 良く分からんのぅ。しかも三文字目を変えても襲ってくるとは厄介じゃのぅ」
「思い詰める、っていうのがヒントやな。しかも一番分かりやすいかもしれんぞ」
サクラの言葉に、リルナは考える。
思い詰めることを三文字で何と言うか。それこそ、ヒントは襲ってくるかもしれない、ということ。
「思い詰める思い詰める……三文字で……え~っと、『一途』かな?」
「いちず、か。なるほど、確かにこじれて襲ってくる奴もおるかもしれんのぅ」
メロディは、あっはっは、とノンキに笑う。
「そうなると……答えはイチなんとか、ってことやな」
リルナは頷いた。ひとつが分かればすぐに答えは導き出せる。少しばかり考えたリルナは考えを口にした。
「二文字目をナに変えるってことは、イナ~、ってことだよね。で、群れで襲ってくるってことは、イナゴだ! よく作物の被害があるって聞いたことあるよっ」
「妾はゴブリンと思っておったぞ」
「お姫様は向いとらへんなぁ」
「イチズとイナゴが分かればもう大丈夫! 答えはイチゴだ!」
部屋のどこからかピンポーンと静かに音が鳴った。次いで、黒のプレートにはなまるマークとよくできましたの文字が記された。
「ちなみに一文字目を削ったら稚児で、小さい子供っていう意味だねっ」
リルナは台から降りると反対側の左の台の上へと乗った。またしてもジャジャンという音と共にプレートに問題が記される。
問題……勇気の無い人はおしゃべり? それとも無口? 答えと理由を教えてね♪
「……急に問題がフレンドリーになってない?」
リルナは思わずドールを見下ろした。
「いやいや、僕が問題を出してるわけじゃないので。僕はあくまで案内人さ。あっと、人じゃなかった、ゴーレムだった。あ、お姉さん」
「なに?」
「ぱんつ見えてますよ?」
「……メロディ」
「うむ!」
メロディは遠慮なくドールを踏み潰した。なにやら、はう~ん、と声を出しながらバタバタと悶えているが、お姫様は遠慮なくドールを踏み続けた。
「今度の問題は二択じゃのぅ。これなら妾にも考える余地があるやもしれぬ」
「今までのも考えてよっ」
「うむ。このままでは妾の頭が空っぽになるかもしれんからな」
メロディはドールを踏んだまま腕を組む。
「おしゃべりか無口か。ふむ、妾は勇気があるし、それなりにしゃべるぞ。そこに理由を見出すわけじゃな……う~ん、批判を恐れぬ勇気があるからこそ、しゃべることができるのではなかろうか? つまり、おしゃべりを続ける勇気!」
ぶぶー、という音がなぜか響いた。
「おいちょっと待て! 妾は回答者ではないぞ!」
メロディが虚空にむかって怒るが、もちろん返答など無い。腹いせとばかりにドールを強く踏みつけたが、あふん、という声が漏れるだけだった。
「あ、ウチは分かったで!」
サクラが右手をシュタっとあげた。それを見てリルナはサクラへ交代するように台から飛び降りる。
サクラは台へと登るとさっそくとばかりに答えを言う。
「勇気の無い人は無口や。理由はそのまんまやな。勇気が無い、つまり、言う気がない、ってわけや」
その答えに、ピンポーン、と静かに響きプレートにはなまるマークとよくできましたが記された。
「これで全部正解したねっ」
その言葉を待っていたように、黒のプレートの文字は消える。すると部屋が小刻みに揺れ、部屋の右側にあたる天井が少しずつ下がってきた。
「あわわっ」
リルナたちは慌てて部屋の左に寄る。右端の天井はゆっくりと床まで下がると、それはそのまま階段になっていた。部屋の奥につれて高くなっており、少しばかり段差の激しい階段だった。
「ここを登るみたいやな」
サクラが先行して階段を登っていく。一段一段が高いのだが、サクラは物ともしないで登っていった。続くリルナとメロディは自分の腰ほどもある段差を両手を使いながらじっくりと登っていった。
登りきると、また部屋が小刻みに揺れて階段が元の通りに天井へ……リルナたちから見れば、床へと戻った。その戻る床にドールは乗っていたらしく、一緒に上へと登ってきた。
次の部屋は狭く、まるで通路みたいな部屋だった。すぐ前には鉄門ではなく木の扉がある。その前にはプレートがあり、共通語で文字が刻まれていた。
「静かな迷路……?」
読み上げたサクラに、ドールは、そのと~り! と声をあげた。
「この扉を中に入ればその先は迷路になっているよ! ただし、この迷路に住む妖精たちはうるさいのが大嫌いなんだ。だから、迷路の中では一切として言葉を話してはいけない! もし、何か喋っちゃったらバツが待ってるよ!」
そう言ってドールは遠慮なく扉を開けた。その先は、今までの閉塞的な部屋とは違って天井は遥かに高く、まるで外のような印象を受ける。
迷路、というだけあって通路が目の前に見える。すぐそこは壁になっているのだが、その壁にはツタが張っており葉が生い茂っていた。
遠くには巨大な木も見えて、天井近くで枝葉を伸ばしていた。まるで植物の楽園のような迷路に、リルナは思わず感嘆の声を出しそうになって口を押さえた。
メロディも同じく口を押さえる。それほどに美しく、綺麗な空間だった。
「さぁ、静かな迷宮へ挑戦しよう!」
ドールの合図と共に、三人は木の扉をくぐる。
その先に待っていたのは、無数の妖精たちの姿だった。




